第7話 sideルーシア8
2066年8月1日13時30分
ジルトレアによるツクヨミタワー襲撃まで、あと30分
「どうやら、嘘偽りない事実のようですね。」
「それじゃあ本当に・・・・・・」
正直、冗談か何かの間違いだと思っていた。
何かの間違いであって欲しかった。
しかし現実は、理想通りには進まない。
「はい。ルーシアさんが先ほどおっしゃっていた通り、あと30分ほどでジルトレアから派遣された5名のS級魔法師を含む105名の魔法師がここにやって来るそうです。」
「あの、どうしてそんなに落ち着いていられるんですか?」
「ふふっ、私はいつかこのような未来が来るかもしれないと覚悟しておりましたから。まぁ、想像よりもずっと早く来ましたけど。」
私の質問に対して、咲夜さんは余裕たっぷりに答えた。とても落ち着いており、全くと言っていいほど動揺していない。むしろ、何事も無かったかのように振舞っていた。
いや、違う。
「どうやら、あと30分ほどで攻撃が始まるようですが、ルーシアさんはどういたしますか?」
「え?」
「これから私たちツクヨミ社は、ジルトレアと交戦状態に入ります。もちろん負けるつもりはありませんが、状況次第ではこのツクヨミタワーを放棄して脱出する予定です。」
咲夜さんから、冷ややかな闘志溢れ出ていた。
それは、勘がそれほど良くない私でもわかるほどわかるほど鮮明に現れており、彼女の周りを流れる魔力は今までに見た事がないぐらいその存在感が増していた。
あの双子の実の母親なのだから、かなりの実力を持った魔法師であるということは予想がついていたが、もしかしたら私の想像以上の実力者なのかもしれない。
そもそも今回の事の始まりは、先日の厄災を引き起こした容疑にかけられている黒白をツクヨミ社が匿っているのではないか、という疑いをかけられたことからだった。そもそも黒白が先日の厄災を引き起こしたという話も、まだ噂の段階なのにも関わらず、ジルトレアはツクヨミ襲撃を決定し、ここツクヨミタワーが襲われることとなってしまった。
私たちの目線からすれば、まだ容疑の段階であるのにも関われらず襲撃を受けるというのは理不尽に感じるが、向こうの立場になって考えれば厄災を引き起こしたかもしれない魔法師を野放しにするというの考えられない話だ。特に、世界の魔法を管理し、人類の守護者として存在しているジルトレアとしては、額に泥を塗られるようなものだ。彼らは、やる時は徹底的にやるだろう。
「もし戦闘になれば、ルーシアさんの生命の保証はできません。ですからルーシアさんは私たちと一緒に来るか、今すぐここを脱出するか選んでください。」
「ここに残るという選択肢もあるんですか?」
「はい。決めるのは貴女です。私は、貴女の意思を尊重します。」
「っ!私は・・・・・・」
てっきり、追い出されると思っていた。
ジルトレアによるツクヨミタワー襲撃、どう考えても異常事態なのだから、部外者である私は追い出されて当然だと思っていた。
しかし、咲夜さんは私に選択肢を与えた。
私をここに残す理由はわからないが、それでも選択肢を与えてくれたということは、何かしらの意味があるということだ。
ならば、私はそれを知りたい。
「私は、ツクヨミ社を信じます。だから、ここに残りたいです。」
「わかりました。では、そのように手配します。」
それから、私たちの逃亡生活が始まった。
*
「今って、どの辺りなんですか?」
「ん~空間を歪めているから分かりにくいけど、だいたい地球から8光年ぐらいってところかな~」
そう解説してくれたのは、健斗の師である藁科結人さんだ。
ジルトレアとの交戦の結果、私たちツクヨミ陣営は地球を脱出し、人類が初めて接触した宇宙人の母星である『ネオルカ』へと向かっていた。私が一生をかけてもたどり着けないほど遠くにある星ではあるが、このツクヨミタワーに搭載されているワープシステムを使い、航行時間を大きく短縮していた。
「さて、そろそろどうして僕たちがネオルカに向かっているかを話そうか。」
「教えて下さるのですか?」
「まぁ、君はどっちにしろ知ることになるだろうからね。どちらにせよ知るのなら、早い方がいいかなって。」
私は即答した。
「ぜひお願いします。」
と。
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どうでもいい話
久しぶりのルーシア視点
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