第6話 罠の利用と活用

 空が、割れていく。

 空間に亀裂が入り、空気が震えた。

 凄まじい密度の魔力が集まると、上空の魔法陣で連鎖を始めた。

 既に魔力は隅々まで行き渡っており、ここからこの魔法を止めることは不可能に近く、俺たちはただ上空を見上げる事しか出来なかった。


「始まった・・・・・・」


「どうやら、想定通りのようですね。」


「うん・・・・・・」


 見覚えのある光景であった。それも、つい先日地球を襲ったあの出来事と、まったく同じことが起きようとしていた。


「全部隊、配置に着きました!ご指示があれば、いつでも攻撃を開始いたします、勇者様!」


「まずは俺が空に上がって敵を間引く、あんたらは俺の撃ち漏らしを処理してくれ。具体的な指揮は任せる。あぁそれと、俺はもう勇者じゃないから、そこんとこ間違えるなよ。」


「了解致しました!」


 俺の指示に対して、顔馴染みの将軍は命令を受諾した。本来なら、俺には彼らへの命令権を持っていないが、おそらくシーナ辺りが融通を聞かせてくれたのだろう。

 本人たちは最前線で戦う気満々であったが、正直なところ近くにいると邪魔なので、サポートに徹してもらうことにした。強いやつは俺とクシナダが担当し、残った雑魚は騎士団のやつらに片づけてもらうということで、効率化を図る。

 クシナダの戦力についてはあまり詳しくは知らないが、機体が無くても多くの優秀な魔法師が搭乗しているので、それだけで戦力になる。しかも、そんな彼らがクシナダに乗ったまま戦うことを選んだということは、機体大だ。一方の騎士団の方の実力は、もちろんしっかりと把握している。彼らならば、UCにも後れをとる事は無いだろう。


「地上の敵は彼らに任せて、俺たちは上空の敵を葬りましょう。茜さんも、動ける範囲で良いので、上空の敵を切り続けて下さい。」


「おっけ〜。できるだけ頑張るよ。」


 茜さんの実力は、映像でしか見たことはないが、元A級魔法師である彼女ならばなんとかなるだろう。何せ、あの地獄の戦争を五体満足で生き残っていること自体が、強者である証だ。しかも、彼女の弟はあの黒白だ。はっきり言って、弱いわけがない。


「クシナダの方は大丈夫ですか?」


『あぁ、別の1つ問題が発生しちまったが、作戦については文句なしだ。おそらく、それが最善だ。』


「お願いします。ふぅ・・・・・・。」


『あ〜悪い、状況が変わった。』


 よし、これで何とかなるだろう。と、ひと呼吸入れた直後、樹さんから待ったがかかった。


「どうしたんですか?」


『乗組員のうちの2人が、戦場に出たいって言ってる。地上の騎士団に、2人加えていいか?』


「誰と誰ですか?」


『お前のお友達と俺の嫁だ。』


 樹さんの言葉から、誰の事なのかはすぐにわかった。

 俺の友達、というのはおそらく六道先輩のことで、樹さんの嫁というのは聖奈さんのことだろう。

 聖奈さんというのは、とても美しい方で、初めて見た時は何処かの女優さんなんじゃないかとすら思った。そしたら、彼女はマジの女優さんらしく、昔はアイドルもしていたそうだ。樹さんとの結婚を機ならアイドルを引退し、今は女優として活躍しているようだ。

 そんな彼女だが、魔法戦闘としての腕も一流であるというのは有名な話で、俺と同じ育成学校東京校の卒業生だそうだ。

 そんな女優が戦場に出て、大丈夫なのかよ、っと思ったが、夫である樹さんが大丈夫と思うなら大丈夫なのだろう。

 また、六道先輩も同様に大丈夫だろう。六道先輩の実力はよく分かっている。


「わかりました。樹さんの判断を信じます。」


『悪い。お守り、じゃなかった2人を任せる。』


「はい。」


 戦場ではあるが、あくまで彼女らの任務は騎士団と同じ雑魚処理なので、直上から降ってくる物にさえ気をつけておけば、重症を負うことはないだろう。


「大丈夫だよ健斗くん、ここはお姉さんに任せなさーい。」


「頼みます。」


 さて、舞台は整った。

 あとは、空中から降ってくる敵を薙ぎ払えば、ミッションは完了だ。せっかく救ったこの世界を、何者かの思い通りには絶対にしない。


「行動開始!」


「「「おう!」」」

「「「了解!」」」


 俺の掛け声と共に、ガラシオル帝国クシナダ同盟チームは、作戦を開始した。

 それと時を同じくして、一体目のUCが上空から姿を表した。

 いったい何と、どう戦っていけばいいのかすら不透明のまま、俺たちは再び戦乱に巻き込まれることになった。



 *



 同じ頃、世界の壁を挟んだ遥か彼方にて



「僕の予想が正しければ、そろそろだね・・・・・・」


「これで、全てがはっきりするんですね。」


「うん。これで、誰が裏切り者なのかわかるはずだよ。最も、僕はあの人が怪しいと思うけどね。」


 何やら怪しげな魔法陣が無数に敷き詰められた部屋の中心で、1人の男が目を閉じながら集中力を高めていた。今から使うのは、世界の壁を超えることのできる探知魔法。

 無数に存在する世界、そして星々から正解を引き当てるため、できる最大限の能力を使って網を張る。


「掛かった。」


「もうですか?!」


「うん。」


「私語は謹んで下さい、ルーシアさん。」


「大丈夫だよ、咲夜。もう捕まえたから。あとは、後を追って座標を特定するだけの簡単なお仕事だから。」


 日夜、人類は様々な魔法を使用しているが、それらの魔法の効果範囲は基本的に地球の大気圏内で完結する物であり、太陽系外にまで影響を与える魔法を放つのは、ワープゲートのような常時開通している物を除けば、年間を通してもその数はほぼ0に等しい。

 だから、予め罠を張っておけば、そこを抜けようとする膨大な魔力に気付くことができる。あとは、その魔法の使用者を特定すれば、裏切り者の正体に辿り着く事ができる。

 もちろん、常人には絶対に真似できない芸当である。だが、この男の前に、不可能な魔法など存在しない。


「・・・・・・どうやら僕は、思い違いをしていたのかもしれない。」


「え?」


 だが、この男を持ってしても、事態は予測できない方向へと動こうとしていた。



_________________________________________

どうでもいい話

予測不可能!

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