第5話 トワトリカ2

「健斗は、どうして私に本当のことを伝えて下さらなかったのでしょうか・・・・・・」


 私の前を進む皇女様は、そのような愚痴を溢しながら宮廷の中を歩き回った。

 健斗からの指示を受け取った私たちは、その指示を実行しつつ、宮廷の各機関を周って指示を飛ばした。住民の避難や防衛網の構築などは、本来皇帝がやるべきことであるが、皇帝よりも戦闘及び戦争の経験が豊富なシーナが人々の先頭に立って、官僚達を動かした。


「せっかく世界を渡ることができる魔法を習得したのなら、真っ先にとまでは言わずとも、できるだけ早く紹介して欲しかったですね。」


 顔は笑っているが、目は全く笑っていなかった。おそらくだが、この世界に戻って来たことを伝えてくれなかった健斗に対して、内心かなりイライラしているだろう。

 そんな彼女の口から溢れ出た疑問に対して、私は自分の考えを伝えた。もちろんその背景には、本人にお願いされたとはいえ、健斗の存在を彼女に伝えなかったことへの後ろめたさが存在する。


「おそらくは、まだ実験段階なのだと思いますよ。」


「実験、ですか?」


「はい。今回彼らが私たちに接触した目的は、『勇者召喚の魔法陣』です。これは、本人たちが交渉の交換材料として提示してしていたので間違いありません。では、何故『勇者召喚の魔法陣』だったのでしょうか。」


 私自身も、『勇者召喚の魔法陣』に興味を待ち、魔法陣に刻まれている魔法を解析してみたいなと思い、皇帝陛下にお願いして調べさせて貰ったことはある。しかし、そこに刻まれていたのは全く理解できない魔法式ばかりであったため、私は途中で研究するのを諦めた、という過去がある。

 研究者にとって、研究するのを途中で諦めると決断するのは悔しいことであったが、そこには理由があった。それは、『勇者召喚の魔法陣』の大部分が空間魔法で占められていたため、そもそも空間魔法が全く使えない私では理解できないという欠点があったからだ。

 そんなわけで、私には『勇者召喚の魔法陣』の研究ができなかった。だが、健斗ならばこれを有効活用したり、この魔法陣から何かヒントを得ることができるかもしれない。いや、むしろヒントを得れるという確信があったからこそ、『勇者召喚の魔法陣』を見たいと要求したのだろう。


「ここからはあくまで予想ですが、彼は必然か偶然かこちらの世界に戻ってくることに成功したのだと思います。ですが、この世界を渡る技術は未だに未完成の物であり、現状の彼は彼の星に戻ることができない状態になってしまっているのだと思います。そこで、『勇者召喚の魔法陣』を利用することで、世界を渡る技術を完成させたいのではないでしょうか。」


「そんなことが・・・・・・」


「これを裏付ける絶対的な証拠はありません。ですが、私のよく知る彼ならば、と考えてしまいます。」


「・・・・・・」


 私の考えを聞いたシーナは、その場に押し黙った。

 情報が少ない分、彼女の方が考えなければいけないことは多いが、彼女ならば私と同じかそれ以上の領域まで辿り着くだろう。


「そして、まだ実験段階であるとしたら、できるだけ姿を隠そうとする理由も生まれます。彼がこの世界を去る時の言葉、覚えてますよね。」


「健斗・・・・・・」


 この世界における俺の役割はもう終わった。魔王が倒されたこの世界に勇者は必要ない。

 これは、彼がこの世界を去る際に言った最後の言葉だ。

 異世界人である彼は、過度にこの世界に関わることを終始遠慮した。

 彼の考えも理解はできる。彼の持つ進んだ技術や文化は、この世界には存在しないものであり、彼がこれらを広めれば、人類の文化や技術に多大な影響を与えてしまう。おそらく彼は、その変化を恐れたのだろう。だから、常に一歩引いた立場をとり、異世界人でいることにこだわった。

 ここで、彼ならばあり得るという考えが頭を掠めた。

 と、ここで、いきなり外部から声を掛けられた。


「失礼します。皇女殿下、御指示の通り、防衛部隊の編成及び配置が完了しました。」


「ありがとう。では、私たちもそろそろ戦場に向かうとします。貴方は先に行って、既に参上している私の友人から説明を受けて下さい。」


「了解っ!」


 そう言い残して、将軍は去っていった。

 どうやら、そろそろタイムリミットのようだ。


「シーナ、とりあえず今は、目の前の魔法陣に集中しましょう。この件が済んだら、改めて健斗に聞けば良いのですから。」


「・・・・・・その通りですね。すみません、少し冷静な判断ができずにいました。」


「大丈夫です。では、彼の元へ急ぎましょうか。」


「はい。」


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 そしてまだ、前作を読んでいない方、とても面白いと思うので、良かったら読んで見て下さい!

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