第3話 来訪者

「まさか、『勇者召喚の魔法陣』を望むとはな。トワトリカ殿は知っておったのか?」


「いいえ、私も知りませんでした。無論、『勇者召喚の魔法陣』の事は伝えてません。」


「となると、我々の知りえないところでこれの情報を手に入れたということか。」


「どうでしょうか。私には何とも・・・・・・」


 トワトリカは、含みを持たせながら、答えるのを拒否した。もちろん真実は知っているが、嘘をあまり付きたくないという性格の彼女は答えないという選択肢をとった。

 健斗と茜が、魔法陣を解析している間、ガラシオル帝国皇帝、シーナ、トワトリカの3人は立ち話をしていた。この立ち話には、二人の監視という意味合いもあり、3人は健斗と茜の手元をじっくりと見ていた。


「では、彼らが、何をしようとしているのかは聞いているか?」


「聞いていません。ですが、変なことはしないと思いますよ?」


「随分と余裕があるのだな。」


「まぁ、この件に関しましては確信がありますから。」


「ふむ、珍しいな、其方がそこまで入れ込むか。となると、この者たちは相当信用ができるものたちなのだな。いや、あるいは・・・・・・。」


 そう言いながら、皇帝はニヤリと笑った。

 彼はその立場上、多くの人々と接触するため、人の特徴を捉えるのが上手い。相手の背格好やちょっとした癖から、誰であるかを推測する能力に長けており、与えられたヒントから答えに辿り着こうとしていた。

 確信には至らないものの、皇帝はとある可能性に行き届いていた。

 直接言葉には出さない、目の前の異世界人への警戒心を一段下げた。あのトワトリカが信用している人物ということは、例え予想が外れていたとしても、信用できる人物であることは間違いない。


「念のため、魔力の動きを追っておきますか?まぁ、私には空間魔法のことはさっぱりなので、例え追ったとしても解析まではできませんが・・・・・・」


「いや、いい。其方と、其方の信じる彼らを信じるとしよう。」


「ありがとうございます、陛下。」


 ガラシオル帝国皇女であるシーナも、皇帝に賛成のようで同じように頷いた。先ほどから何も発言していないが、ただ黙ってじっくりと二人の異世界人の内の背の高い方を眺めていた。


「そんな事より、余は其方と今回の取引で得た魔法の活用法について話し合いたいと考えている。単刀直入に聞くが、其方はこれらの魔法をどのように活用しようと考えている?」


「そうですね・・・・・・。私として、世界各国に普及すべきだと思います。無償でなくても大丈夫ですので、世界全体にこの技術が行き渡るようにお願いします、陛下。」


「ふむ。ただで、とはもちろんいかないが、善処はしよう。」


 リスクとリターン、メリットとデメリットを考えながら、皇帝はそのように分析した。同時に、最も恐れるべきことであるトワトリカ本人が敵に回る事だけはないように判断することを心に決めた。

 その直後だった。

 世界に激震が走ったのは。

 突然、帝都の上空に凄まじい量の魔力が集まり始めた。


「な、なにが起きているのだ・・・・・・」

「何?あれ・・・・・・」

「何・・・・・・?」


 その場にいた全員が、即座に上を見上げた。

 ここは、宮廷の地下なので、目の前にあるのはもちろん天井だが、その場にいた全員がその向こうの異常事態に目を向けていた。

 大量の魔力の収縮、それは大規模な魔法の発動の前兆だ。魔力だけでは、それがどのような魔法なのかを特定することはできないが、魔力の量から魔法の大まかな規模を想定することはできる。

 トワトリカ、シーナ、皇帝の3人は、初めてみる膨大な魔力に恐れおののいていた。今までに見たどの魔法よりも多い魔力に、思考を停止させられていた。

 一方の健斗と茜の反応は、他の3人とは違った。


「嘘、どうして・・・・・・」

「あれは・・・・・・」


 以前、これと同じ規模の魔法をその身で受けた覚えがあるからだ。同時に、その際に受けた被害の規模が脳裏にちらついた。

 二人の頭の中は、同じことを考えていた。

 このままじゃ不味い。

 一番大切なことは、先手を打つことだ。


「健斗くん、作業は一旦後回しにしてクシナダに戻るよ!対応を間違わなければ、被害を最小限に抑えられるはず!」


「はい!」


 健斗と茜が行動を開始するのと同時に、それ以外のメンバーもそれぞれ行動を始めた。

 健斗と茜の二人が勢いよく部屋を飛び出していくと、入れ替わりで外から衛兵が入って来る。


「陛下、異常事態です。今すぐ、安全なところに避難してください。」


「ふむ、わかった。トワトリカ殿とシーナはどうする?」


「私は彼らの後を追います、陛下。」

「私も付いて行きます、お父様。」


「わかった。気を付けて」


「「はい!」」


 そう言って、二人も後を追うように飛び出した。

 その後ろ姿を見ながら、皇帝はぽつりと呟いた。


「やはり、彼か。」


 予想は、確信に変わった。


______________________________________

どうでもいい話

グランツーリスモ、良かった。

アマプラは素晴らしい。

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