第2話 勇者召喚の魔法陣

「ふーん、これが健斗くんの言う『勇者召喚の魔法陣』か~。想像よりもずっと複雑で、余計な魔法式が多いんだね~。」


「そうなんですか?俺には正直さっぱりですが・・・・・・」


「そうだよ~。例えばこの部分、明らかに要らないね。」


「は、はぁ・・・・・・」


 交渉の結果、俺たちは大前提であった『勇者召喚の魔法陣』を見せてもらえることとなった。『勇者召喚の魔法陣』は、一応国宝ということになっているので多少苦戦することも覚悟していたが、案外すんなりとこちらの要求が通り、その日のうちに案内された。

 懐かしの宮廷内の風景を横目に、俺たちは宮廷の地下にある勇者召喚の部屋へとやって来た。ここは、俺がこの世界に呼び出されて、最初にやって来た部屋でもある。部屋に入った直後、そのころの記憶が鮮明に蘇ってきた。懐かしさを噛みしめながら、俺と茜さんは魔法陣のそばで屈んだ。

 俺は、この魔法陣がどういう仕組みなのか全くわからなかったが、茜さんは詳しいようで軽く解説してくれた。

 ちなみに、会話は全て日本語であり、異世界組には一切意味が分からない状態だ。聞かれたら不味いというわけではないが、余分な情報を与えるわけにはいかないので念のため、ということだ。


「こっちの部分も、もっと効率的で簡単な魔法式があるのに採用されていないし、この魔法陣には安全装置がどこにもないから、万が一不慮の事故だったり、座標の固定がずれたりしたらその瞬間お陀仏だね~。この感じだと、多分何回か失敗してお亡くなりになっているっぽいね。」


「マジすか・・・・・・」


 茜さんからもたらされた衝撃の事実に、俺は驚きが隠せなかった。茜さんが嘘を付いているとは思えない。ということは、もし勇者召喚が失敗していたら、俺もお亡くなりになっていたかもしれないということになる。運は悪い方だと思っていたが、思ったよりも良い方なのかもしれない。


【そうよ、貴方は運がいい方よ。】


 びっくりした、いきなりなんだよ、ルキフェル。


【この『勇者召喚の魔法陣』には致命的な欠点があるの。】


 欠点?


【そう、この魔法陣はその代の魔王に対抗できるだけの器を持つ人間を、1人連れてくるというもの。だけど、その選出方法は空間的な距離が最も短い、条件に合う人ということになっている。】


 ん?どの辺が欠点なんだ?


【空間的な距離って部分よ。その星に魔王に対抗できるだけの器を持つ人間がいれば話は簡単なんだけど、いない場合は話は別、この魔法はキャンセルが効かないから、別の星や別の世界から器を持った者を半強制的に引っ張ってくる。これが、どういうことかわかる?】


 まさか・・・・・・


【そのまさかよ。この魔法を受けた勇者候補は、生身のまま空間や次元を飛ぶことになる。そうなれば、普通の人間は耐えられず塵と化すわ。】


 茜さんの話と、ルキフェルの話が繋がった。つまり、これは真実ということだ。

 となると引っかかるのは、異世界からやって来たはずの俺がどうして無事だったのか、だ。

 もちろん、心当たりはある。何を隠そう、ルキフェルだ。というか、ルキフェルぐらいしかこの状況を打開できそうな要因が見当たらない。


【そうよ。私が貴方を守ったから、貴方は無事に世界を渡ることができたのよ。】


 まじか・・・・・・

 今更な新情報に驚きつつ、改めて俺はルキフェルがいてくれてよかったなと感じた。彼女がいなければ、俺はここにはいなかっただろう。


「健斗くんどう?次元転移できそう?」


「あ、そうだった。」


「しっかりしてよね~健斗くん」


『勇者召喚の魔法陣』に頭をもってかれ、本来の目的をすっかり忘れていた俺は、早速魔法陣の解析を始めた。まぁ、解析とは言っても実際に情報を分析するのはルキフェルなので、俺は解析系の魔法で得られた情報をルキフェルに送る。

 目的としては、この世界と地球の座標を特定し、湖で待機中のクシナダに数値を代入することだ。それができれば、あとはクシナダに搭載された空間転移システムに、俺が以前この世界から地球に戻った時の魔法を応用して使えばなんとかなる。というのが、ルキフェルの見解であった。

 無論、『勇者召喚の魔法陣』を使うのは論外だ。この魔法陣は、だいぶ不安定なものらしく、次に使ってももう一度出口が地球になる可能性はほぼ0だそうだ。

 ちなみに、ルキフェル曰く世界というのは動くものであり、以前の魔法を再現すればそれで解決、というわけにはいかないらしい。


 で、どう?


【う~ん、そうね。少し時間はかかりそうだけど、何とかなりそうだわ。】


 おっけぇ、了解。


「何とかなりそうだ。」


「ほんと?!良かった~、この世界で一生を暮らすんじゃないかって、冷や冷やしたよ。」


 流石に俺もそれは嫌だ。


「じゃあとりあえず地球に戻る方法は確立できたとして、ここに来た理由を探さないとだね。」


「理由?」


「健斗くんが言ったんでしょ?ここに私たちを送ったのは結くんだって、ならここに私たちを送った理由があるはずだよ。」


 茜さんがそう言った直後だった。

 凄まじい魔力が、宮廷の上空で凄まじい魔力が弾けたのは。


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どうでもいい話

最近、一話にかかる時間が伸びた気がする。

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