異世界編

第1話 保守派と改革派

「ふむ、観測出来ない魔力、とな。実に面白い。」


「はい、陛下。」


 俺の目の前で、師匠はそのように説明した。

 これは、半分嘘で半分本当の話だ。

 俺たちが異世界人であることは本当だが、陛下やシーナが俺たちの魔力を感じれないのは、単純に魔力を隠蔽しているからだ。茜さんの魔力隠蔽能力は超一流で、俺ですら頑張らないと見抜けないレベルで隠蔽の達人だ。そんな彼女から少し力を借りて、俺たちは偽装することにした。

 偽装する目的はただ一つ、俺の正体がバレないようにするためだ。


「本日は、偶然交友関係を持つことができた彼らを紹介しようと思い、参りました。」


「そこまで言われては、信じるしかあるまいな・・・・・・」


「信じていただき、ありがとうございます。」


 それだけ師匠のことを信頼しているからか、思ったよりも簡単に皇帝陛下は信じた。冷静に考えてみれば、少し無理がある気もするが、皇帝陛下はまんまと騙された。まぁ、半分くらいは本当の話なので、仕方ない気もするが・・・・・・

 一方、皇女殿下の方は、少し疑った様子で俺たちを見ており、完全には信じていないようであった。やはり、そう簡単にはいかない。


「彼らは、我々の知らない魔法や技術を数多く知っており、我々よりも進んだ文明の者たちなのです。」


「未知の魔法に、進んだ技術、か。」


「考えて見て下さい、陛下。我々に、彼らのように世界を渡ることができますか?答えはもちろん否です。我々には、世界を渡るどころか、国を渡る事すらできませんから・・・・・・」


「確かに、余の国の技術力では、到底できる気がしない。いや、世界中の国々の技術力を結集させたとしても、それは不可能だろう。なるほど、確かに其方らは余らの想像を上回る技術を持っているようだな。」


 はっきり言って、この世界の科学と魔法学は、地球よりも遅れている。驚くべきことに、この世界の魔法は地球よりもずっと歴史が長いにも関わらず、遅れている。これには様々な要因が考えられるが、それはひとまず置いといて、俺たちはこの事実をネタに皇帝陛下から温情を貰う予定であった。より進んだ技術を見せつければ、簡単に釣れると思ったからだ。


「どのようにしてこちらの世界に来たのか、其方は理解ができたか?」


「いいえ、陛下。私には空間魔法の奥義と言われている空間転移が使えませんので、理解するのは難しく思います。ご存知ないかもしれませんが、空間魔法というのは通常の魔法とは大きく異なる存在であり、私のような適正の無い人間には、どう頑張っても不可能なのです。」


「そういうものなのか。ふむ、やはりそう簡単にはいかないか。」


「はい。」


 食い付き具合は上々、どうやら興味を持たせることには成功したようだ。

 ここからは、こちら側の手札と向こう側の手札を考えながらとるべき選択を考える。まぁ、俺はこーゆー駆け引きは苦手なので一切参加するつもりはないが・・・・・・


「ですが、空間魔法の技術を得ることはできませんが、それ以外の分野の技術であれば、帝国を含めこの世界で活かせる魔法や技術が多くあるようです。私は、何としてもこれらの技術を手に入れるべきだと考えております。」


「ふむ、それについては、余も興味があるな。新たな技術に新たな魔法、興味がないはずがない。」


 皇帝陛下はそう述べた上で、同時にこのことを恐れた。


「だが、同時に恐ろしくもある。そのような新たな技術や新たな魔法によって、この国の民たちにどのような影響を与えるのか。以前の勇者召喚の際も同様のことを考えたが、私は国を治める者としてそれが恐ろしい。」


 これは、俺が以前勇者召喚を受けた際にも議題に上がった話だ。

 圧倒的な魔力と才能を持つ勇者の存在は、確かに国としてのバランスを大きく変えることができる切り札になり得るが、同時に国家を滅ぼす悪魔にもなり得る。民衆の心が皇帝及び国王から勇者に移ればそれだけで国は割れるし、それに便乗して利益を得ようとする輩が大量に湧いて出てくる。無論、国が割れれば、そこに暮らす人々に多大な悪影響を与えることとなるので、それを避けたいと思うのは自然なことだ。


「陛下のおっしゃることはわかります。ですが万が一、これらの技術が他国にだけ流れたとしたら、その影響は計り知れません。彼らがここにいる以上、技術革新を受け入れるか、否か、我々は決断を下さなければならないのです」


「なるほど、其方の言わんとすることがわかった。これは、其方からの警告なのだな。」


「はい、その通りです、陛下。」


 いつの時代も、このように保守派と改革派が対立するのは当たり前の話であり、俺たちという技術革新の塊のような存在を、受け入れるか否かは議論の種になりやすい。

 ただ、こういう場合のセオリーは既に決まっている。


「であれば、受け入れるしかないな。」


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 どうでもいい話

 1週間ほど空いてしまいすみませんでした。

 再開させていただきます。

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