第17話 前夜
「おかえり、健斗くん。どう?上手く行った?」
「はい、どのくらいの助力を得られるかはわかりませんが、皇帝に会うことはできそうです。交渉次第ではこちらの要求も通るかもしれません。もちろん、この世界に存在しないものまで要求することはできませんが・・・・・・」
「こんなに早く王様に会えるとはね〜。健斗くんは運が良いんだね〜。」
「そ、そうですね・・・・・・。」
運が良いで片付けられる話ではないが、突っ込まないで置いた。おそらく、茜さんは俺のことを配慮してくれているのだろう。せっかく出してくれた助け舟に、乗らない手はない。
とりあえず、師匠の説得には成功した。皇帝への謁見はおそらく達成できるだろう。宮廷から正式なお誘いが来たわけではないが、師匠ならば何とかしてくれるだろう。
仮に出来なかったとしても、湖に潜伏中のクシナダを浮上させて騒ぎを起こせば、俺の望む形ではないものの謁見はできるはずだ。ただそうなると、更なる厄介ごとに巻き込まれる可能性が非常に高いので、できれば避けたい。
「今日はもう遅いので、明日の昼頃に宮廷に行くことになりました。ですので今日は一旦帰りましょうか。」
「おっけ〜。じゃあ今日は宿屋を探して、そこに泊まろっか〜。」
「え?クシナダに帰らないんですか?」
「まぁ、帰るの面倒だし?それに、この星のご飯とかも食べてみたいじゃん?」
「わかりました。それで行きましょう。」
特に問題は無かったので、俺は茜さんの方針に従うことにした。
久しぶりにこの世界の料理が食べたくなったというのもあるが、クシナダに戻ったら状況を説明しなきゃいけないのが面倒というのも理由の一つだ。簡単にボロを出すつもりはもちろん無いが、万が一のことを考えるとこのまま黙っておくのが良いと判断した。
あとは、ガラシオル帝国の人々の監視に見つかる可能性があると言って報告を先延ばしにし、皇帝との話し合いが終わり次第、事後報告すれば有耶無耶にできるだろう。
「すご〜い、美味しそ〜。」
「魔牛の肉のようです。滅多に手に入らない希少な肉らしいので、ラッキーでしたね。」
「ふ〜ん、やっぱり健斗くんは運が良いんだね〜。」
「どうも。」
俺が師匠と話している間、茜さんは帝都の繁華街を歩き回り、かなりのお金を稼いでいたようで、俺たちは結構豪華な宿に泊まり、豪華な食事を楽しむこととなった。もしかしたら、この人は優秀なのかもしれない。
【黒白の実の姉が優秀じゃないわけがないでしょ。少し考えれば分かるじゃない。】
それもそうだな。
【そんなことより、今貴方が考えるべきは交渉のことだわ。どうするつもりなの?】
えっと、やっぱり俺が考える感じ?
【当たり前じゃない。】
次なる問題は、ガラシオル帝国の皇帝とどのような交渉をするか、だ。
一応、方針は決まっている。
まず、俺は自分が元勇者であることを隠したまま交渉を行おうと考えている。
もちろん、元勇者であることを示した方が、交渉は容易になるだろう。だが、この世界に暮らす人々にとって勇者というのは、既に異世界に帰還した存在であり、魔王が討伐された今、勇者という存在はむしろ必要ないと考えている。俺が元勇者であることを彼らに伝えれば、彼らは俺という存在を無視できなくなる。そうなれば、計り知れない影響を与えてしまう。だから俺は、俺の存在をこの世界で最も信頼できる師匠のみに伝え、それ以外の旧友たちには正体を隠し異世界からの来訪者として紹介する予定だ。
【本当に、それでいいの?】
あぁ、この世界にはもう俺という存在は必要ない。
俺の正体を公表することは、避けるべきだ。
【そう・・・・・・。貴方がそれで良いのなら、別に良いわ。】
どうした?何か引っかかることがあるのか?
【いえ、別に。】
そうか・・・・・・。
そして、長い長い一日が終わった。
地球を出発してからまだ4時間ほどしか経っていないというのに、今日はかなり濃い一日であった。2度のワープをした上で、異世界の散策という頭のおかしい一日であったが、それなりに収穫があった。
今回の異世界転移における最大の収穫は、先ほどのワープに干渉してきた何者かが、異世界の存在を知っていたということだ。これがどういうことなのか、今はまだ謎が多いが、きっと重要なピースになるだろう。
明日は大事な一日になりそうなので、今日は早めに寝ることにして明日に備えることにした。
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どうでも良い話
最近、忙しすぎ
言い訳を聞きたい方は私のXへ
佐々木サイで検索すれば多分出ます
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