第16話 師匠は不貞腐れる
「・・・・・・やだっ。」
「はい?」
勇者パーティーに加わる前は宮廷魔導師をやっていた師匠ならば、突然宮廷とのコンタクトを取ることができるだろうと思って師匠の元を訪れた。
しかし、返って来た答えは、『できる』でも『できない』でもなく、まさかの『やだ』一瞬、思考が停止した。理論的ではなく、感情的な拒否、それは俺のよく知る師匠が絶対にしないであろう回答であった。
「どうして拒否するのですか?師匠」
「・・・・・・嫌なものは嫌なの。」
トワトリカ=ブランシェ、ガラシオル帝国の元宮廷魔導師で、昔俺に魔法を教えてくれた人物だ。幼さが残る顔立ちに長く伸びた碧い髪、今は魔法使いらしい黒いローブに身を包んでおり、
そんな彼女をひと言で表すとするならば、論理的な面倒臭がり屋、だろう。16歳で宮廷魔導師に大抜擢された天才で、様々な魔法理論の構築や革新とも言うべき新しい魔法学を提唱、実用化した名実ともに世界最高の魔法使いの1人だ。
俺の知る彼女は、感情的な思考よりも論理的な思考を優先する人物であり、面倒臭がり屋という側面を併せ持つものの、自らの目標のためならばどんなことでも平気で実行することができる人物なはずだ。
「やってくれたら、久しぶりに師匠の好きなパフェを作ってあげると言っても?」
「それでも嫌。」
「今ならイチゴとバナナ付きですよ?」
「嫌。」
「今なら追加でもう一つプレゼントでも?」
「健斗のバカ。」
経験上、こうやって物で釣れば大抵言うことを聞いてくれるはずだが、半年ぶりに再開した師匠は、俺のよく知る彼女とは思えない回答を連発した。改めて、魔力パターンや魔力回路を調べてみるが、彼女は間違いなく俺の師匠本人であり、呪いや病気などに侵されて可能性も否定された。
となると、残る可能性は・・・・・・
「もしかして、機嫌が悪い?」
「・・・・・・」
「機嫌が悪いんじゃん。でも今回は俺無関係じゃない?」
俺は今来たばかりなので、機嫌が悪いのは俺のせいではないはず、と思って尋ねたところ、彼女は首を横に振った。
「え?俺のせい?」
「せっかく健斗が戻って来たのに、私はただの橋渡し役。それが、気に食わない。」
「あ、そういう・・・・・・」
どうやら、俺の言動がいけなかったらしい。
確かに、今生の別れと思って別れた相手が、半年後にひょっこり現れたら、何なんだよ、と言いたくなる気持ちはわかる。実際、俺も二度と会えないと思っていたし、再会するとしてもこんなに早くとは思っていなかった。
仕方がないと言えば仕方がないことであるが、彼女としてはそれが不愉快だったようだ。
「色々あったんだよ。ほんとうに、色々と。」
「そう・・・・・・。」
俺は言葉を少し濁した。俺自身も、どうして俺たちがこっちの世界にやって来れたのか、実はよく分かっていない。
ましてや恩人を探すために、空間ワープシステムを使ったら謎の干渉を受けて座標が狂い、こっちの世界に来ちゃった、なんて説明ができるわけがない。
まぁ、もしかしたら理解してくれるかもしれないが、現状をはっきり伝える必要性は今のところ無いので伏せておいた。
「元気にしていたみたいだね、健斗。」
「師匠も元気そうだね。」
「うん、私は元気。」
師匠は元気そうであった。先ほども確認したが、少なくとも見える範囲に怪我や病気のようなものは見つからない。魔力の流れも安定しており、健康的だ。
「それで?どうして健斗がここにいるの?また召喚されたの?」
「さっきも言ったけど、色々とあって事件に巻き込まれちゃったんだよ。今回は召喚されたわけじゃない、むしろ俺の方から来たって感じだな。」
「理解した。健斗の世界からこっちの世界に来ることはできたけど、帰り方がわからないから、シーナに頼んで勇者召喚の魔法陣を使わせて欲しいってこと?」
「そーゆーことだ。」
「なるほど。」
先ほどの会話だけで、俺の目的を当てられた。
俺が思い付く、唯一の地球への帰還方法は、俺が実際に地球に帰る際に使った勇者召喚の魔法陣だ。詳しく調べたことはないが、あの魔法陣で地球に一度帰ったことがあるという実績がある以上、全く使えないということは無いだろう。
ただ、あの魔法陣は国宝なので、詳しく調べるには皇帝の許可が必要になる。俺1人ならば宮廷に忍び込んで、隙を見て魔法陣を起動させ、地球に帰ることもできるだろうが、クシナダやクシナダの乗組員達を連れての脱出は不可能と判断した。つまり、師匠やシーナを経由して皇帝にアプローチをかける必要があるということだ。
「だから、協力してくれないか?師匠」
「そういう事なら、力を貸すことにする。」
「ありがとう、助かる。」
「でもその代わり、パフェ3つ。」
「あ、はい。」
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どうでもいい話
ちょっとスローペースですみません
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