第14話 変わらぬ風景

「な〜んてね。」


「え?」


「健斗くんにも隠したいことの一つや二つあるだろうし、聞かないでおくよ〜。その代わり、私は君をフォローするつもりとか無いから、樹くんや輪廻ちゃんとは上手くやってね〜。」


「・・・・・・」


そういうと、茜さんはにこやかに微笑んだ。背は小さいが、無駄に美人なだけに思わずドキッとしてしまった。何とか表情を崩さないように心を落ち着かせつつ、俺はこれからのことを考えた。茜さんからは、これ以上の詮索は受けないようだが、他の乗組員たちも同じ考えであるとは思えない。特に、樹さんなんかは詮索してきそうな気がする。


【伝えなくてよかったのかしら。】


ルキフェルは伝えた方が良いと思うのか?


【さぁ、どうかしら。私には判断が付かないけれど、問題は他の乗組員たちだけじゃ無いと思うわよ。】


え?


【忘れたの?貴方は魔王を倒して、異世界に帰った勇者なのよ?当然、この世界の人々からも注目されるわ。あの頃とは全く違う格好だから市民たちには気づかれないかもしれないけど、貴方との関わりが深い人ならばすぐに気づくわよ。】


そうじゃん・・・・・・

まさに、前面に虎、後門に狼。

どのような言い訳をしようか考えつつ、湖の上を飛んでいると、見覚えのある帝都が見えてきた。そしてその奥には、懐かしの帝宮が姿を現した。一旦頭を切り替えて、まずは前面の虎を相手にすることにした。


「まずはあそこの人通りが少ないところに降りましょう。そしてそこから徒歩で帝宮を目指しましょう。」


「りょ〜かい〜。」


茜さんは、俺を疑うことなく後ろに続いた。船がたくさん停泊している港のようなところではなく、人が居なそうなところからこっそりと忍び込む。かなり目立つ服装をしているが、まぁ少し変な格好をした旅人ってことにすれば何とかなるだろう。

とりあえずの目標は、皇帝陛下との謁見の許可を得ること。もちろん、いきなり皇帝陛下に会って事情を説明するわけにはいかないので、皇帝陛下に会えるように取り計らってくれる人物、もしくはそれに準ずる人物とのコンタクトを取ることを目指す。

あの人に会えれば一気に解決できるが、その辺に転がっているような人物ではないので、頭を働かせながら会う方法を考えた。


「それにしても、帝宮か〜健斗くんは難しい言葉を知っているね〜。」


「どこかの本で読んだんですよ。」


「ちなみに〜ここが王国ではなく、帝国だって思ったのはどうして〜」


「さっきの船に書いてあるましたよ。まぁ、明らかに地球の文字じゃなかったですけど。」


「ふ〜ん、解読魔法か〜案外マイナーな魔法も覚えているんだね〜」


苦しい言い訳をしながらも、俺たちは帝都の中央を走る大通りを真っ直ぐ進んだ。街は活気に満ち溢れており、久しぶりに訪れた帝都は記憶の中にあるものと全く同じであった。いや、むしろ俺が地球に戻る前よりも発展している。


「君の予想通り、ここはかなりの都会のようだね〜。」


「はい、おそらくはこの帝国の帝都なのでしょう。きっとそこに、我々の手助けが出来る人物がいるはずです。」


「いるといいね〜」


俺たちがこの星を訪れた最大の目的は、ここが何処なのかを把握して地球に帰還することだが、できるなら水や食料の確保がしたいとも思っている。水であれば魔力を使って生成できるが、食料の生成はできないことはないが難しいので、それらを交渉で確保したいと考えていた。

ちなみに、ツクヨミのワープシステムは現在地とワープ先の情報を正確にイメージする必要があるので今は使えない。だが、半年前に俺が使った装置がまだ残っていれば、俺は地球に帰ることができる。

そのためにも、皇帝を通してあの人に合わなければ・・・・・・


「あ、あれ美味しそ〜。何とかしてゲットできないかな〜?」


「お金なんて持ってないですし無理ですよ、流石に。」


「え〜、まぁいいや、偉い人に会うまで我慢しよっ。」


先ほどまでとは一転、まるで妹のようにはしゃぐ茜さんを見ながら、俺は樹さんから「茜の面倒を頼む。」と言われた意味を理解した。





・・・・・・いるな。

他愛もない会話をしつつ、しばらく歩いた後、俺はとある店の前で足を止めた。茜さんも、俺と同じように足を止める。

念のため、周囲に気付かれないように魔力感知を飛ばしてみたところ、俺がこれから会おうとしている人物が引っかかった。どうやら、在宅のようだ。


「ここがそうなの〜?」


「はい、ここです。」


「ちなみに、私も入っていい〜?」


「ん〜とりあえず交渉は俺がしてくるので、ここで待ってて下さい。」


「わかった〜。」


良いわけないだろ!っと答えたいところだが、ぐっと堪えつつ、なんとか待機しててもらうように誘導する。

了承を貰ったところで、俺は一人で中に入った。


「・・・・・・はぁ。」


客が店に入って来たというのに関わらず、相変わらず音沙汰が無いことに呆れつつ、俺は店の中へと入った。

店内は相変わらず独特な雰囲気が広がっており、懐かしい香りが鼻腔を擽った。まぁ、魔力をできるだけ遮断しているので、向こうは誰が入って来たかわからないはずだから仕方ないが・・・・・・

店の奥へと進むと、一人の少女がレジのところで居眠りをしているのが目に付いた。彼女こそが、この魔法具店の店主であり、俺の目的の人物であった。


「相変わらずの寝坊か?」


「ん〜?」


「こんなところで寝てると風邪引くぞ。」


「大丈夫だよ〜健斗。よく寝てるし・・・・・・。って、え?健斗?」


「久しぶり、師匠。」


それは、半年ぶりの師匠との再会であった。


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どうでもいい話

健斗の師匠は2人います。

1人は明日人の父親、藁科結人、そしてもう1人は・・・・・・

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