第12話 出口

「茜さん、ワープホールの主導権を敵に譲ってもいいですか?」


「え?・・・・・・いいわよ。」


「ほんとにいいんですか?」


「えぇ、あなたの直感を信じるわ。」


「わかりました。」


念のためこの宇宙船の船長である茜さんに確認をとったところ、思いがけず強化をいただいた。すんなり許可ががもらえたことに驚きつつ、俺は集中力を高めた。俺は、自分の直感が正しいと信じているが、万が一間違っていた場合の対抗策を考える。まぁ、この状態から放てる打開策なんて、クシナダ全体を魔力障壁で硬く囲って身を守ることぐらいしかできないが・・・・・・


【健斗、どうして主導権を開け渡すようなことしたのよ。】


簡単な話だ。この状況で、俺たちにとって一番困るのはルキフェルと敵の主導権の奪い合いの余波でワープホールそのものが崩壊すること、普段ならルキフェルを信じて押し切る判断をしただろうけど、敵の目的がワープホールそのものの破壊ではなく、主導権の奪取であったから安全策をとったって感じ。

それともう一つ、状況証拠から敵の正体はワープ中の敵宇宙船に干渉魔法をぶつけられるほど空間魔法と干渉魔法に精通している人物であることがわかるが、そんな人物俺は心当たりしかない。


【まさか・・・・・・】


そう、そのまさか、この干渉攻撃の犯人はおそらく、結人さんだ。


【わかったわ、今回は貴方の考えを全面的に支持することにする。】


おっけぇ、ならルキフェルはワープホールの維持に全力を注いでくれ、俺はクシナダの方を何とかする。


【了解っ。】


俺の指示通りにルキフェルが主導権争いから手を引くと、明らかに雰囲気が変わったのがわかった。

このような状況下でもパニック状態にならない乗組員達に関心しつつ、俺は別のことに意識を割いた。魔力の流れを上手にキャチしつつ、世界を飛ぶ準備を始めた。

魔法というのは、感覚的な部分が大半を占める一方で、魔法の規模や系統によっては数学的な部分も必要な要素となる。まぁ、数学と言ってもしているのは演算であるが、難しい魔法や規模の大きい魔法を使う時はかなりの集中力が必要になる。そのため、ルキフェルに演算を任せることができる俺は、その分別の要素に意識を振り分けることができる。


「ねぇ健斗くん、やっぱりそういうことなの?」


「はい、そういうことです。どうやら結人さんは、我々の行動を読んでいたようです。そして、理由はわかりませんが、我々にイセンドラス星およびネオルカが行ってほしくないようです。」


「ゆいくんが・・・・・・」


茜さんにとって、結人さんは実の弟だ。色々と思うことがあるだろう。

そして、俺が主導権を結人さんに渡した最大の理由は、茜さんの存在だ。俺は、あの優しい結人さんなら実の姉である茜さんに何か危害を加えるようなことはしないと信じた。

さぁ、あとはなるようになるだろう。


「もしかしたら、逆かもしれない・・・・・・」


「え?どういうことですか?」


覚悟を決めて目の前のことに集中しようと思った矢先、俺のちょうど真後ろに座る茜さんがポツリとそんなことを呟いた。俺は思わず、後ろを振り返ってしまった。今この状況で、結人さんのことを誰よりもよく知っているであろう茜さんからの情報ほどありがたいものはない。


「ゆいくんは、私たちにイセンドラスに来てほしいんじゃなくて、どこか別のところに行ってほしいのかも・・・・・・」


「それは・・・・・・」


【気をつけなさい、健斗。どうやら着いたみたいだわ。】


茜さんの呟きに言葉を返す前に、俺たちはワープホールの出口へと辿り着いた。そしてそのまま、眩しい光に包まれた。

飛び出た先は、予想通り宇宙空間であった。すでにワープホールは閉じてしまっており、戻れる気はしない。


「場所の特定急いで!」


「ダメです!周囲に座標を特定できる星を発見できません!」


「なら、ワープホールの滞在時間とクシナダの相対速度から距離を逆算して。」


「了解!」


茜さんが乗組員たちに指示を出す間、俺は周囲に魔力探知を飛ばした。結人さんが俺達をここに飛ばしたということは、ここに何か意味があるはずだ。目をつぶり集中力を高めながら探索を始めようとするが、俺が本腰を入れる前にクシナダが近くに星を発見した。


「後方、4時の方向に、直径が地球の等倍ほど大きさの惑星を確認。同時に、惑星内に生命体のモノと思われる光源を確認!魔力も感じられます!」


「もしかして、宇宙人ってこと?!」


「その可能性が高いです!念のため、表面温度と気圧、酸素濃度を測定してみましたが、ほぼ全ての値で地球と類似しておりました。おそらく我々の上陸も可能です・・・・・・」


「嘘・・・・・・」


ここまで聞いて、俺はとあることの確信に至ると同時に、ここがどこなのかわかった。先ほど飛ばした魔力感知からは、懐かしい反応がいくつか確認できた。そして何より、宇宙空間から見える大陸の形が、俺の知っているものであった。

偶然じゃない、結人さんは俺を再びここに送ったんだ。


「茜さん、ここにおりましょう。」


「わ、わかったよ。総員、着陸準備!」


「「「了解!」」」


俺は、懐かしき育ちの地へと戻ってきた。彼女らは元気にしているだろうか。


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どうでもいい話

私史上、一番プロット通りに進んでいるかも

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