第11話 遠くの二つの星

「でも、なんでイセンドラス星なんですか?」


「ん〜?何でってそりゃ〜、一番いる可能性が高いからだよ〜。」


「・・・・・・」


 IQが20以上離れていると、まともな会話ができなくなるという話を聞いたことがあるが、どうやらその話は正しいようだ。この場合、俺のIQが低いのか、茜さんのIQが低いのかわからないが、会話が噛み合っていないことだけは理解できた。


「何でイセンドラス星にいる可能性が高いと思ったのかって話ですよ。」


「あ、あ〜、そういうことね〜。ん〜理由はいくつかあるけど〜、最大の理由は立地だね〜。」


「立地、ですか?」


「まず、イセンドラス星の位置ってわかる?」


「何となくなら。確か、めっちゃ遠いんですよね。」


「うん、直線距離でだいたい39.4光年、ゆいくんが開発したこのワープ装置が無いと、人の一生をかけても辿り着けないほどの距離なんだよ〜。」


 人類史における初めての星間戦争は、39.4光年離れた宇宙人との戦争であった。当時の技術では、敵の星を攻撃するどころか、敵の母星を見つけることすらできず、黒白が現れるまでは、人類は宇宙人が一体何処からやって来ているのかすら分からないまま地球防衛戦を行っていた。当時は反撃の手段などなく、少しずつズルズルと地球の支配圏を後退させていった。

 転機が訪れたのは、もちろん黒白の誕生だ。敵の母星であるイセンドラス星を特定するとともに、ワープ装置を完成させ、敵の母星に乗り込むことを可能にした。黒白が誕生してからは、誰も想像できないほど早く終戦となり、地球イセンドラス間で平和条約が結ばれた。

 だが、終戦から10年以上が経過した今も、地球と、イセンドラス星及び連星であるネオルカ星との交流はそれほど積極的ではなかった。積極的な交流が行われなかった理由はいくつか存在するが、最も大きな原因は反対派の存在だ。宇宙人との交流を積極的に行うべきではないと主張する者たちが一定数おり、未だに進歩は無かった。

 では何故、彼らはそんな交流の少ない遥か遠くの星の星へ向かったのか。その答えは、実に簡単だ。


「どうしてこんな遠くの星なのか、その答えは実にシンプルなんだよ〜。」


「ツクヨミ社がワープ技術を独占しているから、ですね。」


「正解〜。」


 地球イセンドラス星間を移動できる船は、地球上には数えられるだけしか存在しない。そして、ワープ技術はツクヨミ社が独占しているのだから、地球には今イセンドラス星に行く手段がほぼ無いと言う事になる。もちろん、これから新しく作ることもできない。つまりイセンドラス星は、結人さんたちにとって絶好の隠れ家になるということだ。ちなみに、地球には地球とイセンドラスを24時間365日いつでも移動できるゲートのようなものが存在するが、それもツクヨミが運営しており、ツクヨミタワーが消滅したあの日あの時から動いていない。後から考えてみると、衣夜がゼラストさんたちを一人で相手していたのは、ゲート内の一般人及び物をどかすためだったということがわかった。


「私の勘がが正しければ、ゆいくんはここにいる。」


「勝算はどれくらいなんですか?」


「もちろん100%だよ〜。」



 *



「魔力波正常、魔力制御システム基準値以内。」

「突入角度固定、推進力固定。」

「運動パラメータ、魔力パラメータともに正常、システムオールグリーン。」


「クシナダは、これよりワープホールに突入しま〜す。」


「「「了解っ!」」」


 茜さんの合図とともに、クシナダは慣性飛行のままワープホールに突入した。

 俺の感覚的な部分もあるが、このワープホールは空間を歪めて点と点の距離を近くするという方法が取られている。そのため、あくまで縮められているだけであり、ワープする距離が長ければ長いほど入口と出口の間に空間ができる。地上から地球周回軌道までワープした時は出口がすぐ先に見えたが、今度のは先が見えない。その分恐怖心はあるが、俺は自分を信じる事にした。まぁ、ルキフェルから太鼓判を押されているので、大丈夫だろう。

 と、油断したその瞬間であった。


「・・・・・・っ?!」


「どうしたの健斗くんっ!」


 俺の異変にいち早く気付いた茜さんは、俺に声をかけた。俺は、現状のわかっていることをできるだけ簡潔に伝えた。


「何かがこのワープ装置に干渉している・・・・・・」


「っ!クシナダ、推力最大!健斗くんがワープホールを維持している間に突っ切って!」


「了解っ!推力最大!」


 茜さんの命令に答えた樹さんが、ハンドルを大きく前に倒した。多くの燃料がメインエンジンへと注ぎ込まれ、ツクヨミは一気に加速し始めた。急な発進に、身体が引っ張られた。


「お願い健斗くん、なんとかワープホールを維持して!」


「わかってます!」


 ここで俺がしくじれば、宇宙の何処かに放り出されることになるかもしれないし、最悪の場合死ぬ可能性だってある。

 そんなこと、絶対にさせない。


 ルキフェル!


【私もやってるわ。でも、これは・・・・・・】


 どうした?ルキフェル。


【これ、不味いわ。押し込まれる・・・・・・】


 まじか・・・・・・


 ルキフェルが無理というのなら、俺も方針を変えなければいけないかもしれない。ルキフェルは、俺よりも圧倒的に魔法に対する知識がある。そんな彼女が無理と言うのなら、俺ではおそらくひっくり返すのは無理だ。しかも、相手はルキフェル以上の能力があるようだ。


【まるで、相手のフィールドで戦っているみたいだわ。】


 どういうこと?


【貴方にもわかるように説明すると、今この魔法の主導権争いになっているのよ。普通なら、魔法の主導権を奪取するのは難しいのだけど、この魔法は私たちが作ったわけじゃないから、入り込まれているの。相手に心当たりはないけど、相当な手練れよ。このままいけば、何とかこの船を送り届けることができそうだけど・・・・・・】


 手練れ、か。

 と、ここで、俺はとある可能性を思い付いた。

 確信はない。でも、何故か、その可能性が頭から離れなかった。

 俺は、その直感に従うことにした。


 ルキフェル、主導権をその何者かに渡してくれ。


【え?ほんとに?】


 いいから、やってくれ。


【わ、わかったわ。】


 念のため、クシナダを防御魔法で覆ったのち、俺は主導権を明け渡した。


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どうでもいい話

イセンドラス星とネオルカ星については、また次回

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