第10話 地下深くからの発艦
「次に地球に帰るのは、早くても一週間後といったところだが、家族への挨拶は済んだか?」
「はい。」
「それは結構。では、これより最終シークエンスに入る。」
「「「了解っ!」」」
ツクヨミ社製の戦闘服を身に纏いつつ、俺はコントロールの中央にある台座の上に立った。宇宙船であるクシナダのメインエンジンは魔力融合炉によって作り出された莫大なエネルギーであるが、クシナダの最大の特徴であるワープ機能は、搭乗員の魔力を利用して発動する仕組みになっており、俺はその装置の担当としてコントロールルームに入った。
母さんに俺が宇宙に上がることを伝えると、母さんは笑顔で俺を送り出してくれた。当然、寂しい気持ちはあるが、足枷になりたくないと言っていた。俺は、必ず帰って来ることを約束した上で今日ここにやって来た。
「リクエストID藁科茜。」
『魔力パターン承認、ようこそ貴女の艦へ、クシナダは貴女を歓迎します。』
「魔力封鎖解除。」
『承認、魔力封鎖を解除します』
艦長席に座った茜さんは、右手を正面のモニターにかざしてシステムロックを解除した。このクシナダには、セキュリティの一つとして魔力封鎖によるシステムロックがかけられており、藁科家の人間だけが持つ固有の魔力パターンが無いとあらゆるシステムを起動できないらしい。これ以外にも頭がおかしくなるレベルで様々なセキュリティが設けられており、正直なところ一つぐらい無くてもいいんじゃないか、と思ったりすが、茜さん曰く必要なプロセスらしい。
「魔力制御システム始動、待機モードから通常モードへ移行、魔力障壁展開、メインエンジン1番から4番回転開始。」
「メインエンジン始動了解!」
「魔力制御システム許容範囲内です!」
「魔力障壁展開確認!」
「全システムオールグリーン、いつでも発艦できます。」
このクシナダには、船と同じ名前を持つ
「じゃあ健斗くん、お願いね。」
「了解です、茜さん。」
俺たちが乗っているクシナダが今いるのは、東京の地下深くの秘密格納庫の中、つまりこの秘密格納庫から発艦するためにはこのクシナダに搭載されているワープ機能が前提となっている。俺は、自分の仕事をまっとうするために、台座に魔力を流し始めた。
集中力を高め、ジャンプする先をしっかりとイメージした。このワープ装置を発動させる上で最も重要なことは、結人さんが作ったこの神の如き装置を自分のものにすることだ。魔法式の隅々まで自分の魔力を行き渡らせ、ワープ機能を自分の手元へと引き寄せた。
【落ち着きなさい、健斗。ゆっくりでいいから、確実に自分のものにするイメージよ。】
わかってる。
ルキフェルの手助けは必要ない。これだけの魔法を、俺一人でも動かせるレベルにまで落とし込んだ結人さんはやはり天才だ。そんな結人さんの作った装置は、素晴らしい安定感があった。
感覚で、すぐにでもワープ可能な状態まで移動させて、待機した。茜さんからの指示を待つ。
「オッケーです。」
「ワープシステム発動、目標、地球周回軌道。」
「了解。」
茜さんからの指示を受け取った俺は、正面にワープホールを作り出した。クシナダがちょうど入れるぐらいの大きさで、ホールの向こう側には宇宙空間が広がっていた。
どうやら、ワープ装置の方は成功したようだ。
「クシナダ、微速前進っ!」
「了解、微速前進。」
紫色の巨大な戦艦は、ゆっくりと音を立てながら動き始めた。そして、ワープホールを通って宇宙へと飛び出した。
このワープ装置は非常に優秀だが、直線方向にしか飛ぶことができないという欠点を抱えている。多少の誤差ならば健斗の方で修正することができるが、大きな方向転換はできない。そのため、一度宇宙空間に出た上で軌道を修正して再びワープするのがセオリーだ。
「うおっと。」
「ファーストワープ成功、誤差許容範囲内。」
「スラスター固定、姿勢制御システム起動。」
「システム、通常モードから宇宙モードに移行。」
ワープホールを潜ると、途端に重力が無くなった。改めて、俺は宇宙空間にやって来たことを自覚した。
宇宙にやって来たのはこれで二度目、1回目は生身であったが、今回は宇宙船と一緒に来ることになるなんて、昔の俺じゃ想像できないだろう。
「進行方向固定、姿勢安定、次もお願いします。」
「健斗くん、行ける?」
「はい、いつでも行けます。」
結人さんの作ったワープシステムは非常に優秀で、クールタイムを必要としない。使用者の魔力が残っている限り、何回でもワープすることができる。
姿勢を安定させたクシナダは、再びワープをする体制に入った。地球周回軌道に留まる必要は無いし、ここで油を売っていると、地上から厄介な奴等がやってくるかもしれないので、早めに行動を起こす事にした。
「ワープシステム発動、目標、イセンドラス星。」
「了解。」
俺は再び、正面にワープホールを作り出した。先ほどのワープホールは反対側が見えたが、今回のやつは距離が遠いからか見えないが、感覚の中では成功しているはずだ。
「クシナダ、微速前進!」
「了解、微速前進。」
少し不安になりながらも、クシナダは再びゆっくりとワープホールの方へと進み始めた。
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どうでもいい話
戦艦、進むだけで一話w
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