第9話 空へ

「えっとですね。とある事情で数日ほど学校を休むことになりました。」


「ずいぶんといきなりだな。」


「す、すみません。」


 クシナダと共に宇宙に上がることを決めた翌日、俺は学校の職員室で担任である桐山先生に休学することを伝えた。当たり前だが、宇宙にいる間は授業に出る事はできない。結人さんのように、瞬間移動をポンポン発動することができるなら、登校することも可能なのだろうが、空間魔法がそんなに得意ではない俺にはとても真似できるものではない。というわけで、正攻法で行くことにした。


「ジルトレア、日本魔法協会、もしくは日本政府からの要請であれば、出席扱いにできるが、今回の君の休学はそのいずれにも当てはまらないのだろ?」


「はい。完全なる私の私情です。」


「そうか、まぁ良いだろう。私の方で、うまいことやっておいてやる。」


「え?」


「なんとかしてやると言ったのだ。きっと、君にしかできない何かがあって、それをするために仕方なく学校を休むのだろう?」


「えぇ、まぁ・・・・・・」


 この仕事は、俺にしかできない。

 これは、樹さんから聞いた話ではあるが、クシナダのワープシステムが使える人間は、地球上で俺しかいないそうだ。俺がいないと、飛ぶ事はできても肝心のワープ機能が使えない、ただの船になってしまう。俺が、どれだけ必要とされているかは理解できた。

 同時に、俺はワープ機能を必要としていた。ツクヨミタワーを見つけるためには、おそらくワープ機能が必要だろう。どのような旅になるかはわからないが、きっと有意義なものになるはずだ。

 意志は固いことを伝えると、桐山先生は俺に魅力的な提案をしてくれた。


「ならば、私の方でなんとかしておいてやる。1年生が終わるまでに帰って来たら、私の方で君を出席扱いにしておいてやろう。」


「っ!本当ですか?」


「二言はない。だがその代わり、ちゃんと戻ってくるんだそ。もちろん、4人でだ。」


「っ?!はいっ!」


 そう言いながら、桐山先生は俺を信じて送り出してくれた。

 どうやら、俺が無期限で学校を休む理由は、桐山先生にバレていたようだ。4人というのは、俺を含めた今休校しているメンバーのことだろう。

 絶対にみんなを連れ戻すと心に決めた俺は、書類を受け取った後、職員室を後にした。次にここに戻ってくる時は、4人で、だ。



 *



「ただいま。」


 想像以上の結果に満足した俺は、やるべきことを済ますために寮の自室へと戻って来た。


「・・・・・・」


 返事はもちろん返って来ない。

 ルーシアが失踪してから1ヶ月近くが過ぎており、一緒にいた時の記憶は、既に思い出になりつつあった。まぁ、失踪というのは表向きの記録で、彼女はほぼ確実にツクヨミタワーの中にいると予想された。

 先日、ルーシアが失踪したという知らせを受け取ったルーシアの父親が俺のところへとやって来て暴れたが、俺が事の経緯を説明すると、意外なことにただ黒白を信じると言って去っていった。

 あの親バカのことだから、国の一つや二つを壊滅させてから帰ると思っていたが、あっさりと引き上げていった。どうしてあの男が、癇癪を起こさずにドイツへと帰ったのかは今もわからない。だけどきっと、黒白を信じていたのだろう。

 ちなみに、明日人と衣夜の二人も、表向きは失踪ということになっている。どのような圧力がかけられているのかはさっぱりだが、とにかく日本政府としては曖昧な発言を続けており、未だに確かな事はわかっていない。


「何というか、寂しいな・・・・・・」


【孤独は人を殺す、良い言葉ね。ほんと、その通りだわ。】


「悪かったな、独り身で。」


【馬鹿にはしてないわよ。その、私も長いこと一人だったし。】


「・・・・・・そうなのか。」


【えぇ・・・・・・。】


 意味ないと分かっているのに、今日も二人分の料理を作ってしまった。ルキフェルは話し相手にはなってくれるが、実体化はできないので、料理は両方とも俺が食べる事になる。

 何かの間違えで帰って来てくれないかなと思いつつ、作ったカレーを口の中に運んだ。


「美味いな・・・・・・。」


【そうね・・・・・・。】



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 どうでもいい話

 そろそろ飛びます

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