第8話 side輪廻2
魔法先進国と発展途上国の明確な差は何か、様々な意見が存在するが、私は魔法が犯罪に利用されている否かだと考えている。
1999年11月9日以降に生まれた地球上のすべての子供に魔法の才能があることを当時のジルトレアが全世界に向けて公表したその日、各国政府がまず真っ先に考えたことは魔法の犯罪利用をどのようにして防ぐか、だった。
そして、星間戦争と並行して国同士の競争が始まった。魔法という新たな産業の主導権を自国のものにするべく、各国は競って魔法の研究に没頭した。ある国は魔法師のための学校を作り、またある国は子供たちを全員収容所に入れた。失敗と成功、協力と裏切りの連続の末、確かな魔法技術を獲得できた国だけが、国内の魔法師育成及び管理を実現させた。逆を言えば、魔法技術の発展についていけなかった国々は、無法地帯同然となってしまった。
そのため、宇宙人の侵攻、魔法技術の向上及び普及、世界のバランスの崩壊というトリプルパンチに耐えられなかった国々は、無法地帯となるか、魔法先進国に吸収された。
そんな中、私の生まれた国、日本は数多くのS級魔法師の育成に成功し、魔法技術の競争でトップを走っていた。私は、そんな日本が大好きであった。
*
「報告は以上です。」
「ついに、あの女と接触してしまったか・・・・・・」
「茜様がどこで健斗くんの名前と実力を知ったのかは疑問が残りますが、彼女は健斗くんが例の組織に加わることを熱望していました。おそらくは、我々の知らないルートから情報を仕入れたのだと思います。」
「流石は黒白の姉と言うべきか、想像以上の情報網を持っているようだな。」
「はい。」
私は、健斗くんが茜さんと協力関係となったことを自身の上司に伝えた。彼からは、健斗の動向を逐一報告するように言われており、今回もその内の一回という認識であった。健斗の異常性に関しては、共闘した時から既に知っており、今回の彼の行動に驚きは無かった。
「それで、肝心のワープ機能は使えたのか?」
「はい、例の台座の上に立っても耐えられた事から、クシナダのワープ装置への適合は完了したと思われます。」
「そうか・・・・・・」
報告を聞いた私の上司は、目頭を抑えながら上を向いた。
「薄々気付いてはいたが、やはり彼は選ばれた存在なのだな。」
「選ばれた存在?」
「あぁ。彼に、あの黒白に匹敵するだけの力があるかもしれないという話だ。」
「黒白にっ!」
健斗くんの異常性は、何度もこの目で見て来たが、流石の私も黒白に匹敵するだけの力を持っているとは思っていなかった。というのも、私たちにとって黒白という存在は崇拝すべき対象であり、実際に黒白を神として崇める宗教もいくつか存在する。まぁ流石に、黒白は神様であるとは思わないが、神様と同列に考える人間は多い。だから、自分のよく知る健斗くんが、あの黒白に匹敵するという話を、簡単には信じれなかった。
すると、そんな私の思考を読んだのか、私の上司は『選ばれし者』とは何か説明してくれた。
「『選ばれし者』というのは、かつてジルトレア最高責任者を務めていたセラン=レオルドが使った言葉で、他のS級魔法師を大きく凌駕する特別な才能を持った魔法師のことを指す言葉だ。以前は序列というシステムが存在したことは知っているかな?」
「はい、ジルトレアに名前を登録している全魔法師に、活躍度に応じた順位が与えられるというシステムですよね。」
「あぁ、それであってる。セランさんが、『選ばれし者』という単語を初めて使ったのは、今のジルトレア最高責任者であるゼラストさんから黒白に一位の座が移された時だ。今でこそ、黒白は世界最強の魔法師であると世間から認められているが、当時はまだゼラストさんを推す声も多くあった。そんな世間を納得させるために、彼は『選ばれし者』という単語を使った。」
何処かの宇宙で戦争をする映画に出て来そうな単語であるが、結果から言うとセランさんの言葉に間違いはなかった。黒白は、名実ともに世界最高の魔法師であり、間違いなく『選ばれしもの』であった。
だが、セランさんの言葉通りに言うならば、『選ばれし者』というのは黒白のことを指すのであり、健斗くんは違うはずだ。私がそのように考えると、その考えも読まれていた。
「だが、私も含めた当時のジルトレア上層部は、『選ばれし者』という単語にもう一つ別の意味を加えていた。それは何者かによって選ばれた者という文字通りの意味、かつて世界最強と謳われた精霊使いをも上回る力を持つ者のことだ。」
どうやら私の後輩は、神に匹敵する力の持ち主のようだ。
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どうでもいい話
上司というのは、もちろんあの人です。
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