第7話 魔法の台座

「それこそが、君をここに呼んだ理由だよ。」


「これが?・・・・・・」


 コントロールルームの中央に設置された見慣れぬ台座、これが何なのか疑問に思っていると、樹さんが声をかけてきた。どうやら、この無数の魔法陣が刻まれた台座こそが、俺をここに呼んだ理由らしい。


「まずは乗ってみてくれ。そうすれば、言わんとしていることがわかるだろうよ。」


「わかりました。」


 言われた通りに台座に乗ってみることにした。無論、警戒心を高めつつ、恐る恐る台座に足をかける。しかし、想像していた反応は無かった。すっかり安心した俺は、続いてもう片方の足も台座に乗せた。すると次の瞬間、とてつもないほどの情報が脳に飛び込んで来た。


 何だこれっ!


【落ち着きなさい、健斗。台座に刻まれた魔法式や魔法陣が脳に逆流しているだけよ。】


 術式の逆流?は?


【イメージの共有と言うべきかしら、この台座を自分の身体の一部と認識して安定化をはかりなさい。それと、絶対に両足を台座から離したらダメよ。】


 わかった、とりあえずやってみる。


 精神を安定させつつ、ルキフェルに言われたようにやってみる。主導権はこちらが握りつつ、この台座に刻まれた魔法陣を受け入れるイメージで適応を目指す。少しずつ、だけど確実に、台座に刻まれた魔法陣を自分の影響下に置き始めた。


【大丈夫、あなたならこの程度の魔法式で根を上げるはずがないわ。】


 珍しくルキフェルからの励ましを受けつつ、次々と魔法式を攻略していく。

 だんだんとゴールが見えて来た。だが、ゴールラインの少し手前に巨大な山があることに気付いた。おそらくは、あの部分こそがこの魔法陣の根幹なのだろう。しかし、コツを掴んだ今の俺ならば、この山も攻略できる。根拠はどこにも無いが、確信があった。


「終わった・・・・・・」


「お疲れさん、その様子だとその魔法陣を自分のものにできたようだな。」


「はい。それと、この台座がどのような代物なのかもわかりました。」


「そうか、なら話は早い、俺たちが君をここに呼んだ理由もわかっただろ?」


「はい。この艦の持つワープ機能を活用するためですね。」


「正解だ。この艦、クシナダは重大な欠点を持つ欠陥艦でな、特色であるはずのワープ機能が誰にも扱えなかったんだ。もちろん、開発者である結人を除いてな。もちろん、ワープ機能が無くてもそれなりに運用できるだけのポテンシャルは持っているが、物足りないのは確かだ。」


 ここで俺は、一つの事実を思い出した。それは、ワープ機能が搭載されている戦艦及び宇宙船はいくつか存在するが、ワープ機能をゼロから作成することは、どの国も実現できていないことだ。

 唯一、製作が可能であるのは世界的な魔法具メーカーである、ツクヨミ社だけ。つまり、ワープ技術はツクヨミ社の誰かしか作り方を知らないということだ。


「このワープ機能、もしかして作ったのは結人さんですか?」


「半分正解、半分外れ、こいつは結人とそこの頭おかしい女の合作だ。」


「ちょ、ちょっと?!何その雑な説明っ!せめて超絶天才美少女って呼んでよね!」


「・・・・・・まぁアホの言っていることは置いといて、事の経緯を説明しよう。」


 自分で自分のことを超絶天才美少女って言う茜さんに驚きつつ、俺は樹さんの話に耳を傾けた。

 ちなみに、茜さんは俺と同級生の父親の姉ということを追記しておこう。


この台座ワープ装置は、元々はツクヨミに取り付けられていた奴をこのアホが引っこ抜いてクシナダに取り付けた奴だ。だがこのアホは、クシナダに台座を取り付ける際にもっと性能を向上させようと試みて、こいつを魔改造したんだ。」


「その結果、製作費はそんなに変わらないにも関わらず最高ワープ可能距離は1光年から100光年に上昇、要求魔力量に至っては84%カットに成功したのです!私ってやっぱり天才〜」


「おお〜」


 よくわからないが、快挙であることは理解できた。天才と変人は紙一重と言うが、その通りだろう。ただのお調子者かと思ったが、少なくとも世界で数人しかいないワープ装置を作れる人なのだから、天才であることには変わりない。


「性能が上がったことには結人も感心していたんだがな、ただこの魔改造によって、要求される魔力操作技術の高さは常人には不可能なレベルに達してしまった。具体的に言うならば、結人以外に扱えない代物になっちまったんだ。」


「あはは〜」


「スペックを落として、もっと汎用性の高いワープ装置に改造しようって意見も出たんだが、そこのアホが聞かなくてな。結局、現在に至るまで性能はそのままってわけだ。」


 空中戦闘艦ツクヨミは、黒白が所属していた部隊の船であり、黒白が使うことを前提に作ったのだから、無駄にスペックを落とす必要は何処にもない。正直なところ、俺は茜さんの考えに賛成ではあるが、樹さんの考えもわからなくはない。誰もが使えるワープ装置を作ることも必要なことだと思うが、やはり黒白専用ってのもロマンがある。


「まぁ、その後こいつを扱える奴が、結人の他に3人ほど出て来たんだが、今はその3人と連絡が付かなくてな。俺たちじゃワープ装置を動かせないし、新しくワープ装置を開発するしかないかって諦めかけた時、君が現れた。」


 ここまで言われれば、彼らが何を考えているかわかった。

 そして、自分がどうしたいかの判断もできた。


「君には、この船の乗組員の一人として、宇宙に上がって欲しい。そして、あの野郎を見つけるのを手伝ってくれ。」


「喜んでお受けします。」


________________________________________________

どうでもいい話

1光年というのは距離の単位で、光が1年間で進む距離を表します。

具体的には、9兆5000億kmほどです。

って、知ってるか。

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