第6話 姉妹艦
「ついて来てくれ、見せたいものがある。」
「その前に、俺をスカウトした理由を教えて下さい。」
「安心しろ。これから向かう先に、その答えがある。」
「わかりました。」
ツクヨミタワーの行方を追うことに賛同する旨を伝えると、樹さんは見せたいものがあると言って俺を別の部屋へと案内した。樹さんを先頭に、俺たちは再び迷路のような通路を進んだ。一体どこに連れてかれるのだろう、と内心ドキドキしながら後に続いた。厳重なセキュリティをいくつかパスしつつ3分ほど歩くと、樹さんは『第零格納庫』と書かれた部屋の前で足を止めた。
「着いたぞ。」
「ここは?」
「見ての通り格納庫だ。まぁ、少々特殊な物を格納しているがな。」
「特殊?」
「あぁ。見ればわかる。」
格納庫の扉及びその周辺には、俺が今までに見た中で一、二を争うレベルの強力な認識阻害魔法や妨害魔法がかけられており、扉を見るだけでその先にある何かがいかに特別なものであることがわかった。これほどまでに厳重なセキュリティをされている理由に心当たりはない。おそらく国家機密か、軍事機密のどちらかだろう。
そんなことを考えていると、一歩前に出た茜さんは扉の前に設置されている台座のようなところに手をのせた。
『ピピッ、魔力パターンを確認、おかえりなさいませ、藁科茜様』
そのような電子音が流れると、正面の扉が左右に開き、室内の電気がついた。
くるりとこちら側に振り返り、俺と目を合わせた茜さんはわかりやすいドヤ顔をしながら俺に言った。
「じゃじゃ〜ん、こちらが健斗くんに紹介したい船で〜す。」
「船・・・・・・もしかしてツクヨミっ?!」
姿を表したのは、巨大な紫色の何か。ぱっと見では、これが何かわからなかったが、茜さんの言葉を聞いてそれが何なのかわかった。
ツクヨミ、最近世間を騒がせている大企業ツクヨミ社と同じ名前がこの船には付けられている。正式名称は『ツクヨミ型空中戦闘艦ツクヨミ』、星間戦争時代に日本魔法協会所属の戦艦として活躍した空飛ぶ船で、黒白や紅焔といった日本を代表する魔法師と共に世界中を駆け回った戦艦だ。空中戦闘艦には、航空母艦のような役割が与えられており、航空母艦が航空機を運び運用する船だとすれば、空中戦闘艦は魔法師を運ぶ船だ。陸海空のみならず宇宙空間での作戦も可能であり、魔法師の寝床としての役割を果たしている。
「惜しいっ!これはツクヨミの姉妹艦であるクシナダだよ〜」
「クシナダ・・・・・・」
「見た目はほとんど変わらないから、わからなくても無理は無いかな〜。まぁ、中身は結構変わっているけどね〜」
「でも確か、空中戦闘艦はすべて廃艦になったんじゃ・・・・・・」
だが俺の記憶が確かならば、ツクヨミは廃艦になったはずだ。星間戦争終結後、全ての空中戦闘艦はその存在が疑問視され、退役もしくは廃艦になったと聞いた事がある。
当時よりも大きく技術が発展した現在では、航空機自体に守る能力を持たせる必要がなくなり、要塞としての力を併せ持つ空中戦闘艦よりも魔法師を運ぶことだけを考えた輸送機の方が、圧倒的にコストがかからないからだ。
つまり空中戦闘艦は、時代遅れの船と言えた。
「日本防衛軍やジルトレアを筆頭に、ほぼ全ての機関が空中戦闘艦をスクラップにしたのは確かだけど、これは私の私物だからね〜」
「は?!私物なんですか?!」
「そうだよ〜。私のポケットマネーで作りました〜。」
「っ!・・・・・・」
言葉を失った。ポケットマネーで戦艦を作る、改めて聞いてみても意味がわからない。いったいどこに、そんなぶっ飛んだ人間がいるのだろうか。
流石はあの黒白の実の姉、と言うべきだろうか。
「安心しろ健斗くん、君の反応は正常だ。この女は少し、いやだいぶおかしい。それと、あんまり真面目に考え過ぎると、鬱になるか、気をつけた方がいいぞ。」
「ちょっと〜樹く〜ん、ひどくな〜い?」
「事実だろうが。それと、さっき私のポケットマネーとか言ってたけど、結人のお金だろ?しかも勝手にパクった奴。」
「シー、シー、それは言わない約束でしょ〜。」
おいおい。
かっこいいことを言っていたが、どうやら弟の結人さんのお金らしい。結人さんは、黒白として人類のために戦った星間戦争の英雄だ。あれだけ世界中から注目されたのだから、それなりにお金を持っているだろう。
「中を案内するよ〜。ついて来て〜。」
茜さんは誤魔化すようにそう言いながら、クシナダの方に向かって歩いていった。俺と樹さんと六道先輩も、彼女に続いてクシナダに乗り込んだ。
様々な施設を案内された後、俺たちはその中でも一際目立つ部屋へとやって来た。
「ここがコントロールルーム〜船を動かすところだよ〜」
「おぉ〜」
俺は、素直に心を躍らせた。正直なところ、コントロールルーム以外の部屋はあんまり面白くなかったが、この部屋だけは期待できる。部屋には見慣れない機械や設備が並んでおり、俺はそれらをじっくりと見て回った。
【凄い技術ね。私から見ても複雑な魔法式がいくつも刻まれているわ。】
そうなのか?
【えぇ、弱い人間でも扱えるように、幾重にも工夫が施されている。とても真似できるような代物ではないわね。】
もしかして製作者って・・・・・・
【間違いなく彼ね。】
やっぱり。
ルキフェルとそんな会話をしていると、俺の心を読んだのか、茜さんが説明を始めた。
「星間戦争終結後、私たちが乗っていたツクヨミは没収されることになったんだけど〜、その時にゆいくんがアレンジした部分をこっそり私が回収しといたんだ〜。だからこのクシナダは〜、外見はツクヨミと似ているだけで別物だけど〜、内部の重要なところはそのまんまなんだ〜。」
「なるほど、だからか・・・・・・」
「ちなみに〜、クシナダが完成した後も、何回かゆいくんがメンテナンスをしてくれているから、ツクヨミよりも機能的に優れているんだ〜。」
一通り見終えたところで、俺はコントロールルームの中央に台座があることを発見した。自然と視線がそちらに移り、台座に刻まれているであろう魔法式を覗こうとした。
だが、何故か弾かれてしまった。少し力を使ってみるが、結果は変わらない。
「気付いた?」
「はい、中を覗こうと思ったのですが、弾かれました・・・・・・」
「ふふふ、それが君を仲間に加えた理由だよ〜。」
茜さんは、困る俺を見ながらニヤリと笑った
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どうでもいい話
クシナダは、前作ショートストーリーにもチラッと登場しております。
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