第5話 話し合い

「奴らは今、宇宙空間にいる。」


 樹さんは、確信を持ちながらそう言った。そしてそれは、俺も同意見であった。


「その様子だと、君も同様の結論に辿り着いていたようだな。」


「はい。地球に残っている可能性も捨てきれてはいませんが、状況を考えるなら、宇宙空間かと。」


 ツクヨミタワーが消滅してから今日までの間、俺は自身のS級としての地位をフル活用してツクヨミタワーの行方を追った。すべてのMSS保有国とコンタクトをとり、ツクヨミタワーの魔力反応がないか調べてもらったが、発見することはできなかった。無論、何処かの国がツクヨミタワーを匿っている可能性もあるが、ツクヨミタワー襲撃がほぼ奇襲に近い形で実施されたことを考えると、その可能性は低い。あの短時間で他国と交渉して匿ってもらうように手配できるとは思えないし、仮にできたとしても転移の際に発生する大量の魔力や空間の歪み、魔力の振動などを隠し通せるとは思えない。

 つまり、宇宙空間に逃げておいた方が手っ取り早く、都合が良いのだ。

 だが、もちろん問題もある。


「なら、具体的にどの辺にあるかもわかるか?」


「地球周辺か、イセンドラス周辺、ですかね。」


「理由は?」


「水や食料、燃料の補給が必要だからです。」


「半分正解、半分不正解だ。君も知っての通り、ツクヨミタワーは武器庫としての機能と工房としての機能併せ持つツクヨミ社の拠点だ。多少の蓄えはあるだろうが、宇宙空間での活動はもちろん想定されていない。燃料と水は魔法を使えばどうとでもなるだろうが、食料の方は厳しいだろうな。だが、あくまで厳しいだけであって、これも結人なら何とかできるだろう。」


 俺は、黒白への認識が少しだけ間違っていたことを理解した。

 俺は戦うことしかできないが、彼は文字通り何でもできるのだ。乗組員全員分の水と食料を用意することぐらい、多少は苦戦するかもしれないが、おそらくは何とかしてしまうだろう。


「そもそもツクヨミタワーは宇宙の気圧の低さに耐えられる設計になっていないからね〜。今もゆいくんか明日人くんがツクヨミタワーを守っていると思うよ〜。ちなみにこれは〜ツクヨミタワーを設計した私が言うんだから間違いないよ〜。」


「茜さんが設計したんですか?」


「うん。だって私、ツクヨミ社の元社長だし〜。まぁ大きくなり始めた頃に、社長の座を咲夜ちゃんにあげちゃったんだけどね〜。」


 おそらくこれは、本当の話だ。

 記憶を遡ってみると、そのような話を聞いた事があったのを思い出した。たしか元々は、姉である茜さんが社長を務めていたが、考え方の相違から社長が咲夜さんに変わったという話を、結人さんから聞いた覚えがある。


「話が少し逸れちまったが、正解を言おう。奴らが地球もしくはイセンドラスの周辺にいる根拠だが、そうでなければこのような手段をとった意味がわからないからだ。現状俺たちは、どうして結人がジルトレアとの対話をせずに宇宙に行ったのか知らない。だが一つ言えるのは、何かしらの信念を持って行ったということだ。であれば、その信念のために地球か、イセンドラスの周辺て時を待っていると考える。」


「なるほど・・・・・・。」


 樹さんの言っていることに疑問点は無かった。結人さんが何かを狙っているならば、地球もしくはイセンドラスの近くでその時を待つのが最も可能性が高い。ジルトレアと対話を、する道もあったはずなのにその道を選ばなかった上で、宇宙空間に社員と共に逃げたということは、まだ何かしてくるということだ。次の行動が、どのような目的で、どのようなことをしてくるのかはわからないが、それでも行動を起こすことはほぼ確定している。


「つまりは先手を打ちたいということですね。結人さんが何らかの行動をする前に、ツクヨミタワーを発見したい、と。」


「あぁ、簡単に言うとその通りだ。奴の行動に賛同するか、反対するかは置いといて、まずは真実が知りたい。」


「なるほど・・・・・・」


「どうだ?力を貸してくれるか?」


 会って話す、それは大切なことだ。お互いに意見をぶつけ合って、より良い結果を目指す。だがおそらく、結人さんは今回の行動を、茜さんや樹さんに相談せずに勝手に動いたのだろう。だから、この2人は、結人さんに直接会って、どうしてこんなことをしたのかを問いたいのだろう。

 気持ちは理解できる。俺も、突然いなくなった2人の親友とルーシアがどうして俺に黙ってこんなことをしたのか知りたいと思った。できるなら会って、話がしたいと思ったから今日ここに来た。

 だが、一つだけ疑問点があった。


「仮に協力するとして、俺に何を望むのですか?」


「・・・・・・それはまだ言えない。だが、協力してくれるというならば、伝えよう。」


 部屋に入って2人と目を合わせた時に気付いたが、この2人には少なくともA級魔法師以上の実力がある。


【嘘ね。私が指摘するまで全く気付いてなかったでしょ?】


 そうです、すんません。

 そんな彼らが、俺を仲間に引き入れたい理由、それが引っかかった。何処かに殴り込みに行くならばともかく、ツクヨミタワー探しなら、俺はそれほど役に立つとは思えない。だが彼らは、他の魔法師ではなく俺を仲間に引き入れようとした。

 そこが引っかかった。

 さて、どうしたものか。確かに今俺は、自分だけでツクヨミタワーを探すのに限界を感じ始めていた。協力関係を築けるというならば、これ以上に良い手はない。


【私は問題ないと思うわよ。この2人から悪意は感じらない。】


 どっから来る自身だよ、それは。


【勘よ。】


 当てにならね〜。

 まぁでも、悪い取引じゃない。

 俺はいつも通り、ルキフェルの勘を信じることにした。


「とりあえず期間はツクヨミタワーを見つけるまで、協力関係といこうか。」


「感謝する。」

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 どうでもいい話

 最近、暇な日は逆に執筆できないという辺な感じになってる。

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