第4話 逃げた船

「東京の地下にこんな施設があったなんて・・・・・・」


「こちらです、健斗くん。元々はUC襲撃に備えて作られた超大型地下シェルターだったんですけど、イセンドラスとの平和条約締結によって不要となり放置されていたのを、これから会う人達が再利用した施設です。」


「なるほどな。」


 そこはまるで、地下要塞のような場所であった。

 どこかの国の軍事施設なんじゃないかと疑ってしまうレベルの防御魔法と妨害魔法が施設全体にかけられており、軽く探知系の魔法を使ってみたが、無効化されてしまった。それなりに時間をかければ突破できるとは思うが、ただの施設にしては過剰な防御魔法であることは間違いなかった。ここは一体、何のための施設なのだろうと考えながら、俺は六道先輩の案内に従って通路を進んだ。

 唯一わかっていることは、ここが東京の地下深くであることだけだ。


「ちなみに入口は四ツ谷だったが、ここはどのあたりなんだ?」


「市ヶ谷あたりだと聞いています。拠点防衛のために通路は複雑になっているためわかりにくいですが、ここはちょうど自衛隊の基地の真下です。」


「そんなところに基地作って大丈夫かよ。」


「大丈夫ですよ。そもそもこれからお会いになる方は、自衛隊の関係者ですから。」


「そうなのか。」


 軽く雑談をしながら、俺は六道の後を追った。

 自衛隊の施設であるならば、セキュリティが高いのも納得だ。魔法師という自衛隊に取って代わる者たちの出現により、防衛費は大きく減少されたが、自衛隊は必要とされている。

 ここの従業員だと思われる人たちと何度かすれ違ったのち、俺たちは六道先輩の言う会わせたい人のいる場所と思われるところへとやって来た。


「失礼します。本条健斗をお連れしました。」


「おっけ〜、入って来ていいよ〜」


 聞き覚えの無い陽気な返事に対して、六道先輩は失礼しますと言って自動ドアを開けて中に入った。俺も、後に続いて中へと入った。

 部屋の中には、1人の男と1人の女がそれぞれ高そうな椅子に座っていた。彼らは30代ぐらいの男女で、内側にはそれぞれ凄まじい量の魔力を忍ばせていた。

 少し警戒心を高めつつ、俺は彼らの言葉を待った。


「わざわざ足を運んでもらってごめんね〜私自身はフットワークが軽くいきたいんだけど〜部下が許してくれなくてね〜。君がこっちに来てもらうことになっちゃったんだ〜突然こんなところに連れてこられて驚いた〜?」


「えぇ、まぁ。」


 先に部屋の中にいた2人のうち、一番偉そうな態度をしていた女が話し始めた。白と黒が混じり合ったショートの女で、どことなく俺の良く知る親友に似ていた。


「まずは自己紹介からいこうか〜私は藁科茜わらしなあかね、ゆいくん、じゃなかった黒白の実の姉で〜す。」


「は?」


「君のことはよく知っているよ〜健斗くん。私たちの計画に参加してくれてありがと〜」


「ちょ、ちょっと待って下さい!結人さんのお姉さんなんですか?」


「そうだよ〜。ゆいくんは、正真正銘私の弟だよ〜」


 本当に黒白、いや藁科結人さんと姉弟関係にある確証は得られなかったが、少なくとも髪色と独特の雰囲気から結人さんや明日人の親戚であることは確信できた。まだ会って数分しか経っていないが、雰囲気が驚くほど似ていた。おそらくは、彼女が言っていることは全て真実なのだろう。


「それともう一つ、まだ参加すると約束はしていませんよ?今回はとりあえずお話を聞こうと思って・・・・・・」


「え、まだ了承してくれてなかったの?」


「してないですよ。何度も伝えたじゃないですか?」


「え、じゃあ了承してくれていないのに秘密基地に連れて来ちゃったの?」


「そうですよ?茜さんがそうおっしゃったじゃないですか・・・・・・」


「うそ・・・・・・」


「まじです。」


「・・・・・・まじだ。」


 呆れながら言う六道先輩に対して、茜さんは借りてきた猫のように大人しくなりながら、自身の過去の発言を遡った。そして、過去に自分が、実際に言っていたことを過去の自分の音声データで確認すると、わかりやすくその場に崩れた。

 隣の男は、茜さんが崩れ去ったことを確認すると、謝罪と共に俺に話しかけて来た。


「うちのボスがすまないな、健斗くん。どうやら、君に力を貸して貰えると勘違いして一人で舞い上がっていたみたいだ。」


「大丈夫です。えっと貴方は・・・・・・」


「そーいえば、自己紹介がまだだったな。俺は仙洞田せんどうだいつき、この女とこの女の弟には星間戦争の時に借りを作ってしまってな、今はこき使われている感じだ。」


「は、はぁ・・・・・・」

「ちょ、ちょっと〜こき使ってなんかいませんけど〜?」


「やらかし歴史を今からここに列挙してやろうか?」


「え、遠慮しときま〜す。」


 何故か、樹さんの苦労がよく伝わった。どうやら茜さんは、明日人や衣夜とおんなじような感じの人なようだ。樹さんには、思わず同情してしまう。


「まぁこの女のダメなところの話は置いといて、今日君をここに呼んだわけを話そうか。」


「はい。」


 急に真面目な口調になった樹さんに対して、俺も真面目な口調で対応した。どうやら、茶番は終わりらしい。


「君も知っていると思うが、先日この女を除く藁科一家がツクヨミタワーとともに消滅した。まぁ実際は、消滅ではなく転移魔法でどっかにワープしたわけだが、この魔法には十中八九結人か、その息子の明日人くんが絡んでいる。つまりは、この宇宙空間の何処かにいるということだ。」


「地上の可能性は無いんですか?」


「ほぼ100%無い。奴ら今、ジルトレアと各国の機関から身を隠している状態にある。だが地上では、地球上に120個も存在するMSS魔力感知システムから逃れられないからな。」


「え?逃れられないんですか?」


「あぁ、普段結人やその家族が普通に生活できるのは、各国に配る前の状態のMSSに細工をして、自分と家族だけはシステムに誤作動を起こさせるようにしているからだ。だからこれまで、結人が黒白であることは世間にバレていなかった。だが、MSSが各国の手にあるこの状況で、ツクヨミタワーにいた社員全員とツクヨミタワーに取り付けられている複数の魔力融合炉を誤魔化すのは流石に不可能だ。だから、少なくとも大気圏内に奴らはいない。」


「っ!ということは・・・・・・」


「そうだ。奴らは今、宇宙空間にいる。」


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 どうでもいい話

 藁科茜&仙洞田樹、果たして味方なのか、敵なのか。

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