第3話 信じるべき道

「・・・・・・今日も来てないか。」


 ツクヨミタワー消滅事件は、世界に大きな混乱と衝撃を与えた。その一方で、俺が籍を置いている『国立日本魔法師育成学校東京校』は今日も平常運転であった。

 朝礼が始まったところで、俺は今日も昨日と同様、3人の生徒が欠席であることを確認した。

 その欠席をした生徒というのは、藁科明日人、藁科衣夜、そしてルーシア=ハーンブルクの3人だ。ツクヨミ社CEO藁科咲夜の実の息子と娘である明日人と衣夜が登校できないのは仕方ないとして、俺のルームメイトであるルーシアも同様に姿を見せていなかった。それどころか、この3人とは一切連絡が付かず、安否確認すらできていなかった。


「何でツクヨミタワーにいるんだよ。」


 これは後から分かったことであるが、ツクヨミタワー襲撃事件があった日、ルーシアは彼女の魔法の師である藁科咲夜さんに魔法を習うためにツクヨミタワーの中に偶然いたらしい。彼女の行方はツクヨミタワー消滅以降分かっていないので、おそらく巻き込まれたのだろうと推測できた。

 俺の記憶が正しければ、ルーシアにはツクヨミタワー襲撃があるかもしれないことは、事件があった当日の下校中に伝えたはずだ。にも関わらず、ツクヨミタワーに向かったということは、彼女が咲夜さんもしくは結人さんにツクヨミタワー襲撃の可能性があることを伝えたのだろう。その証拠に、ツクヨミタワーはジルトレアからの襲撃を防ぎきり、逃亡に成功している。

 つまりルーシアは、ジルトレアではなくツクヨミ社の側についたということになる。


「ジルトレア側につくか、ツクヨミ社側につくか、健斗くんはどちらにするのですか?」


「俺は・・・・・・」


 相変わらずの意味のわからない授業を終えた放課後、俺は久しぶりに所属先である懲罰委員会を訪れた。例のテロ行為やらツクヨミタワー襲撃事件やらで、しばらくの間顔を出せていなかったので、六道先輩と会うのも久しぶりであった。六道先輩の容姿は1ヶ月前と何も変わっておらず、相変わらず身長の低いロリ先輩のままであった。


「正直言って、まだ判断が付かずにいる。テロ行為の内容から黒白の関与が疑われるのは当然だと思うが、だからといってツクヨミタワー襲撃はやり過ぎだ。それによって発生する世界の混乱を考えれば、あの襲撃は明らかな悪手だ。」


「私も、襲撃については同意見です。幸い、ツクヨミ社の株は100%経営陣である藁科家が保有していたので、世界経済へのダメージはそれほど大きくありませんでしたが、それでも無視できない影響を与えました。テロが発生して焦るのは理解できますが、それを考慮したとしても、焦り過ぎだと思います。上層部は何を考えているのでしょうか・・・・・・」


「さぁな。」


 言葉を濁したのではなく、本当に知らなかった。そもそも俺は、政治的なことに関しては無干渉を貫いているし、俺という個人が政治に干渉するのは良くないと思っていた。だから、多少政治的な交渉カードにされたとしても文句を言わずに従っていたし、命令されれば自身の平穏を守るためにその力をふるってきた。


【無干渉ではあったかもしれないけど、文句ならたくさん言っていたわよ。】


 いいんだよ、そんなツッコミは。

 だが、今回の件を受け、これからの社会を考えるならば俺も自分の考えを持つべきなんじゃないかと思えた。俺自身も、どの正義を信じて行動するかを選ぶべきだと思った。

 ツクヨミ社を信じ、危険であることを知った上でツクヨミタワーへと向かうことを選んだルーシアのように。


「唯一言えることは、ジルトレアもやる時はやるということだ。現に、ツクヨミ社という前例を作ってしまった。一度歩みを進めたら、もう戻ることは許されない。」


「これから先、人類はどうなるのでしょうか・・・・・・」


 既に、ジルトレアがツクヨミタワーを襲撃した事実は公のものとなっていた。ツクヨミ社が世間に向けてこの事実を発表したことによって広まったことであるが、ジルトレアはこれが事実であることを認めていた。

 ジルトレアは嘘偽りを述べることなく、ツクヨミタワー襲撃に至った経緯を世間に向けて公表し、その上で襲撃を正当化しようとした。また、ツクヨミ社と黒白に関係があることは証明され、公表されており、ツクヨミ社の対応が曖昧であったこともあり、またしても世論を二分した。

 各国は、対応を迫られており、同時にジルトレアの内部分裂も噂された。最高指導者であるゼラストを筆頭とする黒白擁護派と、過去の英雄であるレネを筆頭とする黒白排斥派に分かれていた。また、多数派を占めるのは黒白擁護派であり、二転三転するジルトレアの対応には、各国も頭を抱えていた。

 ちなみに、我らが日本魔法協会の会長である有栖川さんは未だに明確な答えを出さずにいた。


「先のことはわからないが、俺は今信じていることをやり通すつもりだ。違っていたら、悩めばいい。悩んで苦しんで、また歩き出す。」


 俺は、現時点での自分の考えを伝えた。正直なところ、どっちが正義でどっちが悪なのかはわからない。両方とも正義である可能性だってあるし、大事なのはそこじゃない。

 自分の正義を信じて行動できるか否か、だ。

 俺がそのことを伝えると、何か覚悟を決めた六道先輩が口を開いた。


「あの、健斗くん、一つ提案があります。」


「なんだ?」


「私たちと一緒に探しませんか?ツクヨミタワーを。」


 それは、想定外の勧誘であった。

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どうでもいい話

2日に1本投稿に頑張って戻したい(希望)

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