宇宙編

第1話 役割と果たすべき使命

 ジルトレア・カーペンタリア基地


「一体どうなっている!」


 男は、この場に集まった同志に対して怒鳴り声をあげた。

 男の顔は怒りに満ち溢れており、今にも人を殺しそうな雰囲気を漂わせていた。

 ここカーペンタリア基地は、ニューオリンズ、ジブラルタルに続く第3のジルトレアの拠点であり、多くの艦船や魔法師が集まる重要な拠点であった。そんな一大拠点のとある一室にて、心を同じくする者たちが集まっていた。


「例の作戦は中途半端な結果に終わり、その後の『ダウンムーン作戦』は失敗に終わった。その上、あの女が出した例の声明によって、纏まりを見せていた民衆の声も割れてしまった。」


 ツクヨミタワー消滅から2日後、誰もがツクヨミ社の動向に注目し、様々な憶測が飛び交う中、ツクヨミ社から声明が出された。ツクヨミタワーがジルトレアから襲撃を受けたこと、安全を確保するために一時的に本社の位置を移動したこと、そして黒白が無実であることを訴えた。

 世間の反応は様々であったが、少なくとも襲撃を行ったジルトレアに対して不信感を抱く者が増え、世界は再び混乱の時代へと進もうとしていた。


「一体どう責任を取るつもりだ、白銀っ!対応によっては、貴様を締め上げることだってできるんだぞ!」


「え?私?私は最初っから、ツクヨミ社を攻撃するのは反対していたじゃん。ツクヨミ社には、お兄ちゃんがいるんだから手を出すなって言ってたじゃん。それなのに、ツクヨミ社の技術欲しさに襲撃を強行したのは君たちでしょ?」


 白銀は、最初からツクヨミタワー襲撃に反対していた。自身の兄である黒白がいるツクヨミ社を攻撃するなど、自殺行為に等しいことを理解していたからだ。だが、白銀はツクヨミタワーに黒白がいるという情報を彼らに伝えず、ただ辞めた方がいいと主張するだけであったため、男たちはジルトレアに指示を出してツクヨミ襲撃を実行させた。

 しかし、結果は最悪と言っていい内容であった。ツクヨミタワーには逃げられ、ジルトレアの信頼度を大きく下げる結果となった。また、ツクヨミ消滅の翌日に世界各国に存在するツクヨミの支社や支部にも強制調査及び襲撃が行われたが、結果は思うようにはならなかった。重要な情報や技術は、全てツクヨミタワーへと移された後であり、ほぼもぬけの殻状態であった。

 ツクヨミ社という、人類で最高の技術を持つ企業から技術を奪取することは叶わず、一連の騒動は無とかした。それどころか、本来の目的を見失うような行動は、彼らの輪を乱した。


「そもそも貴様が最初の作戦に失敗したのが、全ての元凶であろうがっ!」


「それはしょうがないじゃない。本条健斗がこれほどまでに優秀な魔法師とは思わなかったんだもん。それに、それとこれとは別でしょ?」


「なんだと?!」


「あ〜もしかしてまだわかっていないの?1人の強力な魔法師の存在は、国家をも上回るんだよ。」


「「「っ!」」」


 白銀の言葉に、誰もが反論する言葉を失った。彼女だからこそ、他の者たちは何も反論できなかった。

 一騎当千という言葉があるが、魔法が核兵器を上回るこの世界において、魔法師ほどこの言葉に相応しい存在はない。

 今や魔法師が活躍する場所は、何も戦場だけではない。魔法は様々な分野で利用されており、その活用範囲はもの凄く広い。


「凡人がどれだけ集まろうと、選ばれし者には勝てない。同じS級魔法師という括りの中でも、彼は特別な存在だわ。まさかそんなことも理解できていなかったなんてね。」


「貴様っ!言わせておけばっ!」


「この辺りで辞めたまえ、諸君。これ以上の内輪揉めは流石に看過できん。」


 これ以上揉めるのは良くないと判断した初老の男は、割って入って言い争いを止めようと試みた。彼はこの集まりの長であり、まとめる立場であった。


「あら、私は最初から冷静よ。そこの下等生物とは違って。」


「貴様っ!」


「辞めんかっ!」


 怒り、立ち上がった男に対して、低い声が響いた。その場にいた全員が思わず口を止め、先ほどの初老の男の方を向いた。男は、先ほどよりも険しい顔をしており、室内の緊張感が一気に高まった。


「双方控えよ。白銀殿の助言を無視して目先の利益を追ったのは我々の落ち度であるが、最初の作戦が微妙な結果に終わったのは白銀殿の失態だ。」


「「「・・・・・・」」」


「だが、白銀殿だけを責めるのは間違いだ。我々は彼女に対して、何の手助けもできずにいたのだからな。そのことを全員肝に銘じておけ。」


「・・・・・・それもそうだな。」

「うむ。」

「あぁ。」


 そもそも今回の計画の肝は白銀であり、この段階で白銀の機嫌を損ねるわけにはいかなかった。男は、上下関係を明確にしつつ、組織全体の安定を図った。白銀がいなくなれば、計画は白紙に戻ってしまう。


「さて、場が温まったところで、会議の続きをしようか。我々に残された時間は少ないからな。」


「良い判断だな。」

「それもそうだな。」

「そうだな。我ら『シャビアンテ』の夢のためにも。」


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 どうでもいい話

新章もどうぞ宜しくお願いします。

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