第20話 sideシーナ6

「ふふふ、先ほどの戦闘が嘘であるかのように、気持ち良さそうに寝ていますね。」


『ルキフェル』を名乗る超生物の存在が消えると、健斗の身体はまるで力を失ったかのようにその場に倒れた。まぁ、おそらくは力を失ったのではなく、内側に引っ込んだだけだと思うが・・・・・・


「これが異世界から来た勇者の、隠された力か、まったく彼が敵で無くて良かったですな。」


「強すぎ・・・・・・」


 話し合いの結果、健斗が起きるまでその場で待機することになった。私は健斗を自身の膝を上に乗せ、目を覚ますのを待った。『ルキフェル』が消える直前に言っていたことが本当ならば、もう少しすれば眠りから覚めるはずだ。

 念のため、魔法使いのトワトリカさんと騎士のメルンさんの二人に周囲の警戒をしてもらっているが、幸いなことに付近に魔族や魔獣の反応はなかった。既に日が落ちているので、光魔法を使って周囲を明るくしつつ、健斗が起きるのを待った。


「ところで先ほどの魔族との戦闘、トワトリカさんは理解できましたか?」


「全く、わからなかった。わかったことは、魔法であることぐらい。」


「そうですか・・・・・・」


「理解しようとすることを諦めた方がいい。人間には、不可能。」


 世界でも5本の指に入るほどの魔法使いであるトワトリカさんの言葉に、私は思わず納得してしまった。それぐらい、今までの常識とはかけ離れた戦闘スタイルであり、誰にも真似できない戦い方であった。以前から可能性を感じていた存在ではあるが、健斗の内側にいたのは、紛れもない化け物であった。少なくとも、私が今までに見た中で最も強い存在であった。トワトリカさんに会った時もあまりの魔法力の高さに驚いたが、そんな彼女から見てもルキフェルという超生物は異次元の存在であった。例えるなら、雨の雫と海ぐらいの差があるように感じた。


「私も、トワトリカ殿の同意見だ。アレは間違いなく、人の理を超えている。我々が束になって戦っても勝てる気が微塵もせん。」


「ん、私もメルンと同じ。」


 これに関しては、一切反論の余地はない。もし仮に、健斗さんがその気になれば、私たち3人は骨も残らずに消されるだろう。これは比喩では無く、正直な感想であった。私も、彼女に勝てる気は全くと言って良いほどしなかった。少なくとも、私たちが人間であるうちは勝てないであろう。もちろん、人数の問題ではない。この世界の人類が皆で協力したとしても、勝てるか微妙なところだ。それだけ、彼女は異次元の強さを持っていた。


「それにしても、気持ち良さそうにしているな、彼は。」


「はい、きっとお疲れなのでしょう。彼の精神事態はそれほど疲れていないはずですが、身体の方はルキフェルさんによって色々と酷使されましたし・・・・・・」


「魔力の消費はそれほど多く無かったけど、魔力回路をたくさん使っていたから、多分それのせい。どうなるかは、私にもわかんない。」


 トワトリカさんがそう発言した直後、健斗が目を覚ました。健斗が倒れてからおよそ20分、思ったよりも早い帰還であった。


「ん・・・・・・?ここは?」


「ガラシオル帝国東部のアルデンヌの森です。お身体の方は大丈夫ですか?」


「何ともない。その反応から推測するに、俺はルキフェルの奴に身体を乗っ取られていたんだな。」


「はい・・・・・・」


 場所を伝えると、それだけで健斗は状況を理解したようであった。ゆっくりと起き上がると、辺りを見回したのち、再び私の方を向いた。


「おかえりなさい、健斗。」


「ただいま、シーナ。」


 ここが戦場であることも忘れて、私は健斗に抱きついた。



 *



 翌日


「総出で探しましたが、『ルキフェル』という名を持つ天使についての文献は残っておりませんでした。」


「そうですか。では、やはり・・・・・・。」


 それは、予想通りの回答であった。

 大の本好きであり、幼い頃から王城の書物庫に籠り数多の本に触れて来た私が知らない単語『ルキフェル』、念のため信頼のできる部下を集めて調査を依頼したが、目立った成果は得られなかった。

 彼女は一体何者で、何故健斗に力を貸しているのだろうか。


「捜索を続けますか?」


「いいえ、結構です。通常の業務に戻って下さい。」


「了解っ。」


「ふぅ・・・・・・。」


 色々と可能性を考察してみたがわからなかった。情報が少ない上、天使のような超生物に関することはほとんどわかっていないので、仕方ないと言われれば仕方ない。

 ならば、現状ある情報だけで最善を選ぶしかない。


「トワトリカさんはどのようにするのがいいと思いますか?」


「何もわからない、から、静観するべき。」


「では、現状維持が良いということですか?」


「少なくとも敵対していない以上、こちらからちょっかいをかける必要はない。何か動きがあったり、健斗から相談されたりしたらどうするか考える。」


「分かりました。では、それでいきましょう。」


 トワトリカさんの意見に、私は従うことにした。彼女の言う通り、『ルキフェル』と名乗る天使は現状、味方とは言えないかもしれないが敵ではない。敵では無い以上、変に行動を起こすことは悪手だ。最悪の場合、彼女と敵対してしまうかもしれない。

 一つ確かなことは、彼女には人智を超えた力があるということだ。

 私たちは、これ以上踏み込むべきではないと判断した。


____________________________________________

どうでもいい話

ルキフェルの過去についてはまた次回〜

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