第19話 2人の戦士と傍観者

「・・・・・・どういう状況ですか?これは。」


「健斗・・・・・・」

「健斗君・・・・・・」


 地面に転がる6人の大人を、良く知る幼馴染が物理的に見下していた。

 有栖川さんからは行くなと言われていたが、ツクヨミ社には日頃からお世話になっている上、明日人と衣夜が心配だったのでこっそり見に来ていた。当初は、見るだけのつもりであり、乱入する予定は全く無かった。だが、目の前のこの状況をスルーすることは、流石にできなかった。


「事情は聞いていますっ!ですがもう少し、なんとかならなかったのでしょうかっ!」


「・・・・・・」

「・・・・・・」


 俺は、力強く訴えた。ここで止めなければ、取り返しのつかないことになりそうだったからだ。

 実際に被害が出ているのだから、犯人探しが必要なことは間違いない。だが、黒白とは無関係のツクヨミ社を襲撃するのはやり過ぎだと思う。

 何が正解なのかはわからない。だけど、この展開は正解じゃないはずだ。


「仕方がなかったんだ・・・・・・。私も、正直なところ黒白があのテロを行ったとは考えてない。だが、事態がはっきりするまでは黒白が犯人であるということにして世間の目を誘導するのが最善の判断だと考えている。」


「でも、だからと言って・・・・・・」


「黒白1人の犠牲で戦争が回避されるなら安いものだ。君にはわからないかもしれないが、これは必要なことなのだ。」


「・・・・・・」


 何も言えなかった。

 俺は異世界で、戦争を経験している。人類と魔族による生存競争という、泥沼の戦争を向こうの時間で4年間も経験した。だから、戦争を回避するためなら何でもするという感覚を理解できた。

 同時に、自分の行動一つで、再び戦争に発展してしまう恐れがあることを理解した。


「止めないでくれ健斗くん、これが最善だ。」


「っ!」


「さぁ衣夜くん、続きをしよう。まぁ、もう勝負はついているようだがな。」


「まぁ、私の勝ちで間違いないみたいだね。」


 何も言えなかった、何もできなかった。

 手足が動かなかった。

 俺は、ただ2人の会話を聞いていることしかできなかった。


「じゃあ私は帰るね。時間魔法はもうちょっとしたら解除するから、それまではそこで我慢しててね。」


「ふっ、完敗だな。」


 ゼラストさんは最後にそれだけ言い残すと、まるで時間が止まったかのように動かなくなった。まるで、充電切れの玩具のように、ただ黙って空を見上げていた。

 ゼラストさんの顔を見ながら何かを確認した衣夜は、俺に背を向けると、ツクヨミタワーへと戻ろうとした。


「衣夜っ!」


 このまま何も言わずに別れるわけにはいかないと判断した俺は、ギリギリのところで衣夜を呼び止めた。

 俺の声を聞いた衣夜は、その場で足を止めた。振り向いてはくれないが、足を止めたということは、少なくとも俺の声を聞く意思はあるようであった。


「俺は、信じているからな。」


「・・・・・・」


 俺がそう言うと、衣夜は何も言わずに再びツクヨミタワーの方に向かって歩き始めた。一瞬、頷いたような気がしたが、おそらく気のせいではないはずだ。

 衣夜がタワーの中に入り、完全に姿が見えなくなると、ツクヨミタワーを中心に輪っかのような魔法陣がいくつも出現した。

 どれも、複雑な魔法式が刻まれており、俺は解読することをすぐに諦めた。だが、その魔法陣には見覚えがある部分があった。


「あれはっ!」


【転移魔法よ、気をつけてっ!】


「あぁっ!」


 巻き込まれる危険性を考えた俺は、すぐにその場から距離を取ろうと試みた。地面に転がっていたゼラストさん+5人の魔法師を抱えながら、ツクヨミタワーから離れた。

 他のツクヨミタワー襲撃メンバーにも、ツクヨミタワーから離れることを呼びかける。

 転移魔法に巻き込まれると、最悪胴体が真っ二つになってしまう可能性もある。転移魔法の具体的な効果を特定できない以上、近づくのは自殺行為に等しい。


「まさか・・・・・・」


【どうやら、そのまさかのようね。】


 俺が、とある可能性を頭の中で想定すると、その思考を読み取ったルキフェルが肯定した。

 その直後、凄まじい量の魔力と共に、ツクヨミタワー全体が光に包まれた。

 夕焼け空を掻き消すほどの光が周囲に広がった。俺は、その光に圧倒されて、思わず目をつぶってしまった。

 そして再び目を開いた時には、ツクヨミタワーの姿が何処にも無かった。


「やっぱりか・・・・・・」


 俺の予想が当たった。

 ツクヨミ社は、ツクヨミタワーごと姿を消した。土台だけが残され、建物部分は消えていた。


「追跡はできそうか?」


【・・・・・・すぐには無理ね。何十にもプロクテクトがかけられていて、解析には時間がかかりそうだわ。】


「そうか・・・・・・」


 *



『緊急速報です。ツクヨミタワーが姿を消しました。』


『昨日午後6時ごろ、東京湾に浮かぶツクヨミ社の本社、ツクヨミタワーが何らかの魔法によって姿を消しました。消滅の直前、超高密度の魔力が確認されており、専門家は転移魔法の類が使われたのではないかとしています。一方、この件に関してジルトレアは一切関与していないと述べており、何故ツクヨミタワーが消えたのかは現在もわかっておりません。』


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 どうでもいい話

 起承転結なら転かな?

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