第18話 決着

 1対6

 魔法師同士の戦闘において、数的有利というのは大きなアドバンテージとなる。単純に手数が増えるというだけで、魔法戦闘をかなり有利に進めることができる。

 だが、難しいだけで不可能というわけではない。


「・・・・・・何が起こった。」


 ゼラストは、気づいた時には空を見上げていた。

 周囲で見張りをさせていた3人のS級魔法師を呼び戻し、S級魔法師6人+自分という現状のジルトレアが用意できる最大戦力を使って少女に挑んだところまでは覚えている。しかし、そのあとの記憶がない。

 遅れて、自分が地面に寝っ転がっていることに気がついた。

 すぐに起き上がろうと試みたが、身体が動かなかった。


「あ、もう起きたの?流石過去の英雄、戻ってくるのが早いね〜」


「我々は、負けたのか?」


「ん〜この状況を客観的に見たら、負けになるんじゃない?」


「そうか・・・・・・」


 ゼラストの意識が戻ったことに気が付いた衣夜は、軽快な足取りで彼の元へとやって来た。そして、相変わらずの緊張感の無い様子で、ゼラストの顔を上から覗き込んだ。


「まさか、あの時の赤子に遅れをとるとはな・・・・・・」


「ん?」


「昔の話だ。」


 ゼラストは、目の前の少女がまだ赤子であった頃のことを思い出した。同時に、昔一度だけ抱き抱えたことがあったことも思い出した。あの可愛かった少女は、いつの間にか自分を超える人類最強クラスの魔法師に成長していた。数えられるほどしかいない時間魔法の使い手であり、現代のS級魔法師6人を同時に相手できるだけの実力を持つ化け物になっていた。

 しかも、ゼラストの記憶が確かならば、彼女はまだ未成年なはずだ。つまり、大の大人が6人で協力しても、目の前の少女に勝てなかったということだ。

 彼女の顔が、かつて共に戦った若き日の黒白と重なった。

 未成年の少女に負けたのは恥じるべきことであるが、黒白の娘に負けたと解釈すれば、自然と納得できた。ゼラストにとって、黒白は今もなお人類最強の魔法師であるからだ。


「首より下が動かせないんだが、これ元に戻るんだろうな?」


「時間魔法で、時間を止めているだけだから、魔法を解けば全て元通りになるよ。」


「そ、そうか。」


 言っていることは理解できる。

 だが、すぐには納得できなかった。

 もちろん、実際に行われているから可能なのだろうが、現代魔法学の常識をぶち壊すような時間魔法の乱用を、脳が処理するのに時間がかかった。こんなこと、彼女の父親である黒白だとしてもできないだろう。

 無理やり自分を納得させたゼラストは、改めて状況を整理した。

 身体は首より下が動かない。魔力を練るどころか魔力を感じることすらできないので、この状況から逆転するのはほぼ不可能、頭は動いているが逆転の手は思い浮かばなかった。仮に思い浮かんだとしても、おそらく彼女に無効化されてしまうだろう。

 つまりは、完全に詰みと言える状況であった。ならば、目指すべきは情報を引き出すことだ。せめて、黒白が白か黒かぐらいははっきりさせて起きたい。


「凄まじい魔法だな。もはや私には、どうする事もできない。」


「そりゃあ、お父さんが太鼓判を押してくれた魔法だからね〜。ゼラストさん程度じゃ、無理だよ。」


「魔力を感じることすら封じたら、相手はもうどうする事もできないんじゃないのか?」


「横槍が入らなければゲームセットだね。でも、部分的とはいえ時間を止めるためには集中力が必要だから、こんな感じに相手が密集している時にしか使えないのが弱点かな。」


「なるほどな。」


 衣夜の対応力には限界があると予想して、周囲に待機させていた魔法師たちを呼び戻した先程の判断は、どうやら間違いであったようだ。彼女は最初から、背後にあるツクヨミタワーを守りながら戦っていた。東西南北に配置したS級魔法師がいつ動いても対応できるように動いており、私の判断は逆に彼女助けになってしまっていた。

 まぁどちらにせよ、黒白の娘に喧嘩を売った時点で、こうなることは確定していたのかもしれない。


「世界を統べる組織が、一つの家族に負けるとはな。これからどうするつもりなんだ?」


「さぁ?私はただの時間稼ぎだから知らな〜い。多分だけど、お父さんたちの計画通りになるんじゃない?」


 衣夜は、本当に知らない様子で答えた。おそらく、本当に何も聞かさせていないのだろう。演技の可能性もあるが、この際どちらでも構わない。

 曖昧な表現を使った腹の探り合いは無意味と判断したゼラストは、衣夜に対してストレートに尋ねることにした。


「黒白は、いやお前の父親は何を企んでいるんだ?」


「イセンドラスを守るためにはこれしかない。って言ってたよ。」


「っ!それは、本当か?!」


「うん。誰かがお父さんに濡れ衣を着せようとしているんだけど、その誰かがはっきりするまでは悪役になっておくって言ってた。」


「・・・・・・」


 ゼラストは、頭の中で必死に思考を加速させた。黒白の言動の意図を予想し、自身が取るべき最善の選択肢を模索した。

 だが、ゼラストが結論を出す前に、横槍が入った。


「おい衣夜、これはどういうことだ。」


 衣夜とゼラストの間に、一人の男が割って入った。

 物凄い魔力を放ちながら、衣夜を睨んだ。

 睨まれたら衣夜は驚きながら、男の名を呼んだ。


「健斗っ!」


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 どうでも良い話

 すみません、体調不良のため休んでいました。

 今日から再開します!

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