第17話 時空龍とかつての頂点

「こんなことがっ!」


「ざんねーん。」


 どれだけ力を込めても、どれだけ速度を上げても、刃は衣夜へ通らなかった。より正確に言うならば、刃と刃が交わった直後に時間が巻き戻され、無かったことにされる。彼女の前では、直線的な攻撃は意味をなさない。


「くっ!」


「考えなしに突っ込むなっ!あの剣、あれは龍の力を宿した魔剣だ!そこら辺の魔法具と一緒にしたら一瞬でお陀仏だぞ。」


「「はいっ!」」


 かつての英雄であるゼラストの言葉に、バレンたちは頷いた。3人の中で最も経験が豊富であり判断能力の高いゼラストの言葉を疑うものはいなかった。

 警戒心を高めた3人は、衣夜から距離を取ると彼女の一挙手一投足に注目した。魔法師同士の戦闘において視線の誘導は常套手段、いくら魔力感知があるとはいえど、敵から視線を逸らすのは悪手だ。ワンテンポ視線を逸らしただけで、次の瞬間固有魔法によって頭と身体が物理的に離されている可能性だってある。


「まずは小手調べからだ。」


「いいよ〜」


 目の前の少女に関する情報が少ないため、深入りするのは危険だと判断したゼラストは、まずは衣夜の間合いと手札から適応することにした。人数的なアドバンテージを活かして、お互いがお互いをカバーして大きな一撃を喰らわないように立ち回り、できるだけ距離を取りながら戦った。

 最も警戒すべきなのは、もちろん彼女が左手に持つ魔剣だ。かつては白銀の愛剣としてその名を轟かせた時空龍ヘレナ、その能力は術者の時間魔法との相性を一時的に良くし、人間の限界を超えた魔法を可能にすると言うもの。

 だが、目の前の少女を白銀と同じと捉えて良いかと聞かれればそうではない。先ほど彼女が見せた魔剣や身体に時間魔法を使った防御フィールドを形成する魔法、あれはおそらく彼女のオリジナルの魔法だ。少なくとも、ゼラストの見たことのない魔法であり、ジルトレアのデータベースには無い魔法だ。

 もちろん、魔剣と時間魔法だけ警戒すればいいというわけではない。彼女が先ほどまで、当たり前のように使っていた炎の魔法や加速系の魔法など、まだまだ隠している手札はたくさんあるはずだ。


「<アクアカッター>。」


「・・・・・・。」


 剣と剣のぶつかり合いの合間に、隙を見てゼラストは横一文字に振り払うような攻撃を仕掛けた。

 <アクアカッター>はその名の通り、水を高速で飛ばして相手を切り刻む魔法だ。日本ならば中学生で習う比較的簡単な魔法だが、かつて世界の頂点に輝いた男が放つと、まるで津波のような厚みのある攻撃となった。

 様々な技術と工夫がつまった絶対に避けられない間合いとタイミングで放たれた一撃、それを少女は一瞬にして全身を魔力障壁で覆うことによって攻撃を防いだ。純白の美しい魔力障壁は、傷一つ付かずに攻撃を受け止めた。

 だが、これでいいのだ。ゼラストの目的は別のところにあった。


「やはり、水や空気、音といった物は防御フィールドの対象外のようだな。攻撃をオートで無力化しているなら、魔法の対象外の要素を使って攻撃すればいい。」


「・・・・・・」


「沈黙は肯定と受け取ろう。それと、時間魔法の方も使いたい放題というわけではないようだな、時間魔法の同時行使は4つあたりが限界のようだな。」


「っ!」


 ゼラストは、衣夜の戦い方を分析し、できることとできないことの境目を探った。相手の戦力をしっかりと把握した上で、有効的かそうでないかを分類し、頭の中で戦術を組み立てる。

 戦闘における観察力と思考力の高さは、ゼラストの武器だ。星間戦争時代中期、他の有力な魔法師たちを抑えて彼が序列一位に君臨できたのは、この力によるところが大きい。決して、彼がアメリカ人であることが原因でない。


「っ!」


「先ほどまでの余裕がなくなっているぞ、小娘。」


「こんなものっ!」


 戦闘開始から10分弱が経過した今どちらが優勢か聞かれれば、10人いれば9人か8人は少女の方であると答えるであろう。だが逆に言えば、1人か2人は少女が負けると答えるほど、ゼラストは衣夜の動きに適応し始めていた。戦闘が始まった直後は、ぜラストたち3人を圧倒していたが、徐々にその差が埋まりつつあった。

 この時点で、最低でもS級魔法師に匹敵する実力を持っていることは確定していたが、それでも黒白に匹敵するかと聞かれれば否と答える。ポテンシャルがあることは認めるが、経験値が圧倒的に足りないと判断した。

 そしてそれを裏付けるかのように、ゼラストたち3人に少しずつ余裕が生まれ始めた。それまでは、お互いがお互いをカバーすることに一生懸命であった3人であったが、少しずつ連携も強化され始めた。


「お爺さんの癖に!」


「まだ現役さ。<光の捌き>」


「<魔力障壁>っ!」


 そしてもう一つ、ぜラストには有利な点があった。それは、自身が光の精霊使いであることだ。水や空気同様、光も衣夜の魔法の対象外となっており、ゼラストにとって相性の良い相手であった。


「そろそろ終わらせようか。」


「っ!」


 戦いの合間、生まれた余裕を使って、ゼラストは部下に合図を送っていた。

 その内容は・・・・・・


「お待たせしました、ゼラストさん」

「来てやったぜ、爺さん」

「ん・・・・・・」


「よく来てくれたな、3人とも。」


「それで、獲物は目の前の嬢ちゃんってことでいいのか?」


「あぁ。」


 それまで外周で監視をさせていた残り3人の魔法師を呼び戻し、戦闘に加えた。衣夜が同時に使うことができる時間魔法の数はおそらく4、つまり人数差があると弱いとまでは言わないが、対処が間に合わなくなると踏んだ。

 これで戦場は6対1、子供相手に大人気ない気もするが、相手が相手なので恥を忍んで叩き潰すことにした。


「一気に畳み掛けるぞ。」



 6人は、息を揃えながら目の前の少女に照準を定めた。

 だがその直後、少女はニヤリと笑った。


 ___________________________________

 どうでもいい話

 依夜と衣夜がごっちゃになり始めていることに気づきました、放置することしました。

 暇な時間があれば直します。

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