第16話 最強の子供

「あーあ、バレちゃったか。」


 今までの丁寧な口調から一転、紅焔の仮面を被った何者かはゼラストの良く知る紅焔とは全く違う口調となった。警戒心を高めたゼラストは魔剣に魔力を込め、いつでも全力の一撃を放てるように構えた。


「答えろっ!何者だ!」


「ん〜どうせなら当てて欲しいな〜」


 不適な笑みを浮かべながら少女は言った。先ほどまで真っ赤に燃えていた髪色は最初に見た白に戻り、紅く輝いていた瞳も黒に戻った。彼女を包んでいた魔力のオーラは真紅から白と黒へと変化し、明らかな別人となった。


「まさか・・・・・・」


 だが、彼女の魔力から滲み出る魔力パターンだけは、ゼラストの良く知る紅焔のモノとそっくりであった。ゼラストが見間違えるほど良く似た魔力パターン、そんな物を持ち得るのは紅焔の血縁者しかいない。ゼラストの記憶が確かならば、紅焔に兄弟姉妹はいない。

 そして、彼女が放つ白と黒の混ざり合ったようなオーラ、ゼラストにはコレと同じオーラを放つ人物に心当たりがあった。

 となれば、彼女が何者であるかは推測できる。


「藁科衣夜っ!」


「正解っ♪」


 そう言うと、まるで時間を遡るかのように、地面に転がっていた狐の面が宙に浮き、破片同士が合体して元に戻った。そこは、仮面がバレンの攻撃によって斬られた直前の位置であり、仮面はひとりでに空中で静止した。


「ふ〜危ない危ない。この仮面、ママから貸してあげるけど、傷一つ付けるなって言われているんだよね〜」


「なっ!」

「時間魔法をこんなにあっさりとっ!」


 人の数だけあると言われている魔法、その中で最も難易度が高いと言われているのが時間魔法だ。『時間』という、世界の理に干渉するこの魔法を扱うのは難しく、常人にはまず不可能、魔法師の頂点であるS級魔法師でも扱えるのは数人だ。

 だが、目の前のこの女は、ゼラストが今までに会った誰よりもスムーズに時間魔法を使った。しかも、壊れた仮面を直すためだけに、この神の如き魔法を唱えた。

 それは彼女が、世界で3人目の時間魔法の使い手であることを示していた。


「さて、ウォーミングアップはこれぐらいにして、本気を出そっかな。」


「今までのが、ウォーミングアップだと?!」


 考えてみれば当たり前な話だ。なんせ彼女は、自分の戦闘スタイルではなく、母親のフリをした状態で今まで戦っていたのだ。

 炎の魔剣を亜空間へとしまった衣夜はゆっくりと目を閉じ、集中力を高めた。全身の魔力回路をコントロールし、最適な状態へと持っていく。常人が感覚的に行うそれを、彼女は魔法を使って行った。


「<ラストノート>」


 魔力の最適化、自分だけの魔法の教科書を創るという魔力の扱いを極めた者だけが辿り着くことができる極地の中の極地を、たった16歳の少女が軽々とやってのけた。ゼラストがどれだけ努力を重ねて届かなかった、魔法を使う上でこの上なく極限に近い状態だ。

 空気が震えた、圧倒的な存在感によってその場は支配され、とてつもないプレッシャーが全身を襲った。

 同じような感覚に襲われたのは過去に2人、黒白と白銀だけだ。


「それを、既にものにしているとはな。」


「便利だからね〜。覚えるのはちょっと手こずったけど、一度覚えたら簡単だよ〜」


「それを手こずったで済ませる君が羨ましいよ。」


 体内外の魔力をロス無しで操れるようになる技術、これを軽々と使える時点でゼラスト達よりもあらゆる面で優れていることがわかった。

 だが、衣夜の行動は終わらない。


第一段階突破ファーストリミットブレイク<龍召喚リリースー時空龍ヘレナ>」


 あたり一面が光の柱によって包まれると、圧倒的な存在感と共に超生物が顕現された。それは伝説上の生き物、見た目は魔剣と似た形をしているが、中に秘められたエネルギーは明らかに魔剣のそれではなかった。


「お待たせ、じゃあ始めよっか。」


「は、ははは、は・・・・・・」


 ゼラストはもはや、笑うしか無かった。

 呼び出された超生物には見覚えがあった。

 それはかつて、世界最強の一翼を担った白銀が契約していた龍、この超生物はその名の通り時空を支配する。

 それはかつて、黒白を前にした時と似た感覚、圧倒的な強者の放つ威圧感、そして余裕。


「・・・・・・」


「・・・・・・」


「おらっ!!!」


 しばしの沈黙。そして、それを打ち砕く横槍が入った。

 それまで周囲の包囲網役として配置していたS級魔法師の一人が、視界の外側いきなり現れて攻撃を放った。放たれたのはゼラストと同じ大剣によるパワーの限りを尽くした一撃、だが結果は虚しくもゼラストの予想通りであった。


「ざんねーん。」


「なっ!」


 彼の大剣は、衣夜の龍剣によって完璧に受け止められていた。衣夜は、背後からの攻撃を振り撒きもせずに片手で受け止めた。それどころか、放ったはずの衝撃波すら無かったことにされていた。

 何が起こったのか理解できなかった。だが、こんなことを可能にしているのが時間魔法であることだけはわかった。


「剣と剣が触れ合った直後に、剣が当たるほんの少し前に時間を遡る魔法をかけているの。だから、どんな攻撃もこの剣に触れたら無かったことになるの。」


「ならばっ!」


「ざんねん、身体にもかけてあるから。私に物理的な攻撃は効かないよ。」


「んなっ!反則だろ・・・・・・」



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