第15話 剥がれた仮面
バレン=ロッド
アメリカ所属の現役のS級魔法師の一人で、世界を代表する現代の魔法師だ。彼がS級魔法師になったのは、星間戦争終結から2年後の春、ジルトレアの主力メンバーが揃って引退を表明し戦力が大幅にダウンしたことを受けて、ジルトレアは急遽A級魔法師の中で最もS級魔法師に近いとされていた魔法師をS級魔法師へと昇格させた、それが彼だ。
「こうして向かい合うのは初めてですね。」
ゼラスト一行には無い余裕を見せながら、紅焔はそう呟いた。仮面の隙間から見える彼女の瞳は赤く輝いており、目の前に立つゼラストとバレンに対して微笑んだ。
所作の一つ一つに無駄がなく美しい、見ているものを虜にし、その場を支配する。
「気をつけろ、バレン。目の前のこの女を、16年前の紅焔と同じだとは思うな。少なくとも16年前の紅焔では、あれだけの速度は出せなかった。ぬかるなよ。」
「はいっ!」
そう言うと、ゼラストとバレンの2人はそれぞれ魔力回路に魔力を流し始めた。魔法師にとって魔力回路に魔力を流すという行為は、魔法を効率よく瞬時に放つための準備であり、相手に対して警告を与えると言う意味を持つ。続いて、二人は亜空間から魔剣を取り出し、戦闘をする準備を整えた。
「先手はお二人に譲ります。どうぞ、2人まとめてかかって来てください。」
「そうさせていただく。」
「行きますっ!」
最初に動いたのは、バレンだった。
避けるように紅焔の側面へと回り込んだ彼は、彼の得物である2丁の拳銃型の魔法具による攻撃を始めた。彼の戦闘スタイルは、中距離からの射撃と手数の多さによるゴリ押し、一撃の火力はそれほど高くないが、手数の多さで敵を上回るというスタンスだ。
続くゼラストは、バレンに合わせるように動いた。星間戦争中期には世界最強を示す称号である序列一位を与えられた男だが、今年で56歳である彼は以前までのようなパワーとスピードによるパワープレイを捨て、テクニック寄りの魔法を繰り出すようになった。全盛期と比べると確かに物足りない部分はあるが、それでも現代のS級魔法師たちに勝るとも劣らない戦闘力を未だに保持していた。
「はっ!」
「成長しましたね、バレンさん。ですが、まだまだ甘いです。」
対する紅焔は、バレンの多方向からの射撃による攻撃に対して、最低限の動きで攻撃を左右に避けた。まるで舞い舞うかのようにステップを踏みながら、彼女も反撃を行った。
紅焔の得意な魔法は炎、彼女の髪色と同じ真っ赤な炎を身にまとった魔女は、素早く動いて距離を詰めると焔の魔刀で斬撃を繰り出した。
加速力で両者を上回る紅焔は、自身の魔力で作った魔力障壁を足場にバレンを追った。逃げるバレンは、2丁拳銃による攻撃と魔力障壁による防御を組み合わせて攻撃をかわすことを試みた。直撃を食らえば、少なくないダメージが入ってしまう。
「驚きだな、紅焔。以前よりも強くなっている。」
「引退した後も、夫の隣に立つために努力しておりましたので。」
「流石は、あの黒白を射止めただけはあるな。」
「光栄です。」
バレンを守るように間に入ったゼラストは、光の魔剣で紅焔の魔剣を受け止めた。加速力で紅焔に劣るゼラストは、バレンの動きから展開を予測しながら動いた。星間戦争時代、数年間共に戦ったゼラストだからこそ、紅焔の癖から未来を予想し、対応をした。
紅焔も同様に、ゼラストの動きを予想しながら行動した。
実力が拮抗したからこそ、勝負は読み合いに発展した。
「
「
「
間接攻撃が主体の紅焔は、バレンを間合いの内側に引き摺り込むように立ち回り、バレンとゼラストはそれを阻止するように立ち回った。お互いがお互いの手札を把握し始めると、今度は細かな駆け引きが飛び交った。
テクニック勝負となっても戦力はお互いに拮抗し、魔法の撃ち合いが続いたが、主導権を握った紅焔が徐々に押し始めた。
魔法戦闘において、加速力は勝負を分ける重要なファクターの一つだ。加速力で相手を上回れば、勝負を優位に立ち回ることができる。
もちろん、やられっぱなしというわけではない。このままではジリ貧だと判断したバレンは、勝負を次のステージへと進めた。
「第一段階<
バレンの固有魔法は、周囲を無差別に切り裂く魔法の弾丸を放つ魔法、他のS級魔法師に比べると一撃の火力は劣るが、予備動作無しに魔力が尽きるまで半永久的に打ち続けることができるという強みがある。
瞬時に固有魔法を発動するためのプロセスを整えたバレンは、至近距離でトリガーを引いた。
「っ!」
不意打ちとも言えるその一撃から繰り出された斬撃は、今まで一度も傷ついた事のなかった紅焔の仮面を切り裂いた。咄嗟のところで回避を試みた紅焔であったが間に合わず、彼女の代名詞とも言える狐の面は真っ二つに割れ、カランと音を立てながら地面に落ちた。
そして未成年と言われても納得できる童顔の少女が顔を出した。
「誰だお前はっ!」
ゼラストは叫んだ。先ほどまで紅焔を名乗っていた少女は、若かりし頃の紅焔にそっくりな別人であったからだ。
雰囲気も戦闘スタイルも瓜二つ、素顔を見るまではゼラストも気付けなかった。
「あーあ、バレちゃったか。」
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どうでもいい話
もうそろそろ、どういう事なのかわかったと思いますが、次話もお楽しみに
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