第14話 炎の魔人

 8月1日13時59分

 東京都港区

 ツクヨミタワー周辺


「ツクヨミ社側からの返答は?」


「未だにありません。依然として否定を続けております。」


「そうか・・・・・・」


 東京湾に浮かぶ数多の人工島、その中で最も高い建造物、それがツクヨミタワーだ。世界的大企業であるツクヨミ社の本社であり、ツクヨミ社の魔法具の半分以上がここで作られている。ここは、世界一の研究機関であり、世界一の武器庫でもあるのだ。

 そんな摩天楼を、ジルトレアの精鋭メンバー108名が囲んでいた。現役のS級魔法師5名、A級魔法師46名を含む大部隊であり、現時点でジルトレアが動員することができる全戦力であった。彼らは、全方位に蟻一匹逃がさない体制でツクヨミタワーに包囲網を築いていた。


「14時になりましたが、いかが致しますか、ゼラスト様」


「再三にわたる降伏勧告をしたにも関わらず、無視をし続けたのはツクヨミだ。これほどまでに大規模な行動をしておいて、ただ軍事演習でしたではもちろん済まされない。」


「では、やはり・・・・・・」


「あぁ・・・・・・」


 もはや、引くことのできないところまで来ていた。ジルトレアが5人ものS級魔法師を動員した以上、ツクヨミが折れるか武力行使となるかのどちらかしかない。そして、ツクヨミが折れないならば道は一つしかない。


「夜明け作戦を開始する。」



 *



 地上に足を付けたゼラスト一行は、徒歩でツクヨミタワーの正面を目指した。東西南北それぞれに1人ずつS級魔法師を配置し、ツクヨミタワーの内部には、ゼラスト及びジルトレアの精鋭メンバー104名が向かう事となった。


「戦闘にはならないといいが・・・・・・無理そうだな。」


 ゼラスト一行が正面玄関の目と鼻の先までやってくると、それまで固く閉ざしていた自動ドアが開き1人の女が出て来た。白髪で狐の面を付けたその女の存在に、ゼラストは思わず足を止めた。


「お久しぶりですね、ゼラストさん。」


「同じ名前だとは思っていたが、やはり同一人物であったか。」


「お伝えしても良かったのですが、機会が無くてですね。」


「藁科咲夜か、まさか、本名を使って会社を経営しているとは思わなかったよ。でも、君たちが経営している企業ならば、ツクヨミ社の大躍進も納得だな。」


「ありがとうございます。」


 彼女は、ゼラストを含めたジルトレアメンバーが16年近く探していた相手であり、黒白がツクヨミ社の関係者であることを決定付ける人物であった。

 同時に、彼女がこの場に姿を現したということは、交渉は決裂したということを示していた。


「ですが、交渉についてはお断りさせて頂きたいと思います。」


「っ!・・・・・・我々と戦うということか?」


「はい、あなた方が引かないのならば、刀を取りましょう。」


 その言葉と共に、彼女は自身の内に秘めた魔力を解放した。凄まじいオーラを撒き散らしながら、周囲を威圧した。溢れ出る魔力と共に、彼女の白髪は紅く輝いた。その姿は、彼女の二つ名である『紅焔』に相応しく、その場にいた全員が一気に緊張感を高めた。

 紅焔、それは星間戦争時代に活躍した魔法師の1人であり、かつてはS級魔法師の称号を所持していた英雄だ。


「見たところ黒白はいないようだが、これだけの戦力を君一人で迎え撃つつもりなのか?」


「はい、こちらの戦力は今のところ私だけです。ですが、私にも私の正義のために戦います。もちろん、負けるつもりはありません。」


「そうか・・・・・・」


 対話を諦めたゼラストは、背後の魔法師達に指示を出して戦闘に備えた。話し合いで解決できないのであれば、魔法戦闘をして相手を無力化する以外に方法は無い。


「全員、戦闘用意。」


「「「了解。」」」


 お互いは、お互いの正義のために魔法をかまえた。ある者は魔道具を構え、ある者は魔力を循環させた。

 睨み合いが続いたのち、先に動いたのは紅焔であった。


「では、こちら側から行かせていただきます。」


「全員構えろっ!」


「ぐっ!」

「わっ!」

「うっ!」


 彼女の魔力が僅かに動いたのを感じ取ったゼラストは間を開けずに大きな声を出し、周囲に向けて注意喚起を行った。しかし、その声が仲間の耳へと届く前に、彼女は攻撃を繰り出した。真紅の炎を纏った魔剣による、濃密な魔力を周囲に撒き散らしながら放たれた飛ぶ斬撃は、ゼラスト一行の頭上スレスレのところを通過した。

 技では無く圧倒的なスピードとパワーによる一撃、あと数十cm下を通過していたら、ほぼ全員があの世行きとなっていただろう。唯一、反応できたのはゼラスト自身と一緒にいたS級魔法師のみであった。


「次は当てます。」


「っ!」


 そういうと、右手に魔剣を握った彼女は少し姿勢を低くとると、下段に自身の魔剣を構えた。対人戦闘に特化している分、魔法師同士の戦闘では、星間戦争時代の魔法師よりも現代の魔法師の方が強いと言うのが世間の評価だが、実際のところはそうでも無い。強い魔法師は、時代に左右されることなく強いのだ。


「俺とバレンで行く。その他のA級魔法師は全員待機だ。」


「「「了解。」」」

「了解です、ゼラストさん。」


 ゼラストは、戦う道を選んだ。元S級魔法師である自分自身とS級魔法師1人でタッグを組み、紅焔の無力化を試みた。


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どうでもいい話

公園ではなく紅焔です。間違えないように〜

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