第11話 久しぶりの登校

 世界は、黒白を排斥する方向へと舵を切った。

 黒白には、日本の国家予算とほぼ同額の懸賞金がジルトレアによってかけられ、地球上の様々な人や団体が血眼になって黒白を探した。特に、星間戦争による被害の大きかった南半球の国々では、莫大な資金や税金が黒白の捜索に使われた。


「貴方は参加しないの?黒白探し。」


「参加するわけないだろ。第一、見つけれても確保なんて不可能だろ。相手は瞬間移動ができる空間魔法師だぞ?」


「そこはほら、この前みたいに魔法陣を打ち破るやり方で・・・・・・」


「向こうが息をするかのようにできるのに対して、こっちは様々なプロセスを経てやっと一発打てるかどうかだぜ?無理やり捕まえられる可能性は0に等しいな。」


 黒白に対して国際指名手配がかけられてから1週間経った今日、やっとのことで登校が解禁された。テロ攻撃が行われた7月5日から昨日まではずっと外出自粛となっていたため、今日は久しぶりの日常であった。幸い、育成学校のある人工島は全くと言って良いほど被害を受けてなく、目立った傷跡などは一切無かった。ここも一応戦場にはなったらしいが、ルーシアやロリ先輩の活躍もあり最小限の被害ですんだそうだ。


「やっぱり凄いのね、黒白って・・・・・・」


「凄いなんてもんじゃない。先週、有栖川さんか、黒白と戦うことになるかもしれないから準備しとけって言われて、古い記録や資料を貰ったが、勝てる気がしなかったな。」


「そっか・・・・・・」


 自分が黒白と戦うことになるとは考えていなかったが、黒白が人類の敵と認定された以上、命令が下れば戦わなければいけなくなる。無論、最終的な判断を下すのは俺自身ではあるが、有栖川さんから覚悟はしておけと言われた以上、考えるようになった。無論、戦わないならばそれに越したことはないが、対策を立てないわけにはいかなかった。最も厄介なのは、黒白の代名詞とも言える空間魔法、空間を捻じ曲げながら繰り出される攻撃は非常に強力で避けるのはほぼ不可能なので、ダメージをどのようにして無効化するかを考える必要があった。パワーとスピードぐらいしか取り柄のない俺にとっては、戦いにくい相手であった。


「まぁ、黒白と絶対に戦うとは限らないけどな。」


「それもそうね。早く彼の無実が証明されることを願うばかりだわ。」


 教室へとたどり着いた俺とルーシアは、それぞれ自分の席へと座った。俺たちが教室に入った時には既にほとんどの生徒が登校していたが、良く知る双子の姿が見えなかった。いつもなら、俺たちが学校に着くよりも早く教室にいるのだが、今日は何故か姿が見えなかった。不思議に思いながら朝の支度をしていると、担任の先生である桐山先生が眠そうな顔をしながら入って来た。そして桐山先生は、藁科明日人が欠席であることを生徒に公表すると、授業を始めた。



 *



 今日は、比較的早く授業が終わった。幸い、直接被害を受けた生徒は1人もいなかったが、それでもテロ攻撃があってからまだ1ヶ月も経っていないということもあり、今日の授業は午前中だけであった。


「明日人が欠席とはな〜」


「確認したら依夜も欠席だったから、多分だけど家に呼び出されたんじゃない?」


「まぁ世界的大企業のCEOの令息と令嬢だもんな、色々とあるんだろうよ。それに今、ツクヨミは色々と問題がおきているからな。」


 一昨日の夜、有栖川さんから聞かされた作戦を思い出しながら、俺は呟いた。


「問題って?」


「ジルトレアの上層部がツクヨミに対して無茶な要求をしたらしくてな、それを断ったツクヨミに対して強硬手段をとろうとしているそうだ。」


 昔から『ツクヨミ』は、様々な個人や団体から色々と目をつけられてきた。『銀の船』という前身があったとはいえ、2051年に発足してから僅か8年で時価総額世界一の大企業へと急成長した新しい企業ということもあり、様々な疑いをかけられていた企業でもあった。

 その内の一つに、ツクヨミの内部に多数の元S級魔法師がいるんじゃないかという噂がある。それ自体は何も悪いことではないが、今回の黒白の国際指名手配を受けて、ジルトレアはツクヨミに対して内部調査もしくは黒白の引き渡しを要求した。無論、ツクヨミはこれを拒否、その結果ジルトレア内で強硬手段をとろうという動きが活発になっていた。


「強硬手段・・・・・・まさか、攻め入ろうってわけじゃないわよね。」


「そのまさかだ。強引に内部調査をしようとしているそうだ。」


「そんな・・・・・・」


 一応、有栖川さんからは外部に情報を漏らすなと言われていたが、ルーシアならば問題無いだろう。そんなことを考えていると、俺の携帯端末が、突然鳴り出した。誰なのかを確認せずとも、俺はそれが誰からかかってきたのかを察した。


「どうやら、呼び出しのようだ。」


「そのようね。私も、今日は師匠の下で魔法の特訓をする予定だから、夕食は別々ね。」


「わかった。じゃあな、頑張れよ。」


「健斗もね。」


 ルーシアに別れを告げた俺は、すぐさま日本魔法協会へと向かった。


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 どうでもいい話

 本日より、更新を再開いたします。

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