第10話 名探偵ルーシア
世論は、日を追うごとに傾いていった。
黒白を信じる者はそれほど減っていないが、今まで静観を貫いてきた者の多くが、黒白を疑い始めた。この議論は、個人間の信じる信じないを超えて、企業そして国家間における問題にも発展した。
「黒白の国際指名手配に賛成する者は起立を。」
ジルトレアが黒白による犯行を明言した1週間後、東京にて昨日テロに関する国際対策会議が行われた。最も注目された争点は、黒白を犯人と断定するか否かという点であり、犯人と断定されればそのまま国際指名手配となるということで、世界中がこの結果を注目していた。
「有効投票数105、賛成77、反対28、よって賛成多数により、承認されました。」
それは、無慈悲な決定であった。約30年に渡ってS級魔法師として人類を牽引し、星間戦争を勝利に導いた英雄は、一夜にして世界中から追われる立場となった。この結果は、世界に衝撃を与えると同時に、人類が再び混沌へと歩んでいることを決定付ける出来事となった。
*
「凄いことになったな・・・・・・」
「そうね・・・・・・」
あの黒白が国際指名手配となる瞬間を、俺とルーシアも自宅のリビングで見ていた。会議の様子は世界中に向けて公開されており、俺とルーシアも全てでは無いが大半を視聴していた。俺は、この場で国際指名手配になることは無いと予想していたが、黒白と古くから付き合いがあり、最大の理解者と言われているレネ=ストライクが賛成したほか、一部の国からの強い要望もあり、賛成多数となった。
また、先日のテロによる被害の大きさを伝える映像が多く流されていた。優秀な魔法師が多くいる東京及び日本は比較的少ない被害で済んだが、魔法師の数が不十分な国や地域では少なくない被害が報告されており、酷い所では数百人、数千人に及ぶ死者及び行方不明者が報告された。これは、戦後16年間で間違いなく最悪のテロ事件であった。
「ドイツの知り合いは無事だったのか?」
「えぇ、全員の無事が確認できたわ。健斗の方は大丈夫だったの?」
「あぁ、こっちも全員無事だ。とりあえずは、俺たちの知り合いに被害が無くて良かったな。」
「えぇ、そうね・・・・・・」
俺にはドイツに友達なんていないが、育成学校に来る前はドイツに留学していたことになっているので話を合わせておいた。もちろん、育成学校の知り合いも全員無事であった。まぁ、俺もルーシアも育成学校の知り合いなんて数えられるだけしかいないが・・・・・・
ちなみに、テロのこともあり、事態が落ち着くまでは学校は休校となった。不要不急の外出はできるだけ控え、敷地内にある寮で大人しくしておくように言われている。
「それで?貴方はどちら側に付くの?」
「付くって?」
「黒白を信じるか信じないかって話よ。貴方は国家を代表するS級魔法師なんだし、自分の立場をはっきりさせておいた方がいいと思うわよ。」
「そう言うものなのか?」
「そう言うものなのよ。」
「そうか・・・・・・」
ルーシアに言われて、俺は自分の意見をルキフェルに言う事にした。まだわからない部分も多いが、わかっている部分だけでも共有しておこうと思ったからだ。
世間が思うように、俺もあの黒白が今回のテロを引き起こしたとは考えられない。もし彼が犯人であるならば、俺をS級魔法師に推薦した理由がわからなくなる。おそらく彼は、何らかの方法で今回のテロを事前に察知し、俺をS級魔法師に推薦したはずだ。そう考えると、黒白は何者かによって嵌められ、犯人に仕立て上げられたと考えるのが一番しっくりとくる。
だが、黒白以外の存在の魔法によってあのテロを引き起こしたとも考え辛い。それほど、あの魔法陣には、凄まじい隠蔽工作が施されていた。ルキフェルが言っていたのだから間違いない。
【それ、昨日私が言ったことの丸パクリじゃない。】
別に良いじゃん。ルキフェルの意見は実質俺の意見ってことで。
【はぁ、まぁいいけど。でも、あんまり語り過ぎるとボロが出るわよ。】
大丈夫大丈夫、その辺りは弁えているよ。
【そう、なら私は何も言わないわ。】
俺が話し終えると、ルーシアは少し考える素振りを見せた後、一つの小さな矛盾点を見つけ出した。
「健斗の考えは分かったわ。でも、だとしたら一つおかしなところがあるわよ?」
「なんだ?」
「さっき健斗は、亜空間は誰が作ったのかの手掛かりを探ろうと思ったけど、強固な隠蔽工作が施されていたから無理だったって言ったわよね。」
「あぁ、そう言ったな。おそらく黒白レベルの魔法師でもないと解読できないと思う。なんせ、使われたのは空間魔法だからな、空間魔法の使い手でもないと、これは破れんな。」
「でしょ?でもだとしたら、ジルトレアはどうして黒白の魔法であると断定できたんだろう?」
そういえばそうだ。
先週を思い出せ、亜空間に入ってすぐに、俺はアクティブソナーを用いて亜空間内の敵を調べた。だが、UC以外に生体反応は一才無かった。そして、最後にあの亜空間を出たのは、間違いなく俺だ。
つまりは、黒白があの場にいた可能性はほとんどないと言っていい。
むしろ、あの場にいたのは明日人と衣夜だ。どうしてジルトレアは、俺が気付かなかった黒白がいた証拠を持っていて、明日人や衣夜がいた証拠を持っていないのだろうか。それとも、持っていた上で隠している?
「それは、謎だ・・・・・・」
「ここからは私の予想だけど、黒白は何者かに濡れ衣を着させられた可能性が高いと思うわ。」
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