第8話 コントロール
黒白、その名前が有栖川の口から溢れた時、司令本部の空気が一変した。ただの仮定の話であったはずなのに、ただの仮定とは思えないほどの緊張が走った。
「そんなことは、無いはずだ。」
先ほど変わらない口調で、有栖川は重々しく口を開いた。
人類を救った英雄が、今度は人類の敵となる。頭ではあり得ないと思うが、それを否定する要素が感情論以外に存在しなかった。人類最高の空間魔法の使い手であり、膨大な魔力を保有していて、痕跡を残さずにUCを用意することも可能だ。
考えれば考えるほど、間違いないんじゃないかとすら思えてくる。
「誰でもでもいい、この47分間の間に黒白の姿を見たものはいないか?」
「「「・・・・・・」」」
「いない、か・・・・・・」
有栖川の問いに、手を挙げるものは居なかった。黒白が地球を守るための行動をしてくれていれば可能性を否定できたが、目撃情報は無かった。無論、犯人が黒白であることを指し示す具体的な証拠は何一つ無い。今回の犯行ができそうな人物が、黒白しかいないというだけだ。だか同時に、黒白の裏切りを否定する要素が何一つ見当たらなかった。
「黒白が裏切ったとは考えたく無いが、我々は感情論ではなく知識と理論によってのみ判断を下さなければならない。」
「待って下さい!イセンドラスによる攻撃の可能性も十分に考えられます!黒白を容疑者とするのは時期尚早では?!」
有栖川の言葉を遮って、1人の若い男が声を上げた。
「私とて、黒白が犯人であるとは思っていない。だが、我々はこの国の防衛の要である日本魔法協会として、容疑者を出さなければ国民や世間は納得しない。黒白には申し訳ないが、
「ですが・・・・・・」
「ならば、ジルトレアや他国に判断を仰ぐか?」
「それは・・・・・・」
「健斗くんが単独で今回の件を解決してくれたという事実は、今の我々にとってのアドバンテージだ。ここで手番を手放せば、これ以上良い未来は絶対にやって来ない。その結果、最悪の未来が訪れる可能性だってある・・・・・・」
有栖川の頭の中には、最悪の未来があった。
それは、イセンドラスとの戦争だ。
今回の件を発端として再び星間戦争に発展してしまうという未来だけは、なんとしても避けなければならなかった。だから、過去の英雄を容疑者にあげるようなことをしてでも、戦争が再び起こってしまう未来だけは避けようと考えていた。無論有栖川とて、これがあの黒白によるテロ行為だとは考えていない。だが、有栖川は日本魔法協会の会長として、選択を迫られていた。他国やジルトレアに判断を仰ぐか、黒白をスケープゴートにするか、何か他の手を打つか・・・・・・
「何の情報も無いというのが一番の問題なのだ。我々が情報を出さなければ、世間は混乱する一方だぞ?」
「確かに、何の情報も出さないというのは問題ですが、国家の防衛を務める日本魔法協会が、黒白が容疑者として挙がっているということを正式に発表すれば、混乱の規模は計り知れません!黒白という名前は出さない方が・・・・・・」
「ではどうする、未知の宇宙人が攻めて来たとでも言うのか?襲撃者がUCであることは既に周知の事実だ。イセンドラスとの関係を疑われれば、それを世間が許す筈がない。」
有栖川が恐れるのは、メディアとそれに煽動された国民だ。グローバル化が進んだ現代において、情報は平和を維持する上で何よりも大切な要素の一つだ。
もし今回のテロ攻撃がイセンドラスによるものであると多くの国民や人類が信じるようなことになれば、最悪戦争へと発展してしまう可能性がある。そのため、日本魔法協会としては原因がはっきりするまでは別の標的を用意し、国民の視線を戦争に向けないようにする必要があった。
「我々がどの道を選ぶべきかは明白だ。」
「「「・・・・・・」」」
もはや誰も、有栖川の方針に口を挟む者はいなかった。憧れの存在である黒白をこのような形でスケープゴートにするのは申し訳ないと思ったが、何もしないでいるよりはずっとマシであった。心では納得出来なくても、頭の中では自分が今何をするべきなのかをしっかりと理解していた。悔しい気持ちはもちろんあるが、それ以上に自分がどうするべきなのか、悟ってしまっていた。
「我々日本魔法協会は、黒白を第一容疑者と認定する。全員、そのつもりで動いてくれ。」
「「「了解!」」」
*
『日本魔法協会、昨夜のテロ事件は黒白によるものだと発表』
『ついに狂ったか?日本魔法協会、黒白様が犯人であると正式発表』
『日本魔法協会の発表、受け入れられないという声多数』
『先日、地球規模で発生したUC襲撃事件、被害総額は日本円で100兆円に上ると言われており、今もなお世界各地で復旧作業が行われております。また、日本魔法協会は今回のテロ攻撃の犯人が黒白ではないかとの声明を出しており、ネット上では疑問の声が多数寄せられております。』
「なんとか最悪の事態は避けられたみたいだね。」
「これで、良かったのでしょうか・・・・・・」
「黒白という称号に注目を集めて、イセンドラスから目を逸らす、まさかあの有栖川さんがこんな方法をとるとは思わなかったよ。確かに最善とまではいかないかもしれないけど、失敗ではなかったみたいだね。」
「戦争を避けられたことは、喜ばしいことですが・・・・・・」
「黒白の名前が汚されたのが嫌だった?」
「はい・・・・・・」
「大丈夫、きっと名誉挽回の機会は来ると思うよ。」
________________________________________
どうでもいい話
師走で忙しいので休みがちになるかもしれませんが、頑張って更新します。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます