第7話 容疑者
「・・・・・・以上で報告を終わります。」
「まずはご苦労様と言っておこうか、健斗くん。君のおかげで、世界各地への同時攻撃は完全に停止し、空に空いた穴は完全に塞がった。君の行動は、まさしく英雄的な行動であった。日本魔法協会会長として、ありがとうと言わせてくれ。」
俺が一連の行動についての説明を終えると、有栖川さんは深く頭を下げながらそう言った。
「頭を下げないで下さい、有栖川さん。私は当然のことをしただけですから。」
「謙遜しないでくれ健斗くん。これは、君が考えている以上に大きいことなんだ。」
「そうですか・・・・・・」
有栖川さんは、終始真剣な表情で俺の話を聞いていた。何故次元の裂け目に突っ込んだのか、どのようにして青き正常なる空へと戻したのかなどを事細かに説明した。もちろん、明日人や依夜のことは伏せ、いくらか作り話も交えたが、大筋はしっかりと話した。
「ふむ。ということは、今回の襲撃を引き起こした犯人はわからないままということか。」
「はい、人為的な攻撃であることは確実ですが、犯人に繋がりそうな手掛かりはありませんでした。」
「そうか・・・・・・」
ルキフェル曰く、これは自然的に引き起こされた事象ではなく、人為的な事象であると断言していた。それが人間なのかイセンドラス人なのか、はたまた別の存在なのかはともかく、人類に対する明確な敵対行為が行われた以上、対策は考えなければならない。考えるのは有栖川さんたちの仕事ではあるが、俺も持っている情報は全て提供するつもりでいた。日本魔法協会に籍を置いている以上は、協力しようと考えていた。
「確かに君の言う通り、人為的に行われたことであることは間違いないようだね。それと、犯人が地球人かイセンドラス人であることもほぼ間違いないと言っていい。UCの存在を知っているのはどちらかだけだ。一つ聞くが、仮にアレが魔法によるものだとして、君にアレと同等の魔法を発動させることは可能かな?」
「おそらく無理ですね。」
「それは何故かな?」
「一つ目にUCのに入手ができないこと、二つ目に俺に空間魔法への適正が無いことが挙げられます。一つ目の入手の方は、私に人脈があり、全て処分されたはずのUCをこっそり抱え持ってるから受け取ることができれば理論上は可能です。ですが、二つ目の適正の方はどうしようもありません。私もある程度の空間魔法は使えますが、これほどまでに大規模な魔法は不可能です。」
空間魔法は使えるが、あのような真似は無理だ。明日人ならできるかもしれないが、明日人があんなことをするとは思えない。謎は深まるばかりであった。
「なるほど、健斗くんよりも上位の空間魔法の使い手で無ければ不可能ということか。ならば、S級魔法師クラスが絡んでいるとみて間違いないな。」
「もちろん複数人犯人がいればその限りではありませんが、それでも空間を維持するために普通は膨大な魔力と魔力操作技術力が必要です。なので、有栖川さんの予想は正しいと思います。」
「となると、かなり縛られるな。」
有栖川は、頭の中でイセンドラスで名を馳せる魔法師の名前を思い出しながら答えた。地球とイセンドラスとでは地球の方が強いとされているが、実際のところは拮抗していると考える学者は少なくない。というのも、地球の方は人口が多いものの、一定以上の魔力を持つ者の人数はほぼ同じと言われている。イセンドラスは、地球よりも魔力を多く持つ者が多く、黒白という人類にとっての絶対的な切り札がちゃんと機能してくれるかどうかわからない。終戦から16年が経過した今、拮抗しているというのが有識者の見解だ。無論、その予測には健斗の存在を加味しておらず、追記して黒白が人類に味方すれば負けることはないとされていた。
「それと、おそらくですが、私は今回の件が、イセンドラスによる犯行ではないと考えております。」
「「「え?」」」
「どう言うことかな、健斗くん」
俺の発言に、一瞬司令室内の動きが止まった。
知識と理論の牙城と謳われる日本魔法協会の参謀であればこのぐらいのことは気づくと思ったが、どうやら誰1人として気付いていないようだったので、俺は説明することにした。
「16年前、人類がイセンドラスに勝利したのち、人類の代表であるジルトレアは地球上とイセンドラス上からUCを一掃しました。この感情無き殺戮生物兵器が二度と戦争に使われることがないように、と。しかし今回、確認できただけでも数十万を超えるUCが確認されました。」
戦後、人類はイセンドラスに対してUCを作り出すことは禁止され、厳重な監視体制を整えた。もちろんそれは今もなお続いており、複数存在する魔力感知システムによって秘密裏にUCを作り出すのはかなり難しくなっている。
だが、人類であれば話が変わってくる。UCの作り方は、おそらく手に入れることができたはずだし、地上や宇宙空間に工場ができていてもおかしく無い。何なら、星間戦争の際に使われたUCを何体か鹵獲して、それを複製している可能性もある。
「いずれにせよ、今回の犯行が人類によるものであると考えた方がしっくりくるんです。」
「「「・・・・・・」」」
俺の言葉を、有栖川さんたちはずっと口を閉じたまま黙って聞いていた。俺の意見に一考の価値があると考えたか、あるいは俺の推論が信じられないと考えているのかはわからないが・・・・・・
しばらくして、有栖川さんが口を開いた。
「健斗くんの意見が本当なら、私には信じたくない容疑者が挙がってしまう・・・・・・。」
その言葉は重々しく、まるで自分の発言を信じられないといった具合であった。だが、辻褄は合っている。
そもそも、アレほどの魔法を展開できる者など、片手で数えられるぐらいしかいない。
有栖川さんがその名前を口に出す前に、俺は自然とその名前を口に出していた。
「黒白・・・・・・」
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どうでもいい話
サポーターへのお礼を何かしないとだなって思う今日この頃、何がいいんかな。
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