第5話 亜空間の支配者

「報告しますっ!本条健斗の異次元への突入を確認しました。それにより、本条健斗とのコネクトが切断されました。」


「まさか、内側から食い破る作戦に出るとはな・・・・・・」


 健斗が異次元へと飛び込む様子は、もちろん健斗に穴の消滅を命令した有栖川も確認していた。健斗の位置情報とその周辺の魔力の揺らぎは、常に司令本部の耳に入っており、行動についてもある程度の予測が立てられていた。日本としては、本条健斗という新たな新星を軸に作戦を立てており、健斗の行動を把握することは必須事項であった。


「意図は不明ですが、おそらくは何らかの考えがあってのことだと思われます。」


「当たり前だ。意味もなく亜空間に飛び込むほどあいつも馬鹿じゃない・・・・・・はずだ。」


「有栖川さん?!」


「冗談に決まっているだろ?むしろ、冗談でなきゃ困る。」


 有栖川は、そう断言しながら言ったが、実のところ懸念材料が無いこともなかった。というのも、以前育成学校から定期連絡として受け取った健斗のテスト結果、要するに学力を見て、非常に不味いかもしれない、と考えたのだ。健斗の成績は、ほとんどの科目で学年最下位をマークしており、転校から3ヶ月経った今もそれは変わらなかった。もちろん魔法理論や現代魔法学、魔法戦闘技術などの分野は非常に高い成績を収めているが、普通科目に関しては絶望的であった。一瞬、そのことが頭によぎったが、有栖川は大丈夫だろうと判断した。


「それより、現状の方はどうなっている。民間人に被害は出ていないんだろうな。」


「はい、一部防衛ラインが突破され、建造物が倒壊するなどの被害はありましたが、UCによる民間人への被害は今のところ確認されておりません。」


「建造物への被害は許容範囲内だ。民間人への被害が無いなら、まずは良しとしよう。」


 襲撃が始まってから10分ほどが経過した今も、司令本部では緊張が走っていた。本条健斗という、日本魔法協会における最高戦力を投入した以上、これで改善されなかければこれ以上打つ手はない。あとは、何処にいるかもわからない黒白に期待するか、自衛隊所属のS級魔法師ぐらいだろうか。日本魔法協会としては、できるならこの二つの手段は使いたくなかった。


「穴や魔法陣に何かしらの変化はあるか?」


「今のところ確認できません。」


「魔力反応の方はどうだ?」


「それもありません。ずっと一定です。」


「ふむ、ならばいよいよ、我々は健斗くんに期待するしかなくなったということか。」


 自分のできることは全てやり切ったことを悟った有栖川は、原因究明のために亜空間へと潜った健斗の活躍を祈ることしかできなかった。

 それから47分後、まるで今までの頑張りにご褒美を与えるかのように、有栖川の元に吉報が届いた。


「報告しますっ!たった今、敵UCの投下が停止しました。また、穴が閉じようとしています!」


「良しっ!!!」

「やってくれたかっ!」

「流石は日本の新星だっ!」


 誰もが、スクリーンに映し出されたリアルタイムの空の状況に目を向けた。そこには、ゆっくりとだが確実に小さくなり続ける次元の穴が映し出されていた。

 その様子を見て、誰もが喜んだ。


「人類の勝ちだっ!」

「勝ったぞ!」

「思い知ったか、イセンドラスっ!」


 そんな中、ただ1人有栖川だけは今後起こるであろう動乱に目を向けていた。



 *



「空間魔法<絶縮>っ!」


 明日人が何か呟いた直後、明日人の姿が俺の視界の端から端へと一瞬にして移動した。それはまさしく刹那の時間であり、俺ですら明日人を視界にとらえることができないほどの速さであった。一瞬にしてできるUCの元へと近づいた明日人は、そのまま手に持つ白い剣でUCを切り裂いた。


「何だアレ・・・・・・」


【空間魔法、だと思うわ。構築から発動までの流れが早すぎて疑いたくなるけど、おそらくこの空間に干渉しているんだと思うわ。】


「衣夜がこの空間を支配していることを利用しているのか。」


【おそらくそうだと思うわ。もちろん、彼自身の技量も相当な物よ。魔法の構築スピードが人間のレベルを超えているわ。】


「ルキフェルから見てもかよ。こりゃ、負けてらんねーな。」


 空間魔法という誰もが羨む概念系統魔法を、上手に使いこなす明日人は、まさしく異次元の強さを持っていた。空間を捻じ曲げて、まるで瞬間移動したかのように一瞬にして移動し、攻撃を繰り出すした。昔から、凄いやつだとは思っていたが、明日人の実力は想像の遥か上を行っていた。この動きだけでもA級魔法師、いや、もしかしたらS級魔法師にもなれるかもしれない。

 親友の凄さを理解する一方で、俺はそれに負けたく無いなと思った。自然と手に力が入り、体内の魔力が活性化し始めた。


「負けてられないな、ルキフェル。」


【そうね、私も負けたくないわ。】


「ルキフェルもなのか?」


【えぇ、だから全力で行くわよ。】


「りょーかい。」


 その後、俺は明日人とともに、視界の中にいる全てのUCを葬った。それなりに時間がかかってしまったが、穴は徐々に縮小し始め、すぐに閉じた。


 __________________________________________________

 どうでもいい話

 明日人の強さについてはまた次回〜

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