第3話 時間との戦い

「何だこれ。」


 長いトンネルを抜けるとそこは、不思議な空間であった。

 穴に飛び込む前、ルキフェルからある程度の覚悟はするように言われていたが、そこはまさしく今までに経験したことの無い別世界であった。上と下の感覚が無い不思議な空間であったが、事前情報とは違い、光、空気、そして音が存在した。

 上下左右どこを見ても、夕焼け空にヒビが入ったような光景が続いており、視覚的情報だけでは距離感を掴めない空間であった。


「何だよ、光も空気もあるじゃん。」


【あるにはあるけど、この不完全な空間の中では目の前の空気を当てにしない方がいいわ。敵に空気中の酸素濃度をコントロールできる奴がいたとしたら、ノックアウトされるわよ。】


「わかってるって。」


 これは、以前にもルキフェルに教わった内容だ。魔法戦闘中、一番気をつけなければならないことは、思い込み。特に、普段の日常においてあって当然と考える空気、光、音は狙われやすい。そのため、戦闘中はできるだけそれらの対処法を考えた上での行動が求められた。俺も、24時間365日とまではいかないが、ほとんどの時間でそのことを意識した行動をしている。


「なるほど、空気があるのは中のUCを圧力で蒸発させないようにするためか。」


【おそらくそうね。】


 穴の中に入ることに成功した俺は、ひとまずその場の環境に慣れることを試みた。


【余裕そうにしているところ悪いけど、さっさと敵を倒すことをおすすめするわ。こうしているうちに、タイムリミットが来ちゃうかもしれないわよ。】         


「それもそうだな・・・・・・」


 俺がここに来た目的は、亜空間内のUCを全て葬って地球に出来た穴を塞ぐことであり、できるなら地球の被害が増える前にこの攻撃を止めたいと考えていた。

 そのために、まずは何とかして目の前の敵を全て葬る必要があった。


「空間の解析の方は終わったのかな?」


【いつさっき終わったわ。どうやら、私の予想通りのようね。】


「予想通りってのは?」


【さっき説明したじゃない。この空間が、結構不安定なものだって話よ。これなら、ある程度の敵を葬れば、あとは自分から崩壊を始めるわ。相当な腕を持つ者が作ったことは間違いないけど、所詮は人間ってことね。】


 ルキフェルの分析を聞いて、ひとまずは安堵した。どうやら、有栖川さんからの命令を達成できないということは無さそうだ。方針が決まれば、自分がどのように動くべきなのかはおのずと見えてくる。そして俺は、その精度を上げるためのピースを集めた。


「わかった。ちなみに、どこのどいつが作ったのかはわかるか?」


【そうね・・・・・・わからない、わ。】


「わからない?お前にわからないことなんかあるのか?」


【本当にわからないのよ。おそらく亜空間としての安定性を疎かにした代わりに、かなり高レベルの阻害が組み込まれているわ。これは、私でも術者の情報を探し出すのは不可能ね。】


「そんなにかなのか?」


【えぇ、所詮は人間、と思っていたけど、案外侮れないかもしれないわね。】


 珍しく、ルキフェルは他人を褒めながらそう言った。ドイツのS級魔法師である、ゲルマンの雷神を前にしてもこの程度、と鼻で笑っていたルキフェルが、珍しい態度を見せていた。こちらの世界に来てからルキフェルがここまでの反応を見せたのはこれで3回目、1回目は黒白の魔力に触れた時で、2回目はニューオリンズの上空で謎の女と会った時だ。

 俺も警戒心を高めながら、辺りを見渡して作戦立て始めた。敵の数は、雑魚からそれなりの敵まで合わせてだいたい1000体ほどであり、できるなら一体ずつちまちま倒すのは避けたい。となれば、何らかの作戦を立てようと思う。


「さて、どうしようか・・・・・・」


 一番怠いのは、1体1体の距離が遠いところだ。直線的な加速ならばそれなり自身があるが、複雑な動きをしながら加速するのはそれなりに労力を使う。可能ではあるが、時間との戦いである現状はあまり取りたくない選択肢だ。


「ん?」


 とその時、後方から何者かの反応を感じた。不気味な魔力を持つ2人の魔法師であり、俺はその2人の魔力に覚えがあった。


「この魔力パターンは・・・・・・」


「よ、健斗。どうやら、ピンチなようだね。」

「だね〜」


「明日人に衣夜、何でこんなところに?」


 俺のよく知る双子は、今までに見たことの無いオーラを周囲に撒き散らしながらその場に立っていた。色々とツッコミどころはあるが、ひとまずは抑えてどうしてここにいるのかを尋ねた。


「健斗がこの穴をどうにかするために上がっていくところを見てね。多分ピンチになると思ったから来たんだ。」

「そーそー、健斗は大雑把なことは得意そうだけど、こーゆー空間に干渉しなきゃなのとか苦手そうだもんね〜」


「え?は?」


「だから、手伝うって言ってるの。」

「お手伝いするんです。」


「お前らがか?」


「「うん。」」


 双子は、自身満々にそう答えた。


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どうでもいい話

みかん貰うと、だいたい食べ切れずに腐らせる

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