第2話 3つの選択肢と1つの道

「さて、こいつをどうするか・・・・・・」


 有栖川さんの無茶振りを受け取った俺は、改めて目の前の目標を見つめた。空間の歪みによって作り出された空間の穴、どのような魂胆で空間に穴を開けたのかは知らないし知りたくも無いが、それでも対処しなければ大変なことになることは理解できた。明らかな異常事態であり、早急な対策が必須となっていた。


「ノリで受けちゃったが、何とかなるんだろうな。」


【方法は3つあるわ。】


「聞かせてくれ。」


【待つか、修復するか、全部倒すの3つね。】


「俺に一番合っているのは?」


【最後の全部倒す方法よ。逆に、一番面倒なのが修復ね。】


 それぞれがどのような方法なのかは何となくしかわからないが、前2つは明らかに面倒そうな字面をしていた。待つのは好きじゃないし、空間に空いた穴を全て塞ぐのは流石に骨が折れそうだ。第一、1つ塞ぐのにいったいどれだけの労力が必要になるか想像が付かない。細かい作業は、できれば避けたいのが本音だ。

 となれば、俺が取るべき方法は1つしかない。


「そうか、じゃあ全部倒す一択だな。」


【私もそれが良いと思うわ。一番貴方らしい方法ね。】


「だろ?」


【えぇ、じゃあそれでいきましょう。】


「あぁ、で、何をすれば良いんだ?」


【簡単よ。あの穴の中に入って、中に潜んでいる敵を全部葬れば穴は塞がるわ。】


「は?」


 ルキフェルの想定外の発言に、俺は一瞬思考を停止させた。言いたいことは何となく伝わったが、正気の沙汰とは思えなかった。

 つまりは、自らあの穴に飛び込んで片っ端からUCを葬り続ければ、いつかは塞がるということだ。


「そんなことができるのか?」


【えぇ、元々あの穴は自然界には存在しないイレギュラー的な存在だもの。だから、その原因を取り除けば、自然に塞がるはずだわ。具体的には、時空の向こう側の敵を一掃することね。流石の私もここからだとどれぐらい敵がいるかわからないけど、それでも他の2つに比べたらずっと楽なはずよ。】


「しゃーない。引き受けた以上は給料分の仕事はするか。」


 覚悟を決めた俺は、少し厚めに魔力障壁を張って身を固めると一気に穴に向かって上昇を始めた。だんだんと下に見える東京のビル群が小さくなり始めた。


【準備はいい?健斗】


「あぁ、オールクリアだ。」


【亜空間なんだから光や空気は多分無いけど、対策はできてるの?】


「それを早く言えよ。」



 *



 健斗が地表へと戻って来る少し前、地上では多くの魔法師による防衛が行われるのと同時に、学生による防衛も行われていた。


「ふぅ、こちら六道輪廻、討伐完了しました。こちらの損害はありません。」


『お疲れ様、六道さん。こちらでも討伐が確認されました。まだ魔力は残っていますか?』


「はい、まだ8割ほど残ってます。次はどちらに行けば良いでしょうか。」


『北西方向に2kmの地点に中級UC7体の反応があります。至急向かって下さい!』


「了解です。」


『ご武運を。』


 普通の学生は避難対象であるが、六道のような級位持ちの学生の一部には、出撃命令が下された。これは、予め決められていたことではあるが、日本魔法協会は有事の際の防衛計画に、退役軍人や退役魔法師ではなく、現役の魔法師をより多く配置した。これは、次世代を担う魔法師を育成するという意味合いもあるが、最大の目的は退役した軍人や魔法師に対しては予備戦力としての役割を期待しており、できるだけ現役の魔法師のみでの対処を目標としていた。

 そのため、六道にも日本魔法協会から、通信機器を通してリアルタイムで断れないお願い、命令が下されていた。


「ルーシアさん、豪山くん、次は北西方向に2kmだって〜」


「了解です、六道さん。」

「うむ。」


 魔法師は基本的にチームで動く事が多い。それぞれの得意不得意、向き不向きに合わせて、それを補う形でチームを組んで戦う。チームの人数に関してはバラバラであり、2人でチームを組む者もいれば、10人や20人といった大所帯のチームも存在する。もちろん、健斗のように単独で戦ったとしても十分な力を発揮する魔法師もいるが、それは少数派だ。

 どちらかといえば支援向きの魔法師である六道は、前衛タイプの豪山と万能タイプのルーシアとともにチームを組み、行動していた。即席のチームではあったが、それなりに連携がとれており、ここまで特に危なげなくUCの討伐に成功していた。


「あ、多分アレじゃ無い〜?」


「今度のは少し大きいわね・・・・・・」


「どんな敵も、この私が一瞬で葬って差し上げよう。」


 3人パーティーにおける対UC戦闘は、既にある程度パターン化されている。もちろん、健斗のように自分の戦闘スタイルが既に確立しており、圧倒的な戦闘力を持つ者は特に危なげなく戦闘を行うことができるが、3人のような学生は基本的に模範通りの戦闘を推奨された。

 7体の中級UCに対して、3人は機動力で敵を撹乱し、1体ずつ確実な攻撃を与え続けた。常に、命大事にを徹底し、危なげなくUCを葬った。


「ふぅ〜このぐらいなら、危なげなく倒せますね〜」


「余力はあるが、これが続くのは少し厳しいな。」


「これ、一体いつまで続くのでしょうか・・・・・・」


 7体のUCを片付けた3人は集合し、今後の展開について考えた。体力や魔力はまだ十分残っているが、確実に減っておりあと1時間もしないうちに限界が来てしまうのが本音であった。

 そんな時、六道は西の空に一筋の光が上昇していくの見つけた。


「何?あれ・・・・・・」


「何だあれは・・・・・・」


「この魔力、健斗?」


 3人はその光が上空に空いた穴を眺めた。


_____________________________________________

どうでもいい話

師走でございます。

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