第21話 sideシーナ5

 何となくそんな気はしていたが、健斗は戦争というものを経験したことがない人間であった。彼が語った地球という星は、私たちの国や星とは比べ物にならないほど進歩しており、それはまるで夢物語のようであった。差を感じたのは、技術だけではない。考え方や価値観、人々の生活レベルなどが、文字通り数百年単位で遅れていると感じた。

 だからこそ私は、健斗の故郷の話を聞くたびに、健斗をこの戦争に巻き込まない方がいいのではないか、と考えた。しかしそんな私に対して、健斗は笑顔でこう答えた。


「もう関わっちゃったからな、今さら無かったことにはしないつもりだ。」


「健斗・・・・・・」


 私たちは、健斗に甘えた。

 最前線へとやって来た頃には、私たちの指導によって大きく成長した健斗は、帝国としても無視できない強さを有していた。帝国としては、私、健斗、トワトリカ様、メルン様の4人で勇者パーティーを作り、戦力としてだけでなく、人類の旗頭としての役割も与えようと考えているのだろう。事実、健斗はその役割を担うだけの力を持っていた。



 *



「ほんと、頭がおかしくなりそうなほど多いな。」


「私たち遊撃隊の任務は最前線で魔族や魔物の侵攻を妨害し、敵の戦力を削ぐことです。敵の数が多いのは、ここが最前線だからですかね。」


「なるほどそういうことか、だからバラバラなんだな・・・・・・。」


「はい・・・・・・」


 私は志願して、この任務を受諾した。この比較的危険な任務を受けた最大の理由は、健斗にできるだけ人の死体を見せたく無いと思ったからだ。遊撃隊ならば、死体を見るとしても魔物や魔族のモノだけであり、最初のうちは怖がるかもしれないが、そのうち慣れるだろう。それに、健斗が故郷に帰った後も、健斗が普通の生活を送れるようにするためにも、できるだけ人の死体見せたくなかった。

 そのため、例え危険でもこちらの方が良いと思った。


「日も落ちたし、そろそろ拠点に戻るか。」


「はい、そうしましょう、健斗。」

「了解した。」

「ん・・・・・・」


「じゃあ行くか。」


 任務についてから1週間ほどが経過したある日、日が落ちたのでいつものように拠点へと戻ろうとした帰り道、それは唐突に起こった。


「ストップだ。」


「「「っ!」」」


 拠点まであと数kmといったところで、突然健斗が私たち3人を止めた。正確には、健斗の中に棲みつく彼女が・・・・・・


「いる事はわかっているから早く出てこいよ。」


「・・・・・・ナンデワカルンダヨ。」


 健斗が茂みの方を見ながらそう声をかけると、1人の男が姿を表した。しかもよく見ると、ただの男では無かった。姿を表した男からは、凄まじい量の魔力が溢れて出ており、明らかに人間では無い容姿をしていた。


「魔族っ!どうしてこんなところに・・・・・・」


「隠しているつもりなんだろうが、魔力の淀みでバレバレだぜ?」


「マリョクノヨドミダト?」


「あぁ、魔力の淀みだ。なんだ、知らないのか?魔族って遅れているんだな。」


 どんなに甘く見積もったとしても、私では歯が立たないと実感させられるほど強力なオーラを放つ魔族に対して、健斗は愉快そうにそう言った。まるで、目の前の魔族を嘲笑うかのように。

 正直なところ、私も健斗の言う魔力の淀みというものが何かわからなかった。ただ事実として、健斗は私たちが全く気が付かなかった魔族の位置を言い当てており、そのような事実が存在するという事だけはわかった。


「ナメルナヨコワッパ!」


「まぁ何というか、相手が悪かったな。俺も、あんたに同情するよ。」


「エ?」


「お遊びは終わりだわ。」


 健斗の口から、普段であれば絶対に聞かないような言葉が飛び出ると、健斗の雰囲気が大きく変わった。


「「「え?」」」


「ア?」


 私の目に映る情報は、目の前の男は健斗であると言っていたが、私の脳がそれを否定していた。私たちを睨む魔族の存在が霞むほどの凄まじいオーラを周囲に撒き散らした健斗は、明らかに私が良く知る健斗とは違った。


「ナ、ナンダ、コノオーラハ・・・・・・」


 空気が震え、時間がゆっくり進むような感覚に襲われた。もちろん、その原因は健斗のカタチをした何かであり、私は同時にその何かに恐怖した。そこにいるだけで、その場の誰もが息をするのを忘れた。


「バケモノメ・・・・・・」


「ふふっ、格の違いってものを教えてあげるわ。」


 そこからは、圧倒的な力による蹂躙が始まった。どう考えても過剰な魔力が注ぎ込まれ、健斗モドキは火力と物量によるワンサイドゲームを展開した。私たち3人は、ただその光景を見ていることしかできなかった。


「もう終わり?」


「・・・・・・」


 何が起こったのかは、終始理解できなかった。気付いた時には、魔族は声すら出すことのできない哀れな状態となっていた。かろうじて息はできるが、もはや死ぬのは時間の問題となっていた。


「久しぶりに表に出たと思ったらこんなのが相手って、健斗は人使いが荒いわね。」


「あの・・・・・・」


「貴女は確か、シーナよね。貴女には感謝しているわ、健斗をここに連れてきてくれてありがとね。」


「ど、どうも、それで、健斗は無事なんですか?」


「無事よ。あと数分もすれば、健斗に戻ると思うわ。」


「そうですか・・・・・・良かった。」


 健斗が戻ってくるという言葉を聞いて、私はほっと一息ついた。どうやら、少なくとも敵ではないようだ。


「それで、貴女様はいったい・・・・・・?」


「私は大天使・・・・・・ただのルキフェルよ。」


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 どうでもいい話

 体調崩していたため、先日は休みをいただきました。今日から復帰します!

 みなさまも体調管理に気をつけてください!


 それと、これで第5章は終わりです。

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