第20話 水槽に空いた穴

 突然始まった宇宙人との戦争。正確には宣戦布告を受けていないので、同時多発テロという表現が正しいだろうか。いずれにせよ、人類は16年ぶりに宇宙人との戦争状態に突入した。

 初動は宇宙人側の奇策によりアドバンテージを与えてしまったが、敵個体が思ったよりも貧弱であったこともあり、人類は徐々に体勢を整えた。


「状況は?」


「全ての都道府県において、人類はUC達に対して優位に立ち回っております。今のところ、死傷者は確認されていません。」


「ふむ、有事の際の防衛計画を事前に構築しておいて正解だったな。これなら、苦労した甲斐もあったと言うものだ。」


 大方の予想通り、人類は既に宇宙からの侵略者たちに勝る戦力を持っていた。人間一人一人の生物としてのレベルも格段に上昇しており、建物や道路などの破損は大きいものの、人的被害はほぼ0であった。

 有栖川は、過去を思い出しながら、自身の行動が間違いでは無かったことを改めて確認した。


「そうですね。ですが、別の問題も発生しております。」


「別の問題だと?」


「はい、今回の攻撃は本条くんが宇宙空間にあった魔法陣を破壊したことがトリガーとなって始まりました。」


「あぁ、そう聞いている。」


 今回の襲撃は、健斗が中継地点となっていた魔法陣を破壊した事によって始まった。おそらく敵は、宇宙空間にあった魔法陣がいずれ破壊されることを想定した上で、動いていたのだろう。仮に、魔法陣を破壊するために大規模な部隊を送り込んでいたとしたら、今よりも大きな被害を被っていたかもしれない。幸い、健斗という元々人類が戦力として数えていなかった新戦力を派遣することによって、地上に戦力を温存することに成功した。

 だが、同時に大きな問題が見つかった。


「これまでは、宇宙空間にあった魔法陣を破壊すれば、地表の魔法陣も消えると考えられておりましたが、宇宙空間にあった魔法陣はUCの襲撃のトリガーとしての役割でした。」


「なるほど、だとすると妙だな。」


「はい、まだ確定事項ではありませんが、今回の襲撃は魔法陣を通して行われているのではなく、空間に穴を開けるといった方法で行われました。そのため、この襲撃を止める手立てが無いのです。」


 例えるなら、今回の攻撃は水の入った巨大な水槽に穴を空けたようなイメージだ。魔法陣によって中の水が漏れ出ているのであれば、何らかの手段でその魔法陣を破壊すれば水が漏れ出るのを止めることができるが、物理的に空いた穴を埋めるのは難しい。もちろん、水槽の中の水がなくなれば水が漏れ出るのは止まるが、どれぐらい水があるかわからない以上、水が無くなるのを待つのは得策では無い。それに、水だけが出てくるとも限らない。上級程度までならば、何とか持ち堪えているが、これが超級や災害級、そして破滅級UCが出てくるとなれば、話は変わってくる。

 UCの中で最上級の強さを持つ証である破滅級UCをこれまでに人類が討伐したのは全部で7回、しかし、そのいずれも黒白という人外が倒したものであり、もし仮に黒白の協力を得られないという状況になれば、明確な対抗手段は無い。残された道は、現代のS級魔法師に期待する道だけだ。


「空間に空いた穴、か・・・・・・」


「空間魔法は、時間魔法と並ぶ扱うのが最も難しい魔法です。専門家に相談したところ、空間に穴を空けることも難しいが、穴を塞ぐことはその数百倍難しいとのことです。」


「直せそうな者に心当たりは?」


「黒白か白銀であれば、間違いなく直せると思われます。」


「そんなことはわかっている。だが現状、彼らとコンタクトを取ることは不可能だ。我々がコンタクトを取ることができて、今回の件を解決できるかもしれない人物となると・・・・・・」


「「「・・・・・・」」」


 会議室にいた者達は、揃って頭を悩ませた。

 そもそも、空間魔法を使える者は極端に数が少ない。さらに言うならば直して欲しいのは、何も日本上空だけでは無い、一体でも地球に産み出されれば尋常じゃない被害を引き起こす可能性がある。

 無論、黙って見過ごせる話では無い。


「誰でもいい、誰かいないかっ!」


「1人、心当たりがあります。」


「本当かっ!」


「はい、ですがあくまで可能性があるだけで、確証はありません。」


「それでもいいから言ってくれ。。」


「それは・・・・・・本条健斗です。」



 *



「うわっ!何かよくわかんないけどやばそうじゃん。」


【空間にいくつも穴が空いているわね。これはきっと、さっきの魔法陣が原因よ。】


「じゃあさっきの魔法陣、壊さない方が良かったんじゃない?」


【それは無いわ。時間が空いていたら、穴の数はさらに増えていたはずよ。】


「じゃあ、結構良い仕事ができたということだな。」


【私なら、もっと早くできたけどね。】


「ただの人間と最強の堕天使様を比べてどうするよ。お前に勝てる生物なんて存在しないよ。」


【あら?そうでも無いよ。】


「え、いるのか?」


【天界でなら一番強かったけど、全種族の中で一番強いかどうかはわからないわ。】


「へ〜、例えば?」


【そうね・・・・・・例えば、龍族とか?】



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 どうでもいい話

 ヒーローは遅れてやって来る

 私の更新も、毎回遅れる

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