第19話 side衣夜

 物心ついた頃から、私は自分が特別な人間であることを自覚した。

 両親は世界で一、ニを争う魔法具メーカーの経営者であり、同時に凄腕の魔法師であった。私自身も両親の魔法の才能をしっかりと受け継ぎ、常人とはかけ離れた才能を手に入れた。

 両親は優しかった。時に厳しく時に優しく、いつも私たちのことを第一に考えてくれていて、忙しいはずなのに私たちを寂しくさせた日は一日も無かった。私たちが学校から家に帰る頃には、両親のどちらか、もしくは両方が私たちを毎日出迎えてくれた。直して欲しいところを挙げろと言われれば、夫婦仲が良過ぎてたまに置いてかれるところぐらいしか挙がらない。本当に、私は良い家族に恵まれたと思う。

 そして私には、自慢のお兄ちゃんもいる。


「来てるよ、お兄ちゃん!」


「大丈夫、見えてる。」 


 そう言うと、お兄ちゃんは自身の愛剣で背後から迫るUCの核を正確に切り裂いた。

 魔力が尽きない限り、無限に再生を繰り返すUCだが、UCにも弱点は存在する。それが核、人間で言うところの心臓兼脳といったところで、難しいが破壊できれば一撃でUCの生命活動を停止させることができる。

 66年前に始まった人類とイセンドラスの宇宙戦争。名前は壮大だが、地球とイセンドラスの間にはかなりの距離があるということもあり、実際に人類とイセンドラスが正面からぶつかったのは終戦までの約1年程度、それ以外はほとんどがUCとの戦いであった。

 そのためUCの弱点は周知の事実であり、明日人は一撃で正確に核を切り裂き、UCを次々と葬った。


「一体一体はそれほど強く無いけど、こうも数が多いとひと苦労だね〜」


「ほんと、多過ぎだよね〜」


 そんな軽口を言い合いながら、私たちは東京の空を飛び回り、片っ端から敵を切り裂いた。できるだけ被害が少なくなるように、強い個体を優先的に攻撃し、可能なら空中にいる間に核を破壊した。その方が、市街地への被害が少なくなるからだ。

 使う魔法も、周りへの被害が少ない魔法に限定して戦った。足枷にはなるが、街をもう一度建て直すことに比べたら、断然こちらの方が楽だ。むしろ、魔力の節約にもなるので、効率が良かったりする。

 私たちは、まるでスケートをするかのように空中を飛び回った。見える範囲内だけでも、30近くの穴が空に空いており、その穴からこぼれ落ちるように、大量のUCが降り注いだ。UCたちの形や大きさはバラバラであり、星間戦争時のときと何一つ変わらない化け物であった。

 だが、人類側は66年前とは大きく異なっていた。具体的に言うならば、魔法という対抗するための武器を持っていた。各都道府県には担当の魔法師が最低でも十数人は付いており、正式な級位を持っていなくても、退役魔法時や退役軍人がそれぞれ活躍した。逆に、まともに戦える魔法師が1人もいないような地域は、上空の魔法陣を破壊する術も無かったため被害はほぼ皆無であった。

 特に東京には、過剰とも言える戦力が揃っており、自衛隊を中心に活躍していた。


「これなら何とか最悪の事態は避けられそうだね、お兄ちゃん。」


「そ〜だね〜、敵が固まっている分、戦いやすいんだと思うよ〜」


「なるほどー!流石お兄ちゃん!」


 UCの出現が完全なランダムであるならばそれなりに面倒であるが、UCが出てくるのは空中に空いた穴からのみであり、複数の穴が空いているとはいえ、対処は意外と容易であった。何故なら、穴の下さえ注意していれば、攻撃を防ぐことができるからだ。

 そしてその事実は、私の目には奇妙に映った。


「ねえお兄ちゃん、やっぱり変じゃない?」


「どうしたの?衣夜。」


「敵さんは、地球を攻撃したいんだよね。」


「多分そうだね。」


「じゃあどうして、降ってくるUCは弱い個体しかいないの?普通、都市部を攻めるなら強い個体を使わない?」


 UCには、人類とってどれほどの脅威かを6段階で示した指標が存在する。これは星間戦争中に当時のジルトレアが付けたもので、下から下級、中級、上級、超級、災害級、破滅級の6段階であり、この指標は広く浸透していた。

 そして、今回の襲撃で確認出来たのは下級、中級、上級の下半分のみであり、人類にとってより脅威となる存在である災害級や破滅級のUCはおろか、超級UCすら一体も確認できていなかった。ちなみに、超級UCはA級魔法師と同等程度の力を持っているとされており、もし今回の襲撃に超級魔法師が混ざっていれば、被害はこの程度では済まなかっただろう。


「う〜ん、なんでだろうね〜。やる気が無いのかな〜」


「やる気?どういうこと?」


「戦力を温存しているっとこと、もしくは別のところでは普通に現れていているけど、東京だけ特別って可能性もあるね。」


「ふ〜ん、なるほもね〜」


 確かにお兄ちゃんが言う通り、東京のみの現象である可能性も無視できなかった。まぁ何にせよ、敵の狙いがわからない以上、下手に動くのはあまりよろしくない。


「とりあえず、僕たちは時間稼ぎを努めよう。あと数分で健斗が月から帰ってくるはずだ。そしたら反撃開始だ。」


「了解っ!」


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 どうでもいい話

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