第15話 歯車は回る

 それは、突然の出来事であった。

 久しぶりの学校、相変わらずの意味の分からない授業、そして何気ない帰り道。これが、俺の求めていた日常であった。

 だが、少しずつだけど確実に、運命の歯車は回っていた。


「それで?結局どうするの?」


「何がだ?」


「何って、研究所の件よ。貴方の事だから、もう自分がどの道を選ぶか決めているんでしょ?」


「今のところ、ありがたい話ではあったけど、心境の変化が無ければ断るつもりだ。確かに自分自身を知ることは魔法師にとって大切なことだが、俺はもうその段階を終えて、感覚として落とし込んでいる。今さら必要なことじゃないな。」


「そっか・・・・・・」


 数値として知ることは大切だが、俺は既に自分のできることとできないことを感覚として把握している。故に、数値化するメリットをあまり感じられない。むしろ、その分だけ時間を拘束されるのでデメリットにもなりうる。だから、何らかの変化が無い限り、わざわざ研究所に所属することはないだろう。


「ルーシアは入るのか?」


「私は貴方が入らないなら入らないわ。良い所だなとは思っていたけど、わざわざ入るほどじゃないもの。」


「まぁ、そうだろうな。」


 どうやら、俺とルーシアの意見は一致しているようで、2人とも入らないという方を選んだ。ルーシアが熱望したなら、そのついでに顔を出すぐらいならば構わないと思ったが、今すぐ行動を起こさなければならない理由は無い。

 そう判断した俺は、頭の中を一旦フラットにして今後のことを考え始めた。より正確に言うならば、今晩のご飯はどうしようかを考え始めた。今日は月曜日であり、今晩の当番は俺だ。自宅の冷蔵庫の中身を思い出しながら、俺は献立を考え始める。


「ルーシア、人参は残っていたっけ。」


「1本だけなら残っていたはずよ。ちなみに、じゃがいもは4つ残っていたはずだから、カレーなら作れるわよ。」


「何でカレーって分かったんだよ。」


「カレー食べたいって顔をしているからよ。ちょうど私もカレーを食べたい気分だったし、今日は手抜きでいいわ。」


「いやいや、カレーは手抜き料理じゃないから結構大変なんだぞ?まぁ、作るけどさ。」


 どうやらわかりやすい顔をしていたらしく、今日の献立を当てられたことに驚いていると、話を遮るかのように俺の携帯用端末が着信を知らせる音を鳴らした。プライベートで使う方ではなく、日本魔法協会から渡された方であり、俺は間髪を開けずに通話に応じた。


『こんばんは、健人くん。今、手は空いているかな?』


「はい、空いていますけど・・・・・・」


『緊急事態だ、健斗くん。今すぐ房総半島の魔法協会に来てくれ。飛行魔法の使用を許可するから、全力で頼む。』


 通信の相手は、端末に表示された通り有栖川さんであった。彼は、電話を挟んでも分かるほど焦っており、普段は控えるように言われている飛行魔法の使用をお願いされた。よっぽどの大事、もしくは面倒事であることが推測された。もちろん、断るわけにはいかない。


「分かりました。すぐに向かいます。」


『ありがとう』


 通話を終えた俺は、持っていた荷物を全てルーシアに手渡した。どうやら、急いだ方が良さそうだ。


「ごめんルーシア、呼び出されたから行ってくる。」


「えぇ、分かったわ。」


「本当にごめんな。」


「いいわ。それより急ぎなさい、緊急事態なんでしょ?」


「あぁ、行ってくる。」


「えぇ。」


 それだけ言い残して、俺は全身に魔力を流した。使うのは、オリジナルの飛行魔法、ただ事ではないと判断した俺は、真っ直ぐ房総半島にある基地へと向かった。



 *



 房総半島ー日本魔法協会基地


「本条様、こちらです。」


「あぁ。」


 政治や経済の中心が東京であるならば、魔法の中心は房総半島だ。元々はゴルフ場しかない田舎であったが、今では自衛隊や日本魔法協会の一大拠点であると同時に、様々な研究機関や企業が集中しており、まさに日本における魔法の中心に相応しい場所となっていた。

 日本魔法協会の拠点へと降り立った俺、先導してくれる職員の案内に従って、奥の部屋へと案内された。房総半島の日本魔法協会に来るのはこれが初めてであったが、東京にある魔法協会と構造が似ているので、迷うようなことはなかった。


「よく来てくれた、本条くん。」


「武内さん・・・・・・」


「早速で悪いが、そこの席にかけてくれ。状況を説明する。」


「分かりました。」


 案内された部屋に入ると、そこにはスーツを着用した数名の男が男が俺を待っていた。呼び出した張本人である有栖川さんの姿は見えなかったが、見覚えのある顔が並んでおり、その中で唯一顔と名前を覚えていた人物から声をかけられた。

 武内さん、下の名前は覚えていないが、有栖川さんから特に覚えろと言われた人物であり、確か日本政府のお偉いさんであったはずだ。


「あの、有栖川さんは?」


「有栖川はもう少しで着くはずだ。君をここに呼び出したのとほぼ同じタイミングで本部を出たと言っていた。」


「分かりました。」


 日本魔法協会本部のある築地からここまでは、それなりに距離がある。俺と有栖川さんが同時によーいスタートすれば、先に着くのは俺の方であろう。

 全員揃ってから説明を始めると思っていると、武内さんは有栖川さんを待たずに説明を始めた。


「まずはこれを見てほしい。」


「これは・・・・・・何らかの魔法陣?」


「つい先ほど、地球周回軌道と月周回軌道の中間で確認された未知の魔法陣だ。術者及び効果は不明であり、詳しい発現時期は分かっていない、そして今もなおこの魔法陣は動いている。」


「動いている?」


「あぁ、少しずつだが、魔法陣の形が変わっていくのが確認されている。まだ、何の効果も発揮されていないことから、構築中なのでは無いかと予想されている。」


「・・・・・・」


「そこで、君に頼みがある。どんな方法でも構わないから、この魔法陣を対処して来て欲しい。」


 ______________________________________________________

 どうでもいい話

 カレーは手抜きじゃない。


P.S.ここからが本番かも

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