第14話 得た者、失った者

 古井さんと助手の佐々見さんの案内に従って、俺とルーシアは研究所内の様々な施設や実験器具を見て回った。初めて見るものや、教科書の中でしか見たことが無かったものを多数見学する事ができ、それだけで俺は今回の見学が有意義なものであったなと思った。


「これが魔力密度の測定器、そしてこっちが魔力量の測定器、少し古いモデルの測定器だけど、どちらもエリーナ式が採用されているから精度は最新のモデルとそんなに変わらないかな。」


「思ったよりもコンパクトなんですね。」


「そりゃあ、身に付けて使うものだからね。」


「なるほど・・・・・・」


 それぞれの測定器は防弾チョッキのような見た目をしており、体内の魔力回路を通してそれぞれ値を計測しているそうだ。仕組みはさっぱり理解できなかったが、それでも装置に刻まれた魔法式を見れば、もの凄く高度な技術が使われていることがわかった。習得しておいて損はないと判断した俺は、こっそり解読をルキフェルに頼んだ。


「それはアインシュタインやニコラ・テスラに並ぶと謳われる天才、嘉神エリーナ氏の発明品でね、30年も前に発明された装置なのにも関わらず、未だに上位互換が存在しないとされている優れ物だよ。彼女がいたからこそ、現代魔法学はこれほどまでに急速に進歩したと言われている。」


「流石は三賢人の1人といったところか・・・・・・」


 星間戦争の英雄は誰かと聞かれれば、黒白、セラン=レオルド、キリア=メスタニアの三英雄がよく挙げられるが、人類の魔法学の進歩に大きく貢献した魔法師は誰かと聞かれれば、キリア=メスタニア、嘉神エリーナ、黒白の三賢人が挙げられる。三賢人の黒白のところは、ツクヨミ社現CEOである藁科咲夜と度々比較されて論争になるが、残りの2人について異論を唱える者はいない。

 嘉神エリーナ、彼女は研究者ながら魔法学の研究に多大なる貢献をしたことが認められ、当時のジルトレアから勲章としてS級魔法師の称号を貰った唯一の研究者だ。彼女が生み出した様々な魔法理論は現代魔法学における土台となっており、彼女が生み出した数々の魔法具は多くの人類を救った。

 現在は、ツクヨミ社の社員兼研究者となっていると言われており、表舞台に立つ事は無くなったが、今もなお人類に大きく貢献しているとされている。


「どうかな、健斗くん。気に入ってくれたかな?」


「さっきも言いましたけど返事は保留させて下さい。まだ、迷っている部分がありますので・・・・・・」


「ふむ、それもそうだな・・・・・・。」


 ひとまずは、曖昧な回答をさせて貰った。この研究所を候補に入れたのは、単純に学校から近いというのもあるが、一番の理由それほど力を持っていない研究所であったからだ。より大きな研究所に行けば、より最新の機器や装置に触れることができるかもしれないが、その分制約がついて回る。ならば、国立魔法研究所のようなある程度の機器が揃っており、俺が自由に行動できるところの方がやり易い。まぁ、何処かしらの研究所に所属するならばの話ではあるが・・・・・・


「では、ルーシアくんの方はどうかな?」


「わ、私もですか?」


「健斗くんと比べたら劣るかもしれないが、あの雷神の血を引いている君も、我々としては是非とも研究に協力して欲しいと思っている。知っての通り、魔法の才能は遺伝すると言われているからね、君も将来は国を代表する魔法師になれるかもしれない。」


「私は・・・・・・」


 魔法の才能は遺伝する、それが現代魔法学における通説だ。以前までは遺伝しないと考えられていたが、精霊使いの存在と黒白の書いた論文によって、ひっくり返った。才能と言ってもそれは個性のようなものであり、例えば精霊使いであれば、両親のどちらか、もしくは両方が精霊使いの素質を持っているとされている。

 そのため、S級魔法師の1人娘であるルーシアは、周囲からいずれはS級魔法師にと期待されており、彼女も多くの研究所から研究協力を依頼されている人物の1人であった。


「私も、保留でいいですか?」


「ふむ、理由を聞いてもいいかな?」


「ありがたい話ではあるんですけど、できれば健斗と一緒のところがいいというか・・・・・・」


「ふむふむなるほど、そういうことね。」


「はい、そういう事です。」


 チャンスがあれば、どんどんチャレンジしていくルーシアにしては珍しく、彼女は答えを出すのを渋った。おそらく、俺が一緒の方が安心できるという意味でそう言ったのだろう。まぁ俺も、ルーシアが近くにいた方が気が楽だ。


「・・・・・・苦労しそうだけど、頑張ってね。」


「はい、頑張ります!」


 何故か、ルーシアと古井さんはお互いに心を認め合っていた。

 そんなこんなで、1時間はあっという間に過ぎ去り、俺とルーシアは答えを保留にしたまま研究所を後にした。



 *



「計画通り、健斗くんの株は上昇の一途を辿っているようだね。」


「はい、今や本条健斗のS級昇格に反対する国や魔法機関は片手で数えられるだけとなっております。」


「そうかならば、彼には次なる任務を与えよう。」


「多少の休息があった方がいいのでは?」


「大丈夫だ、問題ない。これは、簡単な調査で終わるはずだ。」


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 どうでもいい話

 最近、睡眠の素晴らしさを実感してる。

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