第12話 大層な名前
朝食を済ませ、支度を整えた俺たちは、お隣の藁科兄妹と共に久しぶりの学校へと向かった。およそ1ヶ月ぶりの登校、見慣れた道ではあるが、妙に懐かしく感じてしまうのは、この1ヶ月間が色々と濃い1ヶ月間であったからであろう。ざっと世界を3周ほどした気分であった。まぁ、実際は日本国内の移動がほとんどであったので、世界1周もできていないだろうが・・・・・・
「これは凄いな・・・・・・」
「当たり前でしょ?貴方は世界の頂点たるS級魔法師、注目されないわけがないわ。」
「ですよね〜」
寮を出た直後あたりから、俺はその場にいるほぼ全ての生徒から注目を集めていた。まぁ、こうなることは覚悟していたが、それは想像以上であった。
「慣れるしかないのかね〜」
「これから、ますますメディアへの露出も増えるだろうから、慣れた方が良いと思うよ〜」
「メディアなんか絶対出ないぞ?俺は。」
有栖川さんからは、S級魔法師としての仕事にはできるだけ参加するように言われているが、あくまで推奨されているだけであり、
俺が受ける理由や利点はない。基本的には、これからもスルーし続けるつもりでいた。俺に対する評価を変えるのは自由だが、俺が相手に合わせる理由はどこにもない。俺はこれからも今のスタイルを貫くつもりでいた。
「相変わらずのメディア嫌いだね〜健斗は〜」
「そういう兄ちゃんだって、メディア嫌いじゃん。」
「僕は一般人だからいいんだよ〜」
「いやいや、天下のツクヨミ社のご子息が何言っているんだよ。」
別に、メディアが嫌いなわけではない。地球時間で4年間、向こうの時間で8年間ほど、まともなメディアが存在しない異世界で暮らしていた俺だからこそ、メディアの必要性と役割を知っている。だが、俺に様々な面倒を押し付けている原因の一端が奴らにある事を考えれば、奴らを恨まずにはいられない。
【まぁ、要するに八つ当たりということね。】
うっさいな、ルキフェル。そんなことはわかってるよ。
「人の噂は七十五日というが、この話題は卒業しても消えないだろうね〜頑張って〜健斗〜」
「他人事かよ、明日人」
「他人事だよ〜」
「くっそ、やっぱりS級魔法師になんかなるんじゃなかったな。」
*
「やあやあ初めまして本条健斗くん、私は国立魔法研究所の
「断る。」
「まだ内容すら言っていないんだけど?!」
育成学校が創設されたのは今から45年前、地球が宇宙人からの侵攻を受けている最中、魔法の研究所かつ軍事拠点として房総半島に建設されたのが始まりだ。当時、宇宙からやって来たモンスター、UCとの戦闘に苦戦していた人類は、魔法という新たな概念に可能性を見出した。各国は競って研究を行い、例に漏れず日本も全国各地から才能のある者を集めて、研究を行っていた。
要するに人体実験だ。日本はまだマシな方であったが、とある国では一定以上の才能があるものを国中から強制的に連行し、危険な人体実験を行った。当時の人類は、国家手動で人体実験に乗り出すほど追い詰められていた。だがその人体実験おかげで、人類はUCへの抵抗手段を獲得した。
その後時を経て、軍事拠点としての役割を残して、研究所と教育機関の部分ら、房総半島から東京湾に浮かぶ人工島へと移転した。それが今の育成学校東京校だ。だから今も、育成学校の周囲には様々な研究機関が揃っている。
「だってどーせ、研究の協力依頼だろ?」
「何故わかった?!」
「いやだってさっき、自分で研究員って名乗っていたじゃねーか。少し考えればわかるだろ。」
「確かに言ったな・・・・・・」
教室に入った直後、見覚えのない眼鏡をかけ白衣を着た女に声をかけられた。年は30代ぐらいで、古井というネームプレートを付けていた。どうやら、本物の研究員であることには間違いないようだ。
「はぁ〜あのさ、時と場所を考えろよ。俺はこれから授業なんだが?」
「すまない。君が育成学校に戻って来るという話を聞いて、居ても立っても居られなくなってな。」
「何処から突っ込めばいいのやら・・・・・・」
驚きを通り越して、俺は呆れていた。研究に人生を捧げるというのは、立派だし誇れるものだと思うが、研究が優先になり、TPOを考えないのはやめてほしいところだ。まぁ、気持ちはわからなくないが・・・・・・
「確か、学生が研究所と交流するのは3年からじゃなかったか?」
「そうだね。生徒は基本的に、3年生の時にいずれかの研究チームに所属、もしくはチームを創設して、研究するのが通例だね。でも、級位を持っている生徒や研究チーム側がスカウトすれば特例的に1・2年生でも参加が認められる。だから、たとえ君がS級という魔法師の頂点たる称号を持っていなかったとしても、スカウトはルール違反じゃないんだ。」
「だとしても、朝っぱらから教室で待っているのはルール違反だろ、倫理的に。」
「研究に、倫理なんてものは無いよ、健斗くん。」
「何もカッコよくないから。」
色々とため息が出そうだが、面白いやつではあるようだ。日本魔法研究所、大層な名前の研究所であるが、ここにいても警備員が飛んで来ないということは、育成学校の周りにある研究所で間違いないだろう。
「どうだろうか、せめて見学にだけでも来てくれないかな?」
「帰りに1時間だけ寄ってやる。面白そうだったら、研究に協力してやってもいいが、つまらないと思ったら速攻で帰るからな?」
「ありがとう、その言葉を聞けただけで、私は満足だよ。じゃあ私は、一旦研究室に戻るから。じゃあね〜」
それだけ言い残して、白衣の女は教室を出ていた。面倒事ではあるが、断ったら粘着されそうだったので、見学にだけお邪魔することにした。暇つぶしにはちょうど良いだろう。
「あ、何の研究内容か聞くの忘れてた。」
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どうでもいい話
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