第11話 世論とフェイクニュース

『黒白様、ニューオリンズに出現っ!』

『後継者の指名か?黒白様、日本の新星と共に登場っ!』

『華麗なる登場っ!ニューオリンズは一時、大パニックにっ!』

『先日、現地時間午前11時、日本時間午前1時頃、ニューオリンズの州立病院に、黒白様が出現しました。黒白様は、戦闘によって気絶したと思われるA級魔法師6名と共に病院に訪れ、6名のA級魔法師の身柄を医療機関に引き渡したとのことです。専門家によりますと、黒白様はほぼ間違いなく本物であり、これは何らかの理由で気絶した6名の魔法師を助けるための医療行為である可能性が高い、とのことです。また同時刻、ニューオリンズ上空約150km付近にて、高出力の魔力波が検出されたことから、大規模な魔法戦闘があったのではないかと推測されています。』


 何処かで聞いたことのあるニュースに耳を傾けながら、俺は久しぶりに戻って来た寮の自室で朝食の用意をしていた。リビングに置かれた大きめのディスプレイには、16年前と何ら変わらない格好をした黒白が映っており、今回のニュースがフェイクニュースではないことを伝えていた。ディスプレイの端っこには、俺が気絶させた6人のA級魔法師の姿も映っており、俺は彼らが無事であったことを知り安堵した。


「良かった、全員無事なようだな・・・・・・」


 レネ曰く、地上に魔法師が待機しているから6人の魔法師はそのまま自由落下させて構わないという話であったが、受け止める役の魔法師があの黒白であるとはもちろん知らなかった。このことを最初に知ったのは帰りの宇宙船に乗った後であり、知っていれば黒白の大ファンであるお母様のためにサインを貰いに行っていたのに、と少し悔やんだ。

 謎の白髪少女の介入によって戦闘停止となったのち、俺はレネから今回の件の背後で何が起こっていたのかを聞かされた。簡単に説明すると、とある複数の国々が、俺がS級に昇格したというニュースを受けて、自国のA級魔法師をS級に昇格するように意見して来たらしい。もちろんすぐに断ったが、それでもしつこく打診してくる国が何ヶ国か存在したため、それらの国に対して今回のようなゲームを秘密裏に提案したらしい。その結果、6ヶ国が参加を表明し、6名のA級魔法師が俺の元に送り込まれたとのことだ。首謀者は現ジルトレア最高責任者のゼラスト=メネルトーレで、有栖川さんは今回の件には全くの無関係とのことであった。

 良いように利用されたことに関しては、あまり良い気はしなかったが、宇宙での戦闘と世界トップクラスの魔法師との戦闘を同時に経験できたことはプラスであった。特に、宇宙空間での戦闘は初めての体験であり、苦戦したことも多かったが色々と発見もあった。

 有栖川さんの方も、最初は良いように利用されたことに対して怒っていたが、俺が無傷で圧勝すると悪い顔をした大人に早変わりした。いったい何を企んでいるのかは知らないが、どうやら今回の件をネタに、例の6カ国に対して色々と要求するつもりらしい。


「よし、こんなものかな〜」


 出来上がった料理を見て、俺はそう呟いた。今日のメニューは、普段の朝食に比べてかなり豪華になってしまったが、簡素になるよりは良いだろう。現在の時刻は午前7時ちょうど、そろそろルームメイトが起きる時間だ。


「おーい、ルーシア、起きろ〜」


「んっ・・・・・・」


 俺のルームメイトは、基本的に目覚まし時計やアラームなどを利用しない。彼女曰く、アラーム音によって起こされるのは、ストレスが溜まるそうだ。まぁ、気持ちはわからんでもないが、使わないのならしっかりと起きて欲しいところだ。


「おーい、朝だぞ〜」


「ん〜?もう朝〜?」


「もう7時だ、起きないと遅刻するぞ。」


「わかった〜」


 ルーシアは、眠たそうな声で答えながら起き上がった。ルームメイトになったばかりの頃は、早寝早起きで規則正しい生活を送っていた彼女だが、俺がA級魔法師になったあたりからだんだん堕落し始めた。まぁ、生活に支障をきたすレベルではないものの、甘えてくる機会が増えた気がする。

 ルーシアの電源が入ったことを確認した俺は、ダイニングへと戻ると彼女が制服に着替えるまでの間、先ほどのニュースの続きを見ることにした。


『また、今回の騒動を受けてジルトレア最高責任者のゼラスト=メネルトーレ氏は、とある新理論に基づいた魔法の実験を行なっていたことを発表し、黒白によって病院へと運ばれた6名の魔法師については、実験の失敗の反動によるものだと説明しました。また、黒白様はこの件に対して一切関与しておらず、彼が気絶した6人を助けたのは、黒白の意志によるものだと説明しました。専門家によりますと、今回の実験は全魔法の中で最も扱うのが難しいとされている『時間魔法』に関する実験ではないか、とのことです。』


 ニュースキャスターは、顔色を全く変えずに俺の知っている真実と異なる内容を話し始めた。映像と共に、それっぽい内容が流れ始め、俺やレネの名前は何処にもない。また、某有名大学の教授と紹介された男は、的外れな理論をその場で展開し始めた。どれも、都合の良い解釈がされているだけで、宇宙空間で繰り広げられた俺とレネの激戦は、笑ってしまうぐらい違和感なく隠された。

 どうやらジルトレアは、今回の件を公にするつもりは何処にもないようだ。


「どうしたの?今日のご飯、ずいぶんと豪華じゃない。」


「久しぶりに作ったから、ちょっと楽しくなっちゃってな。」


「そう、ありがと。」


 制服へと着替えたルーシアは、軽く料理の感想を言いながら俺の対面に座った。


「「いただきます。」」


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どうでも良い話

久しぶりのほのぼの回でした〜

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