第10話 選ばれし者

「たったの15分で、我々が派遣した6名のA級魔法師が全滅だと!」


 その報告は、自国から新たなS級魔法師が誕生するかもされないと心を踊らせていた各国の指導者達を絶望させた。


「それだけではありません。報告によれば、奴は固有魔法を一切使うことなく圧勝したとのことです。」


「そんな、馬鹿なっ!」


 そんなはずがない、きっと何かの間違いだ。

 それが、指導者たちがまず最初に考えたことだった。S級魔法師に準ずる力を持っていると噂されているとはいえ、A級魔法師6人を相手にしながら固有魔法を使わずに勝利するなど、誰も予想していなかった。

 現代魔法戦闘は、固有魔法の殴り合いと言われるほど、固有魔法の有無によって勝敗が大きく左右され、固有魔法を持っていない者が固有魔法に持っている者に勝つことは不可能に近いとされている。もちろん、使えないのとあえて使わないのは違う事柄だが、それでも普通ならひっくり返らないほどのアドバンテージとなることは確かだ。


「では、我が国が派遣した『スコーピオン』も、手も足もです無様に敗北したというのか?」


「はい・・・・・・幸い、目立った外傷などはなく、命に別状はありません。一時は意識不明となったようですが、既に回復しております。」


「そうか・・・・・・」


 ひとまず、国家にとって大切な戦力である魔法師が無事であることに安堵した。


「『無色の堕天使』の実力の一端が見えただけでも良しとしよう。当然、データはとってあるんだろうな。」


「はい、映像データと魔力データの両方がございます。」


「そうか、ならば良ししよう。」


 S級魔法師が増えなかったことは残念であったが、損失はそれほど多くない。むしろ、日本の新星の実力を測る良い機会でだったと、前向きに考えた。A級魔法師6人を相手に、固有魔法無しで勝てたということは、少なくともS級魔法師に匹敵するだけの戦力を持っているという事になる。

 だが、部下からの悪い知らせは、それで終わらなかった。


「話は以上か?」


「いぇ、もう一つあります・・・・・・」


「聞こうか。」


「それが・・・・・・」


 改めて尋ねると、部下の男は途中で発言を止めた。不思議に思って振り向くと、男は僅かに震えていた。何に怯えているのかはわからなかったが、それでも緊張が伝わった。そして、改めて尋ねると、男はゆっくりと話し始めた。


「何だ?さっさと言ってくれ。」


「それが・・・・・・黒白が今回の件に介入したため、我々の行動が世界中に公表されてしまいました。」


「何だと?!もっと詳しく話せっ!」


「はい。『無色の堕天使』に敗北した6人の魔法師は、そのままニューオリンズの州立病院に搬送されたのですが、彼らを病院に運んだのが黒白だったのです。」


「なっ!」


 それは、完全に想定外の知らせであった。長らく消息がわかっていなかった過去の英雄が、突然姿を見せたかと思えばとんでもないことをしてくてた。

 自然と、拳に力が入る。


「目撃者も多く世界中が大騒ぎになっております。まだ完全に公になったわけではありませんが、公になるのは時間の問題だと思われます・・・・・・」


「どうしてこんな時にっ!」


 黒白が姿を現したというニュースと共に、6人のA級魔法師が気絶した状態で病院に運ばれたというニュースは、既に世界中に広まっていた。もはや、取り返しのつかない状態となっており、今回のゲームの存在が公になるのは時間の問題であった。

 遅れて、男は何故黒白が今回の件に介入したのかに気がついた。


「なるほど、これは我々への警告ということか・・・・・・」


「警告?ですか?」


「あぁ、日本の新星『無色の堕天使』に、これ以上手を出すなとという警告だ。そういえば、彼の推薦人に、黒白と白銀の名前があったな。おそらく彼は、『選ばれた人間』なのだろう。」


「っ!彼が・・・・・・」


『選ばれた人間』

 星間戦争の真っ只中、ジルトレアを創設した英雄、セラン=レオルドは、特例で当時は名もなきC級魔法師であった黒白を、最高指導者としての権限を使って一気にS級へと昇格させた。このフレーズは、その際にセラン=レオルドが使った言葉だ。『彼はS級魔法師に相応しい選ばれた人間だ。彼は必ず、人類に夢と希望をもたらすだろう。』当初は反対する声や疑問視する声が多かったが、セランのこの発言によって、世間は黒白に対する見方を大きく変えた。実際黒白は、当時人類は逃げるしかなかった化け物を何体も葬り、その名を世界に轟かせた。

 そして、『選ばれし者』というフレーズには、もう一つ意味があった。


「もし黒白が自身の後継者となる『選ばれし者』を選んだとしたら・・・・・・」


「世界に再び、災いが降り注ぐであろう。」



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 どうでもいい話

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