第9話 純白の調停者

『色』には、文化的な価値がある。

 例えば、聖徳太子が制定したとされる冠位十二階の最上位が紫であるように、かつての日本では紫は高貴な色とされていた。単純に紫色の染料が貴重だったからでは?という説もあるが、庶民は紫を避け、上流階級の貴族は紫色を高貴な色として好んだ。このような感覚は現代においても同様であり、人々は『色』に対して視覚的な情報以上の文化的な価値を付与した。

 そして現代においても、高貴とまでは言わないものの、人々から一目置かれるようになった色が存在する。それは、純白だ。特に、髪の毛を白く染める者は、ほぼ皆無となった。それだけに、初雪のような真っ白な髪を持つ目の前の少女の存在は、異様に映った。


「どうして、貴女がここに・・・・・・」


 純白の髪色を持ち、漆黒のドレスに身を包んだ俺と同い年ぐらいの少女は、凄まじいオーラを放ちながらいきなり目の前へと現れた。レネとの戦闘に集中していたとはいえ、これほどの魔力を持つ者が近づけば気が付かないわけがない。だが、俺は彼女が視界に入るまで全くと言って良いほど彼女の存在に気が付かなかった。


「何処かのお馬鹿さんが、調子に乗って第四段階を使おうとしたから、慌てて止めに来たのよ。」


「っ!」


「あのまま戦っていたら、双方に後遺症が残るレベルのダメージを受ける可能性があったわよ。」


「ごめんなさい、確かに軽率でした・・・・・・」


 白髪の少女の言葉に、レネは間髪を入れずに謝罪した。

 その直後、これまで沈黙を貫いていたルキフェルが、心の中で俺に語りかけた。


【っ!健斗、今すぐ第二段階を解除しなさい。】


 は?何で?


【説明は後っ!いいからさっさとやりなさい!】


 わ、わかった。

 ルキフェルに言われて、俺は慌てて<魔法破壊>を解除した。正直なところ、どうしてルキフェルがこんなに慌てているのかわからなかったが、俺は彼女の指示に従った。ルキフェルが判断を間違えたことは無いからだ。


「どうやら、貴方もこれ以上戦う気は無いようね。」


「あぁ、少なくとも俺には無いな。」


「ふ〜ん、お兄様が選んだだけはあるようね。」


 俺の方へと近付いて来た彼女は、ジロジロと俺のことを見たのち、そんな事を呟いた。遅れて、俺は先ほどのルキフェルの指示の意味を理解した。この女、間違いなく強者、はっきり言って全力を出したとしても勝てるかわからないぐらい、彼女は底が見えない強さを秘めていた。だから、ルキフェルは念のため、敵対する意思が無いことを示したのだろう。


「えっと、貴方は?」


「あぁ、ごめんなさい。そう言えば、自己紹介をしていなかったわね。私は・・・・・・」


 そこまで言いかけて、彼女は喋るのを辞めた。どうしたのかと考えていると、ニヤリと笑った彼女はこちらの方を向きながら言った。


「今は秘密にしておくわ。でも、これだけは伝えておく、私はあなたの近しい人よ。」


「近しい人?」


「その内わかるわ・・・・・・」


 それだけ言い残して、彼女はこの場から魔法陣とともに姿を消した。

 彼女が使ったのはおそらく概念系統魔法の一種である空間魔法ー空間転移だろう。残念ながら、空間魔法に関する知識が乏しい俺は彼女を追いかけることはできなかったが、それでもなんとか彼女の魔力パターンだけははっきりと感じ取ることができた。そして、その魔力パターンを自身の記憶と照らし合わせた結果、俺はとあることに気がついた。


「この魔力パターンは・・・・・・」


【私も覚えがあるわ・・・・・・】


 それは今から約1ヶ月前、とある封筒にかけられていた魔法の魔力パターンと全く同じものであった。


「【黒白】」


 その魔力パターンは、史上最強であり生物最強と謳われた男、黒白の魔力パターンと間違いなく合致していた。しかし、それが俺とルキフェルの記憶違いじゃないとしたら、明らかな矛盾が発生する。黒白は、日本人の男性と言われており、これはほぼ確定の情報だ。だが、先ほどの謎の人物は、間違いなく女性であった。もちろん、黒白が知らぬ間に性転換した、なんて可能性はないだろう。

 と、なると・・・・・・

 俺は有栖川に騙されている?もしくは、有栖川自身も騙されている?

 色々と可能性を探ってみるが、考えれば考えるほど、謎は深まるばかりであった。


「・・・・・・話してくれないですよね。」


「すみません、彼女が秘密と言った以上、私からお伝えするわけには参りません。」


 こちらの予想どおり、残念ながら情報の開示はしてくれなかった。だが、黒白の正体を知っているレネは、謎の人物のことを彼女と言ったことから、謎の人物が女性であることだけは確定した。

 おそらく、これ以上は考えても意味がないだろう。そう判断した俺は戦闘を中断すると、今後のことを考えながら地上へと降りることにした。


 ___________________________________________

 どうでもいい話

 ちょっと内容が薄すぎる気がする・・・・・・

 とりあえず、考察をお楽しみください


P.S.

最初の色の話のところ、『もちろん、白が200色あるか無いかの議論ではない。』って文を入れようか、めっちゃ迷った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る