第8話 適応能力

「っ!そういうことか・・・・・・」


 伸縮自在で鞭のような攻撃ができ、どんな物理攻撃も受け流すことができる防御力を併せ持つ、天の羽衣のようなレネの霊装、そのからくりは案外早く気付けた。

 仕組みは単純で、威力を羽衣全体に分散させることによって威力をほとんど無かったことにするというものだ。正確には、完全にゼロになるわけではないが、それでも威力が殺されて、直線的な物理攻撃ではまともなダメージは一切入らないと言っていい。どのようにしてその魔法を成立させているのかはまだ分からないが、それでもどのような魔法なのかは分かった。

 となれば、非常に厄介である事は間違い無いが、対抗手段が全く無いわけではなかった。


【どうやら、分析は済んだようね。】


 あぁ、完璧じゃないが、ある程度は絞れた。


【そう、ならいつものように適応して見せなさい。】


 わかってる。


「帝国流<半月>」


 使う魔法や剣技、体術はそれほど変えていないが、使うタイミングや向きをワンテンポずらす事によって、俺はレネから避けるという選択肢を消した。そして、魔力障壁か霊装かのどちらかでしか受けれないという状況を作り出した上で、俺は思い付いた対抗手段を使った。


「振動魔法<逆鱗>」


 オリジナルの魔法である、振動魔法<逆鱗>を魔剣に付与した上で、俺はレネに対して帝国流<半月>を放った。普段の彼女ならば霊装を使っての防御を試みるタイミング、だが彼女は咄嗟に回避することを選んだ。計算された俺の攻撃は、この時初めて彼女に届いた。


「くっ!」


「やっぱりか。」


 彼女の不自然な回避行動を見て、俺は思わずそう呟いた。彼女の霊装は確かに強力であるが、万能ではない。


「どうやら、縫い目の無い生地では無かったようだな。」


 直線的な攻撃に対しては、無類の強さを発揮するが、今回の振動攻撃のような複雑かつ、変な挙動の攻撃に対しては、十分な威力の減少が期待できない。つまりは、条件は厳しいが弱点となり得る。俺の魔法破壊の影響下で無ければ、威力の減少ができる羽衣+他の魔法の組み合わせによる防御という選択肢が取れたが、現状は取れない。

 まぁ、俺の方も影響を受けているので、振動魔法<逆鱗>の連発はできないが、それでも撃ち破る手段があるという事実は、戦況を十分に左右する。

 レネは常時、振動系の攻撃を警戒する必要が発生し、警戒すれば警戒するほど、それ以外の部分で俺は有利に立ち回ることができる。普段なら迷いなく下せる判断も、俺の隠し球を警戒して判断が鈍くなっていった。

 まるで複雑なパズルを解くかのように、俺は数手先の未来をイメージしながら攻撃を重ねた。時間が経てば経つほど俺はレネの戦闘スタイルに適応し、有効打となり得る手札を増やした。


「ぐっ!」


「貴女の霊装は確かに強力だ。その力はまさに天衣無縫、固有魔法で魔法式を魔法を封じていなかったら、先に力尽きるのは俺の方だったかもしれない。」


 だが事実として、いつの間にかレネは防戦一方となっていた。何故なら、レネが俺の魔法破壊に適応するよりも先に、俺がレネの霊装に適応したからだ。


「だが、貴女の霊装には、致命的な弱点がある。」


 それは振動魔法のような複雑な攻撃、ではない。もちろん、複雑な攻撃を苦手としていることは事実だが、致命的な弱点ではない。実際、魔法破壊の影響下でなければ、対抗策なんていくらでもあるし、まだまだ隠し球ががたくさんあるだろう。

 では、霊装の致命的な弱点は何か。


「それは、柔軟性だ。」


「柔軟性?」


「そうだ。霊装はそれ単体で完結しているが故に、様々な事象への適応ができない。だから、状況が複雑化すればするほど弱くなる。」


 霊装は、強過ぎるが故に適応力が低い。状況に応じた変化ができず、今回のような対応力勝負に持ち込まれるとめっぽう弱い。もちろん、弱いと言っても世界トップクラスの魔法師と比較した際の話だ。普通の魔法師が相手ならば、何の問題もなく圧倒できるが、トップクラスの戦闘になればどうしても適応能力の低さが目立つ、そして狙われる。ネレ自身が主導権を握れれば何の問題もないが、相手にペースを握られた場合、対応はどんどん遅れてしまう。

 それは、一種の勝利宣言であった。

 おそらく、このまま続けても俺の勝ちは揺らがないだろう。もし揺らぐとしたら、彼女が更なるカードを切った時だけだ。


「このようなアドバイスをもらったのは、貴方で2人目です。」


「へー2人目なのか、案外少ないな。」


「適応能力が低いことなら、気付いた方が他にももっといらっしゃるかもしれませんが、面と向かって言われたのは、貴方で2人目です。そもそも、私に適応能力が低いという弱点があることを知っても、それを実践できる者などそうはいませんでしたからね。」


「なるほど、確かにそうだな。」


 もちろん、弱点がわかるのと、その弱点をつく事ができるのは大きく違う。相手が元とはいえ、S級魔法師であるならば尚更だ。たいていの場合は、万が一気付けたとしても、状況は何も変わらず圧倒されるだけだろう。


「それで?その、もう1人というのは、やっぱり?」


「はい、黒白です。彼も、同じようなことを私に伝えてくれました。」


 流石は黒白といったところか、どうやら彼も俺と同じ結論に至ったようだ。

 そんなことを考えていると、途端にレネの雰囲気がガラリと変わった。


「だから私は、彼のアドバイスの通りに、適応能力が低いことに適応することにしました。」


 そして、人類でまだ数人しか到達していない、次なるステージへと足をかけた。


第四段階ファース・ステップ


 何処にそれだけの魔力が残っていたのかと、疑いたくなるほど強大な魔力がレネから飛び散った。凄まじい威圧感と共に、彼女は次なる段階へと進もうとしていた。魔法破壊の影響下では魔力の操作が極めて難しくなるが、それには3つの例外が存在する。1つ目は核となるルキフェル自身、2つ目は魔力感知や身体強化といった魔力回路に魔力を流すだけで発動する事ができる簡易魔法、そして3つ目が固有魔法を発動すること。固有魔法をまともに使用することは難しいが、発動するだけならば十分に可能だ。

 俺が第3ラウンドが始まることを確信し、身構えた直後、突然レネは発動をキャンセルした。

 いや、より正確に言うならば、キャンセルさせられた。


「2人ともストップです。」


「「っ!」」


 気付いた時には目の前に、見覚えのない白髪の1人の少女が立っていた。俺は、彼女の存在に、素直に驚いた。

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 どうでもいい話

何も進んでないw

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