第7話 sideレネ

 最初は、小手調べのつもりだった。

 黒白が選んだ新たな魔法師に、次世代の魔法界を引っ張っていくだけの力があるのかを確かめるだけ、少なくとも実際に対峙するまではそう考えていた。だが、そのような考えはすぐに消えた。

 彼は本物だった。

 才能があり努力もできる、そして、強くなるためならば変化することを厭わない。彼は、私との戦闘で様々なことを学び、試し、成長していた。

 そして、私がその成長に気付いた時にはもう・・・・・・



 *



「はあぁぁ!」


「っ!・・・・・・」


 これまでの遠距離戦とは打って変わって、私は超接近戦を繰り広げていた。魔剣という大きなアドバンテージを持つ彼に対して、私は精霊の羽衣を使って何とか攻撃を凌いでいた。私たちの周辺は未だに、彼の第二段階固有魔法の影響下であり、お互い満足に魔法式を組めずにいた。

 そうなると勝負を分けるのは、身体強化、魔力感知、魔力障壁の3つ簡易魔法と固有魔法の存在、そして領域外からの攻撃だ。


「<アクアランス>っ!」


 健斗の固有魔法の効果範囲はだいたい半径20mほど、だからそれよりも外側に魔法陣を形成して、攻撃の手札を増やす。それに対して健斗は、様々攻撃を複雑に絡めながら攻撃を繰り出して来た。

 おそらく彼は、私の霊装を撃ち破る手段を模索しているのだろう。もちろん私は、自身の霊装の弱点も知っているが、わざわざ教えてあげる道理はない。


【いかが致しますか、マスター】


 貴女は羽衣と魂の回廊の維持に全力を注いで下さい。


【了解致しました。】


 私の契約精霊は、ただの精霊ではなく水の上位精霊ウンディーネ、通常の精霊とは違い魂の回廊中は相互的な意思疎通が可能だ。それにより、私はウンディーネと連携しながら戦うことができる。


「クロスレンジなら有利に立てると思ったけど、甘かったようだな。」


「近距離戦が苦手だなんて、ひとことも言った覚えはありませんよ。」


「そのようだ、なっ!」


 世間からは、私は後方からの魔法支援や火力支援に特化した、遠距離戦しかできない魔法師と勘違いされているようだが、私は別にどちらも普通に戦える。私が後衛で戦うことが多かったのは、S級魔法師は前衛で戦うタイプの魔法師ばかりで、私のように火力支援系の魔法を実践レベルで使える魔法師は片手で数えれるぐらいしかいなかったからであり、別に後衛を希望していたわけではない。むしろ私は、1対1ならば接近戦の方が得意だ。


「<水柱>。」


「帝国流<三日月>っ!」


「<白滝>。」


「<氷瀑>っ!」


 私の羽衣を主体とした攻撃に対して、健斗は自身の魔剣を軸とした細かい攻撃を多用した。一撃でノックアウトを狙うというよりは、細かい技を重ねて枯渇を狙う作戦をとっていた。それに対して、私は羽衣を主体とした攻守ともにバランスの良い立ち回りで健斗と戦った。

 お互いのフェイントや工夫がぶつかり合い、戦闘はどんどんと複雑になっていった。お互いに休む暇なく魔法を放ち合い、戦況は完全に拮抗状態となった。

 いつの間にか、私は当初の目的を忘れて戦闘を楽しんでいた。


「絶対に負けません。」


「それはこちらのセリフだ。」


 ただ、目の前の魔法師に勝ちたい。こんな気持ちになったのは、一体いつ以来だろうか。最後にまともに戦ってから、少なくとも数年は経過している気がする。

 それだけ、健斗との戦いは私をワクワクさせた。

 だが、この楽しい時間は長くは続かなかった。


「動きがバレバレだぜ。」


「っ!」


「だんだんと、読めて来たな。」


「くっ!」


 最初の方は私が有利な状態で始まったのにも関わらず、彼はどんどんと私に適応していき、だんだんと私と彼の差は埋まっていき、そしてたった今追い抜かれてしまった。

 驚くべきは彼の適応スピード、そもそも彼はつい先ほど宇宙空間での戦闘を初体験したばかりであり、私は経験面で大きなアドバンテージを持っていた。だが、そのアドバンテージはだんだんと減り、ついには無くなった。

 そして、このまま固有魔法影響下での接近戦を続けていても、私に勝機は訪れないことを悟った。次なるカードを切らなければ、もはや私に勝ち目は無い。

 そう判断した私は、最後のカードを切ることした。


第四段階フォース・ステップ


 歴史上、ほんの数人しか到達できた者はいないとされている固有魔法の奥義、第四段階。私は全神経を集中させると、発動の準備を始めた。

 だが、私が第四段階を発動するよりも先に、思わぬところから横槍が入った。


「2人ともストップです。」


「「っ!」」


 声が聞こえた方を見てみると、私と健斗のちょうど中間あたりに1人の少女が浮いていた。長く伸びた白髪に、独特の雰囲気をした彼女は、そのまま私たちを威圧した。

 その姿を見て、私はすぐにそれが何者なのかわかった。


「どうして、貴女がここに・・・・・・」


「何処かのお馬鹿さんが、調子に乗って第四段階を使おうとしたから、慌てて止めに来たのよ。」


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 どうでもいい話

健斗の強さの秘密、その一つは適応能力です!

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