第5話 魔剣使いの仕掛け

 真空に近い宇宙空間では、電子が飛ぶのを邪魔する存在が無いため、むしろ放電が起きやすい。


「<真空放電ディスチャージ>っ!」


 先ほど、レネの水爆弾に対する対抗手段として作り出した16個の鉄球、アレらにはデコイとしての役割の他に、とある仕掛けが施されていた。その正体は刻印魔法、俺は16個の鉄球それぞれに、周囲に電気を撒き散らす術式を刻んで置いた。相手に気づかれずに刻印を刻むのは至難の業であったが、我ながら上手くいった。あとは、最高のタイミングで魔法を発動させれば、ただのデコイは最高の切り札へと変化する。ちなみに、放電のためのエネルギーは、太陽光を利用している。


「<魔力障壁>っ!」


 魔法式を満足に組む事ができないため、回避は不可能だと判断したレネは、咄嗟に魔力障壁を展開して自身の身を守る事を選択した。同時に、彼女はそれまで俺の動きを封じるために張っていた魔力障壁を解除した。

 直後、俺の周りを覆っていた大量の水は、宇宙空間に晒されたため、水蒸気爆発を引き起こした。これまでとは比にならない凄まじい衝撃波が周囲を襲った。それにより、俺自身はなんとか魔力障壁を張ったためダメージを免れたが、俺の周囲を浮遊していた16個の鉄球は何処かへ吹き飛ばされた。

 それにより、放電攻撃は一瞬にして無効化されてしまった。放電攻撃は、鉄球に刻印した魔法式に魔力を流すことによって発動していたため、鉄球が吹き飛ばされてしまっては、魔法を維持できない。それなりのダメージは入っただろうが、ただの人間ならばともかく元S級魔法師が相手では、ゲームセットは期待できない。ノックアウトできていないという事は、どのような方法なのかはともかく、おそらく数秒足らずで回復、もしくは再生して立て直す。きっと彼女も、勝負は再びイーブンになったと勘違いしているだろう。

 だが、少なくとも彼女が回復するまでの数秒は、俺の時間だ。俺は、この絶好の機会を逃さない。


「逃すかっ!」


「っ!」


 魔力障壁を解除した俺は、その隙を逃さないようにレネとの距離を一気に縮めた。途中、右手を前に突き出した俺は、自身の魔剣を手元へと呼び寄せた。


「ルキフェル!」


【わかっているわ。】


「帝国流剣術・・・・・・」


 俺は、間合いの数メートル手前で剣を構えた。

 同じタイミングで、俺がこの場で勝負を決めようとしていることに彼女も気付いたようで、防御系の魔法を展開しようとした。


「魔法式が、組めない?!」


「いつから俺が、第二段階固有魔法魔法破壊を解いたと錯覚していた?」


 先ほどの放電攻撃は、魔法破壊マジックキャンセリングの効果を条件次第では受けない刻印魔法だ。刻印魔法と魔法式魔法の違いは分かりにくい。どちらも魔法式に魔力に流すことによって事象を引き起こす魔法であり、魔法式を自身の魔力回路に書くか、何らかの物体に書くか程度しか違わない。さらに言うならば、魔法式を空間に魔法陣として書くのが魔法陣魔法だ。

 そのため俺は、放電攻撃があたかも魔法式魔法であるかのように振る舞い、レネを騙した。

 魔法式魔法が未だに使えない状態であることに改めて気付いた彼女は、咄嗟に選択を入れ替えた。


「<魔力障壁>っ!」


 魔力が阻害されている状況でも簡単に発動することができる簡易魔法で、正面から受け止めようと試みた。回避はもう間に合わない、武器なしノーウェポンの彼女には剣技で受けるという手段も取れない。だから、俺は彼女がどの防御手段を選ぶかを容易に予想する事ができた。

 だから俺は、魔力障壁の破壊に特化した帝国流の奥義を放った。小さく、技の名前を紡ぐ。


「<奥義・満月・改>」


 向こうの時間軸で2000年ほどの歴史があると言われている剣術、ガラシオル帝国流剣術、ガラシオル帝国が誕生するよりも早くから存在していると言われており、伝統だけは無駄にある剣術だ。魔法が古くから存在するあの世界で、これほどまでに剣術が必要とされている理由は単純で、ガラシオル帝国流は魔法と融合された剣術だからだ。

 帝国流は剣と魔法を組み合わせ、ひたすら勝つ事を追究した剣、その奥義を俺なりに改良した一撃を彼女にぶつけた。


「貴女に受けきれるかな?」


「魔力操作には、自信があります。」


 魔力障壁は、魔力操作技術の高さと込められた魔力量によって硬さが左右される。では魔力操作技術と魔力量の、どちらが優秀なファクターかと聞かれれば、答えは前者だ。込められた魔力量が少なくても、術者の魔力操作技術が高ければ、魔力障壁はかなりの硬さとなる。

 逆に、魔力障壁を撃ち破る最も簡単な方法も、同じ魔力操作技術だ。魔力操作技術で相手を大きく上回れば、魔力障壁はまるで紙同然となり、簡単に破る事ができる。

 俺とレネの魔力操作技術はほぼ同じ。だが、俺には彼女がいる。


「欠けているところがないから、満月は美しい。」


 ルキフェルは、いとも簡単に魔力障壁を撃ち破ると、そのまま刃はレネ自身へと届いた。

 これで決まった。少なくとも俺は、そう思っていた。


「・・・・・・ふふっ、カッコいいセリフを述べているところ申し訳ないですけど、第二ラウンドはこれからですよ?」

___________________________________

 どうでもいい話

相変わらず、タイトルのセンスな無いなと思う今日この頃。

作品のタイトル、このままでいいのでしょうか・・・・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る