第4話 整えられた罠
戦闘において、人が油断するのはどのようなタイミングか、その答えは実にシンプルだ。
それは勝利を確信した時、自身の勝ちを確信したその瞬間、人は大きく油断する。
「<魂の結合>、私が考えた対抗魔法です。」
俺の第二段階固有魔法は、魔剣を中心に半径10m以内の空間に対して無差別に発動する。範囲内に入れば、自身が魔力を使う時も効果を受けるというデメリットがあるが、使用すればほぼ確実に勝ちが確定する。特に、精霊使いが相手ならば、魔力回路への攻撃と周囲の魔力への干渉というダブルパンチとなる。
だから、俺は自分の勝ちを確信した。
だからこそ、油断した。
「なっ!」
固有魔法発動のプロセスに過不足やミスは無かったはずだ。という事は、魔法自体は正常に発動されたということになる。しかし、周囲の魔法陣の破壊には成功したものの、肝心のレネ自身へのダメージは見られないし、体内の魔力の方も安定している。
これらが指し示すことはただ一つ、彼女は精霊使いの弱点である魔力回路を攻撃された際の有効な対抗手段を持っているということだ。
「この魔法は、術者と精霊の距離をより縮めて、魔力回路を安定させる魔法です。」
精霊使いは<魂の回廊>発動中、魔力回路をフル稼働させて精霊と術者の間にパスを作る。だから、魔力阻害のような方法で魔力回路内の魔力の流れが阻害されると、行き場を失った魔力が暴走し、気絶するほどの反動が術者の脳や魔力回路を刺激する。だから、暴走が起こらないように迂回経路を作ってあげれば、気絶することはない。
理屈は分かる。
だが、彼女が<魂の結合>を使ったのは、おそらく俺の第二段階固有魔法をくらった後だ。つまり彼女は、気絶するほどのショックを耐えた上で、魔力が阻害されている状況下で対抗魔法を使ったことになる。
「俺の固有魔法が、破られた?」
「いいえ、貴方の魔法破壊は確かに私の周囲の魔力を封じました。おかげさまで、今の私は複雑な魔法式の構築できません。」
確かに、『魔法破壊』の正体は魔力の阻害であり、魔法式だって組もうと思えば組める。だが、あんなに一瞬で魔法式を組み立てるなんて、正気の沙汰ではない。むしろ、本当に魔法式を組んでいるのかすら怪しい。
だが、どのようなカラクリなのかはすぐに分かった。
「ですが、魔法式を組めないのは私だけです。彼女の方は違います。」
「まさかっ!」
違和感に気が付いた俺は、彼女の背後に目を向けた。俺の嫌な予感は当たった。彼女の背後に控える青いオーラをまとった精霊が光ると、精霊が魔法を使った。
「精霊魔法<水飛沫>」
俺を囲い込むようにして広がる水、それが水の見た目をした爆弾であることは明白、自分自身の第二段階固有魔法の効果によって、魔法式を組めない俺は爆発の寸前で自身の周りに魔力障壁を張った。もちろん、防御のためであり、これしか方法は無かった。
「計算通りです。」
「やべっ!」
反射的に魔力障壁で自身の身体を覆った俺は、遅れてその判断が間違っていたことに気が付いた。
自身を囲む水の塊、水=爆弾という意識が強かったがために、あえて爆発させない可能性を捨ててしまった。
気がついた時には既に遅く、俺は俺を中心に厚さ3mほどの水で囲まれた。防御体制を取っていた俺は、対応がワンテンポ遅れ、完全に出し抜かれる形となった。
「形勢逆転ですね。」
「そのようだな・・・・・・」
俺を中心に俺が張った魔力障壁、大量の水、レネが張った魔力障壁と言った状況であり、俺は完全に封じ込められてしまった。この状況、もし俺が自身の魔力障壁を解けば、おそらくレネも自身の魔力障壁を解くだろう。そうなれば、俺は大量の水爆弾をほぼゼロ距離で浴びることになる。
おそらくは耐えれると思うが、耐えた後に飛んでくるであろうレネの追撃を受け切れるかと問われれば、否だ。ある程度の情報は漏れているとはいえ、どんな手札を隠し持っているかわからない相手への博打ほど危険なものはない。
となれば、俺が今取るべき未来は一つしかない。
「流石は英雄、魔法の組み立て方と細かな駆け引きはどちらも完敗だな。」
「ありがとうございます。それは、降参ということですか?」
「いいや、降参はしない。第一、まだあんたの本気が見れていないからな。」
側から見れば、俺は敗北寸前に見えるかもしれないが、俺には余裕があった。
もちろん、戯言や妄言ではない。緊急回避用のカードは、既に用意してある。
「ですが、この状況、どうやってひっくり返すと?」
「安心しろ、布石ならばもう打ってある。」
一度魔力障壁を解除したら敗北が確定するこの状況、宇宙空間なので身動きすら取りづらく、レネは油断や慢心は一切せずこちらを見ており隙はない。その上、俺は自身の固有魔法のおかげでまともに魔法式を組めない状況となっていた。
「布石、ですか?」
「あぁ、布石だ。」
魔法の組み立て方と細かな駆け引きは完敗したが、どうやら騙し合いは俺に部があったようだ。
「良い事を教えてやるよ。俺は、一人じゃない。」
「まさかっ!」
どうやらレネの方も、俺の狙いに気が付いたようだ。だが、もう遅い。舞台は整った。
「<
俺は、先ほど魔剣を刺した鉄球を起点として、最大火力で放電魔法をぶっ放した。
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どうでもいい話
近況ノート更新しましたので、良ければご覧ください!
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