第3話 武器なしの戦い

「くっそ、こんなにもやりにくいのか。」


 レネの周囲を取り囲む16の魔法陣、それらがそれぞれ固定砲台としての役割りを担い、絶え間なく水爆弾を放った。宇宙空間の気圧が極端に低いことを利用した、宇宙空間だからこそとれる戦術、それに対して俺は宇宙を止まることなく縦横無尽に駆け回ることによってダメージを最小限にした。


「一撃必殺となるほどの威力は無いけど、魔法の質と量がエグいな。」


【水の精霊が、かなり厄介な事をしているわね。】


「くそっ!」


 周囲魔法陣をコントロールしたまま、魔法の連続発動及び複雑な魔法式の構築、この常人には不可能な魔法演算を可能にしているのは、おそらく彼女と魂の回廊で繋がった水の精霊だ。

 雑な攻撃ではあるが、障害物が存在しない宇宙空間では、非常に厄介な戦術であった。俺は、経験の差を深く実感した。

 もちろん、やられっぱなしではない。少しずつそれぞれへの対抗策も確立し始めた。


「<鉄生成ジェネレートアイアン><加速>」


 周囲にスイカほどの大きさの鉄球を16個作り出した俺は、鉄球に力を加えて飛ばし、レネの放った水球にぶつけた。

 レネの魔法によって作られた水球は、より多くダメージを俺に与えるために、直前まで何らかの方法で液体にする必要がある。だから、衝撃を与えて誤爆させた。

 爆心地から十分に距離があれば、そよ風が吹いたぐらいにしか感じない。

 レネの周囲の魔法陣から放たれる水柱の方も、俺は対処法を編み出した。

 それは、魔剣を使って上手く捌くというやり方、正面からぶつかるのではなく、横に受け流して威力を和らげた。直撃さえ気をつければ、それほど困らない。

 だが、俺が適応し始めている事を向こう側も察したようで、レネは攻撃のパターンを変えて来た。


「今度はホーミング付きかよっ!」


 水柱による攻撃が突然止まると、今度は水を纏った矢のような攻撃が飛んできた。しかも、矢の一本一本に追尾機能が付いており、魔力が切れるまでどこまでも追ってくる。

 だが、やることは変わらない。先ほど同様に鉄球をぶつけて回路をこじ開けた。スマートなやり方ではないが、シンプルで俺に合っている。

 今優先すべきことは、レネとの距離を近づけること、この戦い、おそらく一度でも間合いの内側に入れば、俺の勝ちだ。少しずつだが確実に前進し、レネとの距離を徐々に近づけた。


「<加速><鋭利化>」


「させません。<ウォータースピア>」


 今度のはランスの形をした水の塊、どうやらレネは、自身と俺との相対的な距離に応じて使う魔法を上手く切り替えており、対処をより困難にしていた。

 もちろん俺も、無策では無い。

 先ほどの鉄球を使い牽制を行いつつ、攻撃のテンポをずらすことで、レネが一つ一つの行動に迷いを生み出す事を狙った。

 俺が得意とする近距離戦とは違い、遠距離での魔法戦闘は、先に敵の魔法に対処できなくなったほうが負ける。要するに、勝負所は手数の多さと適応能力だ。相手の戦闘スタイルを理解し、少ないリソースで対応しつつ、敵のリソースを削る。


「中々しぶといですね。」


「こっちのセリフだ、よ!」


 鉄球を用いて、全方位から連続した攻撃を浴びせた。直前に展開された魔力障壁に防がれてしまったが、何の問題もない。レネのリソースの一部を、防御に割かせることには成功した。その瞬間に生じた一瞬の隙、それを俺は見逃さなかった。


「帝国流<三日月>」


 鉄球を踏み台にして、間合いの内側へと潜り込んだ俺は、そのまま剣技を放った。レネは、魔力障壁をはって必死の防御を試みたが、俺は続けるようにして次の剣技を放った。


「帝国流<一夜>」


 普段はトドメの一撃として使うこの技を、俺はあえて舞台を整えるための準備として使った。手に持った魔剣を投げて、レネから最も近い鉄球に刺した。上手く刺さったことを確認した俺は、王手となる一撃を放った。


第二段階セカンドステージ<魔法破壊マジックキャンセリング>」


 効果は、魔剣を中心とした範囲内の魔力の動きを阻害するというもの。特に、不安定な魔法や複雑な魔法にめっぽう強く、場合によっては魔法そのものを崩壊させることができる。前回、クリスティア=ヘリフォードと戦った時は、自分への防衛手段として使ったが、今回は違う。


「まさかっ!」


「そのまさかだっ!俺の第二の固有魔法の効果は魔力の阻害だ。その対象には、空気中の魔力や魔法陣はもちろんのこと、体内の魔力回路にも作用する。さて、魂の回廊を使っている精霊使いが、これをまともに受ければ、どうなるかな?」


 対UC戦であれば飛び抜けた戦闘力を見せる精霊使いだが、対人戦闘が根本にある現代魔法学においては、残念ながらかつての地位を落としている。その最たる理由が、精霊使いは固有魔法発動中は魔力回路が敏感になるという明確な弱点を持っていることだ。

しかし、未来は俺の思い通りにはならなかった。


「ふぅ、今のは冷やっとしましたね。」


「なっ!」


 だが、精霊使いとてもちろんそれは知っている。

 そして、知っているということは、当然対策がある。


「<魂の結合コネクトソウル>、私が考えた対抗魔法です。」


 勝負は再び、イーブンへと戻った。


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 どうでもいい話

遠距離戦、書くの難しい

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