第2話 型破りな魔法

「では、参ります。」


「あぁ。」


 魂の回廊によって自身の精霊であるウンディーネとの間にパスを繋げたレネは、早速自身の周りに魔法陣を展開し始めた。人間と同じぐらいの大きさで数は16、それがレネを取り囲むように展開され、一気に魔法陣が構築され始めた。どうやら、向こう側も手を抜くつもりは無いらしい。


「<加速>」


 魔法陣を構築させまいと、俺は定石通りに接近戦を仕掛けた。ネレは、魔法師の中では珍しい武器なしノーウェポン、接近戦は苦手な魔法師であり、遠距離高火力を得意とする魔法師だ。だが、もちろん近づこうとする相手への対処法も存在する。


「<魔力障壁><水生成アクアジェネレーション>」


 レネは、自身と俺の間に大量の水を生成した。一瞬、何がしたいのか理解できなかったが、その答えはすぐにわかった。

 放り出された水は、一瞬で蒸発した。同時に、俺は凄まじい勢いで後ろに吹き飛ばされた。気圧が0に近い宇宙空間では、水は一瞬にして蒸発し、体積が約1000倍となる。さらに、その爆発を魔力障壁によって方向を限定することによって、俺は正面から受けることとなった。

 宇宙だからこそできる戦術、理論は理解できてもそれを実行に移すのは難しい。


「くっそ、こんな方法で!」


【落ち着きなさい、健斗。攻撃が来るわよ。】


「わかってる!」


 俺が一瞬怯んだ隙を見逃さず、レネは魔法陣を完成させた。魔法陣が青く輝くと、16本の水柱が放たれた。てっきりレーザー光線でも飛んで来るかと思ったが、その正体はただの水、だが宇宙空間では水は爆弾だ。


「次から次へと!」


「これが私の戦い方です。」


 精霊の力によって魔法の発動がワンテンポ早くなっており、様々な魔法が複雑に飛んで来た。例えるなら固定砲台、どうやら宇宙空間での戦闘におけるアドバンテージは、向こう側にあるようだ。


「ルキフェル、いつものを頼む。」


【分かったわ。】



 *



「やぁ、僕の知らないところで、随分と楽しそうなことをしているみたいだね。」


「っ!・・・・・・久しぶりだな。」


 健斗とレネの戦いを見守るぜラストの隣に、白と黒の魔力をまとった一人の魔法使いが降り立った。

 かつて、人類と地球の両方を救った二人の英雄は、並んで人類の新たな希望を見守った。


「あれから16年、か。時が過ぎるのは早いものだな・・・・・・」


「あんまり考えたくないよね〜」


「・・・・・・そうだな。この話はお互いに楽しくないな。」


 老いた自分の手を見て、ゼラストは強くそう思った。人類の生活を一変させたあの戦争が終結してから16年、既に赤子が青年に成長するまでに匹敵するほどの時間が経過していた。


「それで?今度は何の用だ?」


「別に用はないよ。でも、健斗くんがレネと対戦するってなったら、やっぱり見たいじゃん?」


「相変わらず子供だな、お前は。どーせ今日も、突然の思い付きでの行動なんだろ?」


「流石ゼラストさん、よくわかっているね。」


「はぁぁ・・・・・・」


 ゼラストは、昔を思い出しながら溜め息を吐いた。

 目の前のこの男は、昔からずっと変わらない。相変わらずのふざけた思考回路、かつ気分屋、そして何より圧倒的な戦闘力、出会ってから既に20年以上経過しているが、彼は未だによくわからない人物だ。まぁ、もう既に慣れたが・・・・・・


「奥さんに怒られても知らないぞ?」


「大丈夫大丈夫、僕怒られたことないから。」


「そうだったな。」


 これ以上考えても無駄だと判断したゼラストは突っ込むのを辞めた。この男の家庭事情よりも、今はもっと大事なことがあったからだ。


「これが、健斗くんの本来の戦闘スタイルか・・・・・・」


 遠視の魔法を使って健斗とレネの戦いを見学するゼラストは、思わず呟いた。レネというかつてない強敵と相対して、健斗は今までとは少し違った戦闘スタイルを見せていた。


「だが、これは・・・・・・」


 ゼラストから見て、健斗の魔法にはいくつもの違和感があったからだ。

 歴戦の猛者であり、かつては人類最強の称号を得た事もあるゼラストだからこそ気付けた違和感。その違和感の一つを言語化するならば、魔法式を構築する際の魔力の動きが少し変な感じがした。他にも、魔法式を構築する際のセオリーが無視されている部分があったり、定石とは違った組み方をしている部分が多く見受けられた。

 もちろん、定石を無視した魔法を組む魔法師は何人か存在する。だが、デビューしたての魔法師が、同時に複数のセオリーを無視した魔法式を組むのはおかしい。定石というのは、人類が60年以上かけて編み出した教科書だ。それが絶対の正解というわけではないが、普通はその用意された正解に従うものだ。

 だが、健斗は違う。

 健斗の魔法は、まるで別の教科書を読んで魔法を学んだかのような、全く別の魔法理論に基づいていた。


「アレは何なんだ?」


「全く新しい魔法理論、だね。」


「それは私もわかる。だがそんなことが、16歳の少年に可能なはずが・・・・・・」


 定石や教科書は、確かに一つの答えだ。それに忠実に従えば、誰もが一定以上の実力を身につけることができる。だがそれは、万人にとっての定石であり、教科書だ。

 新しい魔法理論の構築、それすなわち自分だけの定石や教科書の作成、魔法の極端が固有魔法だとすれば、こちらは極地の中の極地、S級魔法師の中でも片手で数えられるだけしか到達していない領域だ。それを、わずか16歳の子供がやってのけた。

 しかしその疑問に対する明確な答えを、世界で最も早くその場所に辿り着いた人物である黒白は持っていた。


「僕と同類なんだと思うよ。おそらくだけどね。」


「っ!まさかっ・・・・・・」


 黒白の言葉に、ゼラストは素直に驚いた。黒白の言葉が本当なら、数十年かけても自分が届かなかった極地に、彼は届いたという事になる。


「頑張って、健斗くん。君の力は僕にまで届き得る。」


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