第19話 sideシーナ4
「心意魔法の発現にはまた至ってありませんが、体術、剣術、魔法などのあらゆる分野で他を凌ぐ技術を習得しました。総合力ならば、私やトワトリカ様に匹敵するほどに成長しました。」
「彼がこちらの世界に来て3年と少し、心意魔法の発現には届かなかったか・・・・・・」
「はい・・・・・・」
私は父親である皇帝陛下の言葉に頷いた。健斗は、常人には真似できない驚異的なスピードで成長したが、肝心の心意魔法の発現だけは達成することができなかった。
そしてそれは、健斗の評価を落とすには十分な根拠であった。
「余との約束は、覚えているな?」
「はい、わかっております、お父様」
「其方の意見を聞き入れて、我が軍は徹底した遅滞戦術を展開してきたが、そろそろ限界だ。遅滞戦闘は逆転できる可能性があるからこそ選べる選択肢、勇者候補が覚醒に至れなかった以上、作戦を変える必要がある。」
「はい・・・・・・」
私は、お父様との約束を思い出しながら頷いた。
それは、健斗が覚醒するまでの間、ガラシオル帝国軍は遅滞戦闘に徹して時間を稼ぎ、健斗の覚醒と共に大規模な反抗作戦を行うというものだ。だが、この作戦の根幹である健斗が覚醒に至れなかったため、帝国軍は作戦の変更を決断した。
そしてもう一つ、勇者候補である健斗の扱いも変更されることとなった。
「わかっていると思うが、我が軍には能力のあるものを遊ばせておく余裕はない。其方、トワトリカ殿、メルン殿、そして勇者候補には、我が軍の指揮下に入ってもらう。良いな?」
「はい、お父様」
私は皇女として、帝国軍の現状をしっかりと把握している。故に、私は頷くしかなかった。いや、頷かないわけにはいかなかった。
帝国はこれまで、文字通り領地を削りながら遅滞戦闘を繰り返してきた。既に、領土の3分の1を魔王軍に占領されており、ここで巻き返しを図らなければ、一気に押し込まれてしまうかも知れないことは、私も理解していた。
「これが其方らの所属先だ。出立は明後日の早朝、それまでに準備しておいてくれ。」
「これはっ!」
側近の1人から配属先の書かれた紙を受け取った私は、そこに書かれた内容を見て驚いた。
「何か問題があったか?」
「いえ、何も。それでは、失礼します。」
一礼して、私は健斗の元へと戻った。
*
「先ほど、皇帝陛下から新たな命令を頂戴致しました。」
「新たな、命令?」
「はい。私たちに、従軍命令が下りました。」
「従軍・・・・・・」
私の言葉に、健斗は驚きながらもその言葉の意味を理解した。
「タイムオーバー、ということか・・・・・・」
「はい。皇帝陛下より、トワトリカさん、メルンさん、健斗さん、そして私の4名に第7師団へ従軍命令が下されました。また、私たちは明後日の朝早くに王都を出立することになりました。」
「こうなることは予想していたが・・・・・・想像以上に早かったな。」
「はい・・・・・・」
魔王軍との戦力差は想像以上であり、ガラシオル帝国が設定した第一、第二防衛ラインは既に突破されてしまった。残るは、超えられたら負けの最終防衛ラインのみ、もう残された猶予は少ない。
逆に言えば、それだけお父様は健斗に期待していた。お父様も、健斗の力を認めていたのだろう。
「それで?俺たちが配属される事になった第七師団って言うのは?」
「ガラシオル帝国に存在する7つの師団のうち、最も自由な師団です。私たちは、そこの特別遊撃部隊に任命されました。」
「そうなのか・・・・・・」
特別遊撃部隊、ようは少数精鋭で敵の陣地に突撃し、指揮官を葬る部隊だ。危なくはあるが自由時間が多く、私たち4人にとっては理想とも言える部隊であった。そしてもう一つ、私はとある期待をしていた。
「そう言えば、例の声はどうなっていますか?」
「今でも戦闘中たまに聞こえることがあるが、たいていは嫌みか皮肉だな。彼女からすると、俺の魔法はダメダメらしい。」
「いったい何者なのでしょうか・・・・・・古い文献をあらかた読みましたが、彼女の存在は何処にもありませんでした。」
今からだいたい1年前、健斗は不思議な力を手にした。まぁ、力と言っても特別な魔法が使えるようになったとかではなく、時々誰かの声が聞こえるようになったらしい。
健斗自身もよく分かっていないらしいが、それでも彼女の存在は健斗にとってプラスに働いていた。
「訳の分からない奴だが、言っていることは大半が正しい。たまに、無茶苦茶なことを言い出すがな。」
「無茶苦茶なこと、ですか?」
「あぁ、こいつの提案する魔法理論は全て奇想天外、おそらく俺のことを人外と勘違いしていやがる。」
「そうですか・・・・・・」
健斗だけに聞こえる謎の声、私はこの声に大いに期待をしていた。
どうして彼だけが聞こえるのか、どうして彼に語りかけているのかは分からない。だが、私はそれが特別な力であることを確信していた。
「何度も言っておりますが、私はその声が最強へと繋がっていると思います。どうか、その声を大切にし、その声に従って下さい。」
「わかっている・・・・・・」
こうして私達は、戦いへと身を投じることとなった。
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どうでもいい話
私あるある、中途半端なところで章が切り替わる。
こちら、昔からずっとそうです。
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